医師の働き方改革は大問題なのにまだ21カ月先だと考えていないか
5月27日首相の諮問機関である「規制改革推進会議」は「規制改革推進に関する答申 ~コロナ後に向けた成長の「起動」~」と題する答申を提出しました。この中で人手不足が見込まれる介護施設での人員配置の基準緩和、薬剤師などが看護の仕事の一部を担う「タスクシェア」の必要性を明らかにしました。
全文はA4判135頁で、各論として①スタートアップ・イノベーション、②「人」への投資、③医療・介護・感染症対策、④地域産業活性化(農林水産、観光等)、⑤デジタル基盤の5つの重点分野別に記述されています。
総論で「地域の高齢者などを含め、全国どこでも全ての国民が先進的で個人に最適化された医療・介護サービスを利用できる、患者本位・利用者本位の医療・介護制度の構築を進めていくため、デジタル技術の最大活用を始め医療DX・介護DXを加速させていく必要がある」と明言しています。
また、「医療現場において医療関係者が専門能力を最大限発揮し、限られた医療リソースを最適かつ効果的・効率的に活用することが重要であり、喫緊の課題である」ので「患者等のニーズに専門的な知見をもってきめ細やかに対応するための薬剤師の対人業務の強化や、限られた医療リソースの適切な配分等を可能とするための医療・介護関係職間でのタスクシフト/タスクシェアの推進」が必要だとしているのです。
その上で「厚生労働省は、在宅医療を受ける患者宅において必要となる点滴薬剤の充填・交換や患者の褥瘡への薬剤塗布といった行為を、薬剤師が実施することの適否に関し、その必要性、実施可能性等の課題について整理を行う」とあります。
タスクシフト/タスクシェアは、主に医師の働き方改革の文脈で多用されるようになった考え方で、チーム医療を推進する過程で、必ずしも医師の資格がなくとも実施可能な医師の業務を他の職種が担当したり、医療専門職が他職種へ業務を移管することです。医師の労働時間短縮のための業務移管や共同化と言い換えることができます。
法律上、医師の医学的判断や技術をもってするのであれば人体に危害が及ぼす恐れのある行為を「医行為」と規定していますが、医師以外の国家資格である医療職種との境界線は国別に差がありますし、時代とともに変化してきました。今回の「答申」は、また1歩、医行為や診療の補助の範囲と医療従事者の国家資格の議論に踏み込んだものです。
◎医師の働き方改革は順調に進んでいない
19年4月より働き方改革関連法の一部が施行されました。これは「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずる」ことを目的としています。この法律により1日8時間週40時間に加えて、月最長100時間、年960時間以上の残業は禁止されました。
これに対して医師の勤務環境改善には長期的な見通しが必要となるため、5年間の猶予が与えられました。現時点では、24年4月以降医師の残業時間はこの規定が適応されます。しかし、救命救急医療などでこれを超える勤務医がいる場合や専攻医や研修医が法定残業時間を超える恐れがある医療機関は、新設される「評価センター」の評価を受けた上で、都道府県の認可を受ける必要があります。
6月3日に開催された第88回社会保障審議会医療部会では、厚生労働省が実施した「医師の働き方改革の施行に向けた準備状況調査」の結果が報告されました。24年4月以降の時間外・休日労働時間が年960時間を超える医師が存在し得ると回答した529病院のうち、あらかじめ宿日直の申請をし、許可を与えているのは168病院(32%)にとどまり、「申請する予定もない」も87病院(16%)存在しているとのことです。
また、都道府県向けの調査では、全都道府県から回答があり、医師の働き方改革による医療提供体制への影響の把握や取り組みを行っていると回答したのは6都道府県(13%)にとどまり、今後行う予定の都道府県を含めても28都道府県(60%)という状況だった。また、40都道府県(85%)では、小児・周産期・救急医療提供体制への医師の働き方改革の影響が把握できていなという回答がありました。
◎大学や大病院の医師が宿日直に来てくれない
勤務医の残業時間に関しては所属する医療機関が把握することが原則ですから、例えば、大学や大病院の医師が地域の他の病院に宿直勤務した時間も加算されますし、事前に宿直の申請をし、許可する必要があります。これはこれで膨大な事務処理業務が発生します。病院の宿直を他の病院の勤務医に依頼しているというケースは、日常的なことです。医師の働き方改革が施行されれば、宿日直の医師が確保できない病院が右往左往するのではないかと思います。
今後、人口減で住民数が減少しても、もうしばらく後期高齢者が増加しますので医療ニーズが縮小することに限界があります。この問題に対して現状では打つ手がないのかもしれませんが、常勤医師が10名以下の病院では深刻なはずです。しかし、大きな声で危機を主張する人は比較的に少ないように思います。
社会医療ニュースVol.48 No.563 2022年6月15日