健康だとの思い込みは高齢者には悪夢である
岩本 晋、自治研やまぐち理事、ゆだ苑理事長、山口大学特命教授


 今年78歳になりましたが、見かけは若く見えるとお世辞でしょうがよく言われます。それは大学生との付き合いもあり、精神的にも同年輩の方に比較して若い方だと自分でも思い、自分は健康であると強く思い込んでいました。

 それというのも、