筒井孝子 著『ナーシング・トランスフォーメーション ー看護必要度によるリスキリング』

 看護必要度は、筒井孝子先生の名前と分けがたく結びついている。なぜならば、看護必要度のプロトタイプは、実際の病院内で行われている看護に関する膨大なタイムスタディ結果を統計解析し、システムとして開発されたものだか
らである。
 2022 年度診療報酬改定の最大の争点は、公益裁定までもつれ込んだ「重症度、医療・看護必要度」だったことは記憶に新しい。例えば、項目を人為的に変化させると、特定集中治療室をはじめ、医療業界では「急性期病床」と判断されてきた病床を利用している患者さんが「急性期ではなくなる」ということが起きる。
 自分たちが実践している医療が「急性期」であると自己規定しているにもかかわらず、そうではないと判断されると高い診療報酬を算定できなくなるのだ。今回の議論の推移を注視していた者として「はたして看護必要度は理解されているのだろうか」という疑問を抱かざるを得ない。論点のひとつとなった「心電図モニターの管理」の項目があるが、急性期には必要不可欠なのか、モニターの管理をしていれば「急性期」だと言い張れるのかといった不毛な議論が展開されたことは、医療の品格を貶める危惧があったのは事実である。 
 残念なことに、「重症度、医療・看護必要度」を診療報酬請求のため看護師が毎日記録を「入力させられている」としか理解されていない病院もある。なぜ、毎日入力し膨大なデータが蓄積されているものを病院内で活用しようと考えないのかとか、国は膨大なビックデータをしっかり管理して、定期的に分析して国民医療の質の向上に役立てようということを積極的に考えないのかという疑問がある。まさか国が進めているデジタル・トランスフォーメーションに厚生労働省も病院も地域も追いついていないというのであれば、何とかして欲しい。
 しかし、実務ベースでは、看護必要度は看護マネジメントの貴重なツールとなりつつあるし、看護必要度のデータを用いて院内の多職種協働をすすめることでマネジメント力の向上を図ることが可能となるという事例が積み重ねら
れているのである。
 COVID-19 によるパンデミックは、医療のあり方を大きく変貌させたことは確かだろう。そして、このことは改めて感染症対応や地域における連携問題、ICT の活用やロボットについて医療、保健福祉、介護領域で働く、多くの専門職種に必然的にリスキリング(職業能力の再開発・再教育、組織内で新たに必要となる業務に人材が順応できるための再教育)の必要性を投げかけたのである。
 本書の構成をみてみよう。


第1 部 理論編
 1章 看護必要度の開発とこれまでの経緯
 2章 日本の入院患者の実態を明らかにした
「看護必要度」
第2部 演習編
 3章 多職種協働のための前提条件
 4章 多職種協働の実際
 5章 患者中心アプローチを実現するための
多職種協働
第3部 展開編 
 6章 リスキリングのすすめ


 本書は、「重症度、医療・看護必要度」を使って病院に有利なように診療報酬を算定することについては、当然何も書かれていない。膨大な自院の看護必要度のデータを用いて院内の多職種協働や地域包括ケアシステムをすすめるマネジメント力の向上を目指す人々に対して今、何をしたら適切なマネジメントを進められるのかという現場の観点からまとめられたリスキリングのための1 冊なのである。
 したがって、当面の読者は、急性期病院のリーダーナース、主任、看護部長などであるが、本の中で提供されている事例は、兵庫県立大学大学院経営専門職専攻課程の修了生である医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、言語聴覚士の皆様であることから、経営管理職を含めた多職種の方々にもお勧めしたいと思う。
(兵庫県立大学大学院経営専門職専攻 小山秀夫)

社会保険旬報 No.2853 2022.4.21 掲載