Ⅳ.病院のヒト・モノ・カネ


医学には長い歴史があり、病院を社会的歴史的存在として理解した上で、医療を必要とする患者さんに安全な医療を提供する一方で、先端の生命科学を吸収し、医師をはじめ多くの高度医療専門職のチームにより、情報システムを駆使して、医療機能を最大限に発揮できる建物の中で最先端の高額な医療機器と複雑なマネジメントを展開し、その病院の提供できる医療の質を最大化しつつ経営継続性を確保しなければならないという使命を達成することは並大抵のことではありません。

 病院のヒト

医師をはじめ医療従事者は、病院とか医療がどのようなものかを体験的に理解していますが、医師でも30病院以上で勤務経験があるという人を見つけ出すことはかなり困難で、逆に生涯で2ないし3病院でしか勤務経験がない医療従事者も少なくありません。それゆえ、医療従事者が医療や病院に対する共通認識を共有しているかどうか必ずしもわかりません。病院とは何か?という問いに対して、例えば、医学の社会的適用の場だと答えるとします。確かに、それは答えなのかもしれませんが、そのことの意味が共通のイメージとなり、共に働く医療従事者の共通認識だとは、どうしても考えられません。しかし、病院などの医療提供施設の事細かな施設規定・運営方法・安全基準や医療従事者の名称、業務内容、資格取得条件、欠格事項あるは医療費に関する請求や支払いのこと細かなルールについては、全て明文化した法令によって定められています。その全てを理解することはかなり厄介なことですが、どこを調べればわかるかといった知識は最低限必要です。ほとんどの医療従事者は、自らの業務遂行に不可欠なルールを理解しているに過ぎない場合が多いのです。別の言い方をすると、病院や医療についてのヒト・モノ・カネという経営資源や個人情報の守秘義務に抵触する大量の情報のすべての運用方法について熟知することは、かなりの労力を惜しみなく投入しなくてはならないのです。

日本では病院で働くヒトを「病院職員」や「医療従事者」と呼んでいますが、医師と医師以外を分ける言葉としてコメディカルといういい方があります。実は、1980年代以前の日本でも、現在英語圏で使用されるparamedicまたはparamedical staffと呼ばれていたのですが、接頭辞のparaが「補足する」「従属する」という意味であるので、パラメディカルは医師の補助をする職種という意味では好ましくないので、チーム医療推進の立場から「協働する」という意味でcoを冠してコメディカルという和製英語を使用することになりました。ただし、少なくとも英語表記でcomedicalでは、英語圏で意味が伝わらない恐れがあります。医師についてはdoctorかmedical doctorが一般的ですが、米語では内科医と外科医を分けることが多く、医師、歯科医師、薬剤師、RDと呼ばれる登録看護師(Registered Nurse)等の総称としてHealth Professions(医療専門職)と呼ばれることが少なくありません。また、これらの医療専門職と同盟関係(Allied)で働く医療従事者をAllied Health Professions(同盟医療専門職)と総称しますし、少なくとも英語圏では、この言葉が一般的です。厄介なことに、医師と同等の学位と考えられることもある医療系の修士号あるいは博士号などを保有する医療従事者の多くは、Health Professionであり、Allied Health Professionsではないという言い方をすることもあります。どうでもいいことのように思われますが、病院組織での専門性や職種別優位性や、学歴や修士号以上の学位の保有状況が、組織内の確執の温床となったり、業務遂行上の混乱や労務管理上の問題が生じる場合もあります。それゆえ、国際的に最も穏やかな呼び名として、医療従事者(メディカルスタッフ)という呼び方があります。しかし、これに対しても、「ノンメディカル(医療従事者でない)だ」(侮蔑的に「助手が」とか「事務屋が」など)といわれることもあるという理解が必要なのでしょう。

何も病院職員だけではありませんが、まず大学卒かそれ以外か、修士以上の学位があるかどうかという判断が先行する組織体があります。何らかの国家資格の保有者かどうかや、国家資格保有者間の教育内容の難易度などが、年功序列より優先され、明らかに職業上の男女差別などが存在するということが病院にもあります。このようなことが病院のヒトの管理に影響を与えていることを認識し病院管理を進めることが必要です。

