医師の働き方改革を進めるにはためにはDXで病院内の医師業務を変革させよう
日本の医療は、比較的少ない医師が多くの患者の診療をしているという特徴があります。どう考えても病院の勤務医は、よく働いていると思いますし、宿日直を行っている医師で週40時間以内の労働時間であるということはレアケースです。例えば、週2回夜勤とか宿直があるという医師も沢山います。一方、残業は基本的にしないという医師もある程度います。それでも病院常勤勤務医師が、ワークライフバランスという観点で恵まれているとは考えられません。
この4年間、医師の働き方改革の議論が進められてきましたが、医師の長時間労働を是正する方策については妙案があるわけではないように思います。基本は、労働時間短縮の取り組みです。まず、時間外の定例会議の廃止、会議自体の時間短縮、業務フローの見直しによる時間短縮化の取り組み、そしてタスク・シフト/タスク・シェアの推進ということになります。
規制改革推進会議の答申ではつぎのように明記されています。「医療や介護は、人が充実して生きていくための、いわば、人生の前提であり、全国どこでも医療や介護に不安がなく、個人に最適化されたサービスが提供される社会を構築していく必要がある。このような観点から、デジタル技術を最大限活用し、患者本位・利用者本位の医療・介護制度の構築を進めていくためのDXを加速させていく必要がある」と。
その具体策については「患者・利用者による自宅を始めとする患者等の身近な場所での受診や薬剤受取が可能となるオンライン診療・服薬指導や電子処方箋の普及・促進等は、患者本位・利用者本位の医療を実現するための基盤となる取組」であり「特に、地方部に居住する高齢者のように医療機関や薬局等への移動の負担が大きい患者等にとっては、必要な医療の確保等に直結するという側面もある」「このため、オンライン診療・服薬指導に係る場の制約の見直しや、セルフメディケーションなど健康管理に関する選択肢の拡大を進めるとともに、手続のデジタル化を図る必要がある」としています。
以上は規制改革という観点からの指摘ですが、医師の働き方改革という観点では、DXを最大限活用して、病院内の医師業務を変革させるしか方策はないように思います。病院内業務のDXの必要性については、何度も書かせていただきましたが、読者の皆様からの反応は低調です。「何から手をつければいいのか」とか「どうやればよいのか」という姿勢が示されることはまれで、サイレントマジョリティーは「もう少し様子をみていよう」ということではないかと想像したり、落胆したりしています。
◎21カ月先のことですがDXは半年かかります
医師の働き方改革にはDXが不可欠です。病院のDXには、最短でも6カ月かかります。電気器具のように購入してプラグインしても何も変わりません。まず、医師と医師とともに働く医療従事者がスマホを持つ必要があります。共通のデバイスがないとできることは限られてきます。その上で、情報共有化する全員が確実に操作できることが必要です。そして、どのようなシステムを導入するか決めなければなりません。ここまでは、なにがなんでもトップダウンで方針を決める必要があります。
病院DXのためのシステム製品はいくつか販売されていますが、どれが良いのか比較検討したり、導入に関する交渉は一定の知識が必要になります。何もわからないという段階から、すでに比較検討済みで最終交渉中という病院もあります。全く何もわからないし、理解できる病院職員がいないのであれば、まず病院職員を手当てしなければならなくなります。このような状況であれば、最低18ヵ月は必要でしょう。わからないならわかるまで集団で学習するしかありません。
個人的な話ですが、30カ月前Teams、Bluetooth、TikTokも、Zoomだって何のことだか知りませんでした。今も完全に理解していませんが、なんとか利用している毎日です。
「新しいことはわからない」といっている友人は沢山いますが、知らないと働けないのなら、使い方を習得しないと生きていけなくなります。多少何かに脅迫されているような気になることがありますが、解説本などで少しずつ学習しています。Z世代と呼ばれている人は、本などにたよらず、スマホだけで知識を吸収できていますが、シニアになるとやはり本が頼りです。
ともかく21カ月しかありませんから、ただちにDXに組織的に対応して頂きたいと再度お願いします。介護施設も同様ですよ。
◎タスク・シフト/シェアには関連法規の改正が必要です
DXについては、まず、情報収集していただきたいと思いますが、タスク・シフトとかタスク・シェアのことを考えてみると、いずれ関連法規の改正が必要だと思います。例えば、医師事務作業補助者という職業がありますが、医師の指示で医師の事務業務の補助であれば、どのようなことでも引き受けられるという整理です。医師の業務範囲は広範ですし、医師の指示で業務を行う国家資格の医療従事者は沢山あります。医師事務作業補助者の資格が必要だという議論があってもおかしくありません。
また、看護師に限らず臨床検査技師などの医療従事者も医師の指示があれば、広範な業務を担当できます。医師の指示で薬剤師が在宅患者を訪問して軟膏を塗布することが、どのような制度上の整理になるのかわかりません。
例えばですが、米国の救命救急士やナース・プラクティショナーは、一定レベルの診断や治療などを行うことができます。精神科医師の医療費が高いので、一定の要件を満たせばソーシャルワーカーが服薬管理の業務ができる場合もあります。
さらに、米国の病院には、病気の予防、治療、管理、および心身の健康の維持に関する業務を行うアライド・ヘルス・プロフェションと呼ばれる、医療関連職種が多数あり、リハビリテーションの助手にも一定の要件をかし、助手が実技の大半をになっています。
いずれAIが診断の補助として急激に普及するようになると、何らかの規制が必要にならざるをえないかもしれませんね。
社会医療ニュースVol.48 No.563 2022年6月15日