医療・介護・福祉サービスの分野でのICT利活用に業界官界総出で取り組んで欲しい

医療・介護・福祉サービスについてのデジタル対応については、政府も強力に推進したいという方針を明確にしています。日本医師会は、医療の専門家集団として、医療現場のICT化を推進するため、各種の検討や医療DXを進めるための活動を強化しています。しかし、オンライン診療については「遠隔診療は、あくまでも直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである」との従前の厚生労働省の見解を尊重して、無制限なオンライン初診には慎重な姿勢を崩していません。

診療情報のビックデータともなる電子カルテの利活用に関して議論も盛んに進められていますが、システムの統一性とか、費用負担の在り方に関しては膠着状態のように見受けられます。デジタル庁が設立され各種施策が推進されるのでしょうが総論賛成各論異論で、デジタル対応を推進するエンジンがフル稼働していないのではないかと思います。より踏み込んでよければ、オール霞が関で推進するという雰囲気は感じられません。官界がもたついているなら、医療・介護・福祉サービス業界はどうかといわれれば、一部の先駆的な組織を除き未だ本気モードでは、ないといえるのではないかと思います。

総務省は年度末ギリギリの29日、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン(GL)」を策定し、自治体などに通知しました。15年3月にまとめた「新公立病院改革GL」以来、7年ぶりの見直しとなり、さぞ立派なものなのだろうと読んでみましたが、がっかりしました。

当然、公立病院はどうするのかということについての記述ばかりですが、令和2年度の多額の感染症対応に関連する多額の補助金でほとんどの病院が欠損金を計上せず、黒字化するという約50年ぶりの快挙に、経営強化の要請はトーンダウンしているようにしか読めませんが、経営問題の本質は何も解決していないのです。

特に残念なのがICTへの取り組みで、「情報システム等の整備を行う場合は、病院事業債(特別分)の対象となるので、参考にされたい」とは書かれていますが、何をどうしたら良いのか右往左往している公立病院には判断困難かもしれませんね。驚くのは「デジタル化への対応」で「マイナンバーカードの健康保険証利用」については書いてあるものの、つぎのように続いているのです。

「デジタル化に当たっては、近年、病院がサイバー攻撃の標的とされる事例が増加しているとともに、医療において扱われる健康情報は極めてプライバシーに機微な情報であるため、厚生労働省の医療情報システムの安全管理に関するガイドライン等を踏まえ、情報セキュリティ対策を徹底するよう留意すべきである」。

政府は、デジタル化を強力に推進する方針ですが、自治体病院にはデジタル化推進も医療DXという言葉もないのです。多くの公立病院の職員と接することが多いわたしとしては、公立病院のデジタル化に関して病院組織全体で取り組んでいるという情報に触れることがありません。

こんなことでは、日本の病院は世界の病院DXに確実に乗り遅れるのではないかと危惧しているのです。情報セキュリティ対策は重要ですが、1病院だけで対応できることには限界があり政府として対応を早急に示すことが必要です。「危険があるかもしれない」だから「病院DXは様子見」というような空気になっていますよ。

◎事業所規模が小さくデジタル対応が困難

医療DXを考える場合、日本の病院の事業所規模を勘案しないとどうにもならないのです。医療施設動態調査の今年1月末の病院数から平均病床数は183床であるが、病床数が少ない順に累積すると約130床で50%を超えるので、日本の病院の半数は130床以下の病院数であり、通常職員数は病床当たり約1人で、事務職員に限ると百床当たり14人程度となります。逆に、日本の300床以上の病院は約18%弱にしかすぎません。

このことが議論の前提として重要でICT対応の専門職員が事務職に限定してしまえば、情報管理責任者として教育を受けた人材が配置されている病院は、半分もいないもしれないということになります。医療DXについては、各種の議論がありますが、SEと呼ばれる職員がいる病院は4分の1程度しかいないということになります。その他は、事務系職員が何とか対応しているのが現状です。

老健施設とか特養ではSEがいる施設は僅かにしかすぎませんし、その他社会福祉施設では「DX」の話はほとんど進んでいないのではないかと感じています。したがって、病院の半数や社会福祉施設などでは、SEもおらずデジタル化に対する知識も少ないという前提で対応することが重要だと思います。

◎行政分野のデジタルも遅れ小規模事業所のDXは無理

マイナンバーカードの健康保険証利用に限定して考えてみると「何をもたもたしているのか」といいたくなります。台湾のオードリー・タン政務委員のような能力があるデジタル担当大臣は日本にはいないのでしょうか?各省庁からデジタルに少しは知識がある人材をかき集め、民間からも協力を仰いだとしても、トップがデジタルを完全に理解していなければ、スピードアップできませんよ。政府自体がもたついているわけですから、小規模事業所のDXは??

社会医療ニュースVol.48 No.561 2022年4月15日