病院にとって優秀な医師の確保は、病院の経営継続性にとっても、地域医療を確保するためにも最重要課題となります。48(昭和23)年に制定された医師法・歯科医師法の「根本的な考え方」は、「医療を担当する立場にある医師、歯科医師の資質をできるだけ高い水準に置くとともに、他面、資格を取得した医師及び歯科医師に対しては、国民保健の見地からの最少限度の規制をするにとどめ、医師及び歯科医師にできるだけ自由にその技能を発揮せしめ、両々(りょうりょう)相まって国民に適正な医療を与えることができるようにしようということにある」(厚生省医務局編集・医制百年史(記述編)1976.P399)という記述が残っています。このことからもわかるように、わが国は医師歯科医師に性善説の立場で、高学歴で比較的高い職業的専門性を法律的に認めているといえるでしょう。それゆえ、高学歴で高い社会的地位が認められているものとして「社会の模範となるように振る舞うべきだ」という多くの人々からの無言の要請であるノブレス・オブリージュ(nobless oblige)が求められているのです。

日本の医師法では、医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことを「医業」と規定しています。その上で、医師、歯科医師、看護師等の免許を有さない者による医業は、医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条その他の関係法規によって禁止されています。しかし、「ある行為が医行為であるか否かについては、個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要があるものの、近年の疾病構造の変化、国民の間の医療に関する知識の向上、医学・医療機器の進歩、医療・介護サービスの提供の在り方の変化などを背景に、高齢者介護や障害者介護の現場等において、医師、看護師等の免許を有さない者が業として行うことを禁止されている」というので、医療行政の範囲で「医行為」の範囲を時代とともに例示しているのが現状です。

ただし、わが国で医師等しかできない「医行為」の範囲は、国際比較すると極めて広いといえます。各国の事情に大きな差がありますが、一般的に多くの戦争を体験してきた国ほど範囲が広い傾向にあります。例えば、米国の救命救急士やナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner,NP)は、一定レベルの診断や治療などを行うことが許されています。一方日本では、原則として診断や治療は医師でなければできないし、不思議なことに診断や治療のほとんどは医行為と考えられています。さらに、医業の規定はありますが、医療(healthcare)の定義は、法律の条文に明文化されていません。したがって、healthcareとは「医療専門家やアライド・ヘルス・プロフェションが提供するサービスを通じた、病気の予防、治療、管理、および心身の健康の維持である」という国際的な医療の理解は、日本では必ずしも通用しません。

病院のヒトということになれば、まず、医師、看護師が思い浮かびますが、全ての日本の病院に勤務する職員のうち医師は22万人弱、看護師は80万人強で、病院職員の10.4%と38.5%を占めます。表1は2007年と2017年の病院職員数を比較したものです(資料:厚生労働省の医療施設調査)。

この表から10年間の病院職員総数を比較してみると増加率は20.4%、約35万5千人増加しています。この間病院医療費が延びても、職員数が20%以上延びている事実は、正確に理解する必要があります。看護師は、この期間に3割増加していますが、准看護師や看護業務補助者は、むしろ減少傾向なので、看護職計では11.5%増加しているに過ぎません。はっきりわかるのは、10年間で理学療法士が125%、作業療法士107%、言語聴覚士134%に増加したことです。社会福祉士も257%と急増しています。これらの職種は、リハビリテーション医療が社会的に評価され、回復期リハビリテーション病棟の増設に伴う増員であると考えられます。社会福祉士の急増は、リハビリテーション医療の普及の影響とともに高齢入院患者の急増や入退院支援の強化などが影響していると考えられます。わが国のリハビリテーションは、国際的にみればセラピストの量としては、最先端と考えても良いですが、今後も急激に養成されるリハビリテーション職種を病院で吸収することになれば、病院職員は増加せざるをえないことは明らかです。

つぎに、管理栄養士と栄養士を見比べて下さい。病院の管理栄養士が増加し、栄養士が減少していることがわかります。20(令和2)年の診療報酬改定でもICUへの管理栄養士の配置が新設されました。この10年間の診療報酬や介護報酬では、咀嚼嚥下などを含めて広い意味での栄養関係報酬が評価されてきました。このことは栄養専門職を増加させましたが、特に、管理栄養士の必要性が再認識されていると考えるとわかりやすいでしょう。

さらに、この10年間で病院の事務職員は38.1%増加していますが、この増加率は医師よりも看護職計より急激で、病院マネジメントは複雑化・高度化・情報化され多くの職員が必要になっている現状を理解する必要があります。

 多様化し増加する病院人

病院に勤務する職員の多くは何らかの公的資格を有するヒトです。これらの人を一括して医療従事者と呼ぶことができますが、その種類は多数です。医師・歯科医師・薬剤師については隔年の年末時点で医療に従事していれば行政に届け出る義務があります。病院に勤務している医療従事者については毎年10月1日現在で、以下30種類の①医師、②歯科医師、③薬剤師をはじめとする公的有資格医療従事者ばかりではなく㉗その他の技術者、㉘医療社会事業従事者、㉙事務職員、㉚その他職員の勤務状況について報告を求めています。

⑨理学療法士⑩作業療法士は1965年に国家資格化、⑪視能訓練士は71年、㉓管理栄養士が85年、87年に社会福祉士、介護福祉士、臨床工学技士、義肢装具士が、97年に言語聴覚士と精神保健福祉士が追加され国家資格有資格者となりました。このように医療の高度化、病院職員の専門分化により医療従事者の種類は増加してきましが、医師・歯科医師の臨床研修義務化や医療従事者各職種の学士化や大学院教育での修士化、専任認定制度の確立により、医療従事者全体の高学歴化専門職人化が加速されてきました。なお、保健婦助産婦看護婦法は、2001年に保健師助産師婦看護師法に改正されています。

このようなことを理解すると、病院のヒトの管理が複雑で、採用、教育研修、キャリア開発などの仕組みを病院内にあらかじめ作り上げなければならないことが理解できると思います。

なお、病院職員として必要な医療従事者数の標準数の算定については、医療法および医療従事者各法に規定があるほか、診療報酬に規定されているものもあります。なお、労働基準法をはじめとする一連の労働者保護法については、当然すべて適用されます。

 医療のモノ

 病院は、各種医療従事者とともに20人以上の入院が可能な建物・設備および診療緑をはじめ各種記録を保管更新し、さらに情報システムを兼ね備えなければなりません。これらの病院が病院である規定は、医療法がベースとなっています。GHQの指導を受けて制定された医療法は、当時の米国の常識が詰め込まれた理想的基準ではありましたが、戦後復興の過程でそれらの条件をすべて満たすことは困難だったようです。それは「『病院は傷病者が科学的で且つ適正な診療を受けることができる便宜を与えることを主たる目的として組織され、且つ運営されるものでなければならない』と定義され、病院長には病院管理の権限と責任とが課せられるに至りました。医療法の規定する病院基準は高く,これに則って病院を復興することは困難であった」という記録(日本病院会30年史、1984.P1)からも読み取ることができます。

 医療法の改正経過

そんなこともあり、1948(昭和23)年に制定された医療法は、終戦後、医療機関の量的整備が急務とされる中で医療水準の確保を図るために病院の施設基準や総合病院等を創設し整備したもので、以後38年間改正されることはありませんでした。その後、以下のように現在まで第8次まで改正されているので、ごく簡単に説明することで、その時ごとの病院の課題について確認していきます。

85(昭和60)年に第1次医療法改正法が成立し、翌年施行されました。改正の趣旨は、医療施設の量的整備が全国的にほぼ達成されたことに伴い、医療資源の地域偏在の是正と医療施設の連携の推進を目指したもので、二次医療圏ごとに必要病床数を設定し医療計画制度が導入されました。また、医療法人の運営の適正化や1人医療法人制度が導入されました。

92(平成4)年に人口の高齢化等に対応し、患者の症状に応じた適切な医療を効率的に提供するための医療施設機能の体系化、患者サービスの向上を図るための患者に対する必要な情報提供等を目的に第2次改正が進められ、特定機能病院と療養型病床群の制度化が行われました。

97(平成9)年の第3次改正は、要介護者の増大等に対して、介護体制の整備、日常生活圏における医療需要に対する医療提供、患者の立場に立った情報提供体制確保のための、インフォームド・コンセント法制化(努力義務)、医療機関の役割分担の明確化が行われました。具体的には、診療所への療養型病床群の設置、地域医療支援病院制度の創設、医療計画制度の充実および連携の促進が求められ、圏域ごとに地域医療支援病院、療養型病床群の整備目標、医療関係施設間の機能分担、業務連携が規定されました。なお、総合病院の規定は廃止されました。

2000(平成12)年の第4次改正は、良質な医療を効率的に提供する体制を確立するため医師の臨床研修を必修化するとともに入院医療を提供する体制の整備等を行ったもので、介護保険制度創設や高齢化の進展等に伴う疾病構造の変化等を踏まえ、療養病床、一般病床の区分を創設しました。

 以上の第4次改正までの改正内容は、戦後の病院医療の絶対的不足時代から、都市部を中心に病床の量的均衡による医療計画化、医療の質の改善、高齢者医療と介護保険との関係の再調整という医療需給関係の変化と人口の高齢化の影響を強く受けたものとなっています。しかし、第5次改正以降は、医療の質の向上を目指しつつ、医療費の増嵩に対する医療機関の再編成と医療法人制度の改組という方向に転換したといえます。

 2006(平成18)年の第5次改正は、医療機能の分化・連携、医療安全の確保、医療従事者の資質向上、医療の情報提供の推進とともに、新規医療法人設立時に持ち分なしのみに限定し、社会医療法人制度を創設しました。

 2014(平成25)年の第6次改正は、「社会保障・税一体改革」に基づく患者の状態に適した良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を構築するため、病床機能報告制度と地域医療構想の策定、認定医療法人制度や医療事故調査制度を創設しました。

 2015(平成26)年の第7次改正は、地域医療・地域包括ケアの充実の推進による地方創生や医療法人経営の透明性の確保とガバナンス強化による非営利性の確保の観点から、地域医療連携法人制度が創設されました。

2017(平成29)年の第8次医療法改正では、特定機能病院の安全管理体制の強化や、医療法人の運用に関する施策等とともに「医療機関のウェブサイトに関しても医療広告と同様に虚偽や、誇大な広告を罰則付きで禁止する」ことが規定されました。また、持ち分なしの医療法人移行計画認定を3年間延長されました。

 モノの基準

病院を適正に運営管理していくためには、医療法をはじめとする多くの関係法令で定められた規定を遵守することが必要となります。その内容は広範囲にわたり、ヒトの配置基準以外に構造設備、清潔保持、各種診療記録・帳票類、個人情報保護、給食、放射線設備などについて、各種法律の適用を受けます。第5次医療法改正により、病院管理者には医療の安全を確保するための措置を講じることが義務づけられ、院内感染対策、医薬品安全管理、医療機器安全管理を含めた医療安全管理体制を整備することが求められました。また、医療法の改正のみに留まらず、災害対策、児童虐待防止なども広義で医療安全に関連します。病院のモノである建物や設備に関しては、医療法上各種規定がありますが、比較的大規模な建物であり安全性の確保が最優先されるため各種の法律を遵守する必要があります。関連の法律名には、消防法、建築基準法、建築物耐震改修促進法、建築物の耐震改修の促進に関する法律、電気事業法、高圧ガス保安法、水道法、浄化槽法 、水質汚濁防止法、下水道法、廃棄物処理法、食品衛生法、毒物及び劇物取締法、放射線障害防止法、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、電波法、水防法などのモノの設置基準や取り扱い基準があります。ヒトに関する各法令の中にも設備・物品の基準がある場合があり、例えば労働安全衛生法、感染症予防法、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律、労働基準法、労働者派遣法、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律などにも設備や物品の規定があります。なお、つぎの病院のカネで説明する診療報酬の各種規定にも、ヒトとともにモノの規定があるのです。

 病院のカネ

 病院のカネの源泉は、まず、公費か私費かを区別することができます。さらに、病院のイニシャル・コスト(初期費用)とランニング・コスト(運転資金)に分けることができます。例えば、双方とも公費が原則の病院から全てが私費という場合もあります。ランニング・コストは、診療報酬などの社会保険医療収益、被保険者の一部負担(患者の窓口負担)、各種公費負担医療制度、自費、各種補助金や寄付金で賄われています。

公表されている2017年の病院医療費の総額は219,675億円で、このうち病院入院医療費が158,228億円、病院外来医療費が61,447億円でした。この金額を2007年と比較すると順に26.9%、30.4%、18.7%になります。この10年間の比較ではありますが、病院医療費は高い伸び率を示しています。また、外来より入院の伸びが高くなっています。その結果として、病院収益における入院医療費がしめる比率は72%を超えています。

病院の医療収益の4分の3程度は、医療保険から支払われる診療報酬です。前述のように1922(大正11)年に工場や鉱山の労働者を対象に制定された健康保険法は27(昭和2)年に施行されました。続いて、農民等を対象とした国民健康保険法が38(昭和13)年に制定・施行されました。国民健康保険は、地域住民を対象とする市町村単位の普通国民健康組合と同種同業の者を対象とする特別国民健康保険組合に分かれていました。さらに、サービス業に従事する人を対象とする職員健康保険法および船員を対象とする船員保険法が39年(昭和14)年に制定されました。こうした医療保険制度は、戦後も継続されましたが健康保険が整備されていない中小企業で働く人とその家族や、国民健康保険を実施していない市町村に住んでいる人などは、カバーされていませんでした。

そこで、58(昭和33)年から3年間で全ての人が何らかの保険でカバーされる国民皆保険が達成されました。その後、72(昭和47)年に老人福祉法が改正され、70歳以上(寝たきりの場合は65歳以上)の高齢者の医療保険の自己負担分を国と地方自治体が給付することとされ、翌73(昭和48)年から老人医療費の無料化実施されました。しかし、老人医療費の著しい増大に対し、高齢者の医療費の負担の公平化を図るため、82(昭和57)年に老人保健法が制定されたのです。新たに導入された老人保健制度では、無料の医療から老人医療費の一定額を患者が自己負担することになりました。このため、2000(平成12)年に老人医療費の患者自己負担は1割負担となり、かかった医療費に応じて負担する仕組みに改められるとともに、介護保険制度が導入されました。その際、定額負担から定率負担になったとはいえ、高齢者は収入が高くとも自己負担が1割であり、他の世代は3割負担という世代間の不公平を軽減するために、3歳未満の子どもについては、患者自己負担を2割にするという負担軽減が行われました。さらに02(平成14)年には、現役並みの所得がある高齢者については2割負担に引き上げられました。また、老人保健制度の対象年齢も、平均寿命の伸びによる対象者数の増大などを受け、それ以後5年かけて、段階的に70歳から75歳に引き上げられたのです。

診療報酬とは、保険医療機関等が行う診療行為に対する対価として公的医療保険から支払われる報酬であり、①保険適用とする診療行為の範囲を定める「品目表」であるとともに②保険適用とされた個々の診療行為の公定価格を定める「価格表」です。このような診療報酬、薬価等については、厚生労働大臣が決定する権限を有しており、決定に当たっては、厚生労働大臣は中央社会保険医療協議会に諮問することとされています。

病院のカネという観点で日本の医療保険制度と診療報酬の仕組みを考えてみると、少なくともつぎのように理解することができます。

⑴国民皆保険のため必要な時に全国どこでも病院に受診することができる。

⑵全国で統一的な公定料金である診療報酬点数表が適用されるので、病院側に診療報酬上の医療サービスに対する価格決定権がなく需給関係に影響されない。

⑶原則2年に一度診療報酬改定が行われるたびに病院が対応せざるをえない。

⑷診療報酬を請求するには保険医療機関となると同時に、医師が保険医として登録することになっており、療養担当規則等に従って医療サービスを提供する義務がある。

⑸病院の経営継続性を行政が担保することはないので、自主経営を強いられる。

このように考えてみると改めて病院経営は、そう簡単ではないし、病院の種別や規模、地域の社会経済動向や医療機関同士の競合状態によって千差万別であるともいえます。

 病院の経営

病院の経営という観点でみてみると、診療報酬は改善されず、病院職員数は増加し、入院患者も人口も減少しているということになれば、医業収益から医業費用を減じた医業利益が、年々圧迫されていることは確かといえます。つまり、病院経営は、今や増収減益があたり前の時代になって久しいということです。病院を取り巻く環境が変化したということを認めることが必要となります。なお、病院の入院患者の73.3%は、65歳以上高齢者で、このすさまじい入院患者の高齢化が、わが国の医療を大きく変化させたことは間違いないでしょう。

病院の経常利益も減少しています。通常、経営の継続性を担保するには損益分岐点以上の利益がなければなりません。つまり、利益がマイナスということが数年続けば、もはや経営危機と判断するしかないのです。病院経営は、今や2年後3年後の経営ビジョンも描けなくなっています。はっきりしていることは、過去20年間と比較して、病院経営は改善の兆しもなく、経営的には、少なくとも3割程度の事業体が経常利益を確保できないままというのが現実なのです。

このような経営実態にかかわらず、政財界や制度・政策を司る行政関係者の間では、診療報酬などの、いわば公定料金をもっと引き下げることができるのではないかという判断が先行しているとしか考えられません。そのように考える理由は、国の財政状態であり、なんとか社会保障費負担の軽減ができないかという財界の後ろ盾があるのでしょう。病院経営サイドからみれば、このような要求を政治的財政的行政的災害と考えざるをえない状況にまで追い詰められているという見方もできます。

だが、時代とともに医療の需給関係自体が大きく変化していることに細心の注意を払わなければ、これまでの経営手法では通用しない時代となっています。実際の経営では、いわば公定料金である報酬改定に即応せざるをえない側面と、報酬改定の先を見越した選択とか組織の価値観や経営方針から5年先の経営形態を模索する側面があることになります。経営的にみれば、どのように考えても前者より後者が重要です。

医師や看護師の確保が困難という状況に大きな変化はありませんが、給食・掃除・洗濯などをはじめ何しろ職員募集しても応募者がいない状況です。深刻な働き手不足は、何も医療や介護分野だけの話ではないですし、超高齢社会の必然的現象に真正面から向き合うしかありません。定年延長や高齢者の定義の変更などが議論されることが多くなりましたが、働ける人には労働環境を工夫する必要があります。海外の人々の協力をえるのであれば、これも細心の注意と国際的世論を前提とした配慮が必要でしょう。人口減少社会は現実であり、人口が少ない自治体はいずれ維持できなくなります。人口減少、人口構造の変化は、人為的に対応することが難しく、重要な政策課題ですが有効な解決策が乏しいのが現状です。これらの問題は、病院からみれば、どう考えても社会的災害として認識せざるをえず、対応する必要があるでしょう。

結局、診療や介護報酬が大幅に引き上げられる状況にはなく、働き手の確保は難しく、競争が激化するという社会的災害を防止することは、かなり困難であるのが現実です。

わが国で病院の経営問題が真剣に考えられるようになったのは、たかだか50年、特に民間病院の経営に関心が高まったのは老人保健法が成立した1983年以降ではないのかと思われます。しかし、日本経済は実質経済成長できず、公定料金の報酬は改善の兆しもなく、少子高齢化は進行し、人口は減少し、働き方改革が病院経営に災いを与え、病院間の地域内競争は激化している現状です。全国各地の状況をみると診療圏ごとに共倒れを防ぎ、地域医療を確保するという選択肢が現実的である場合が多いのです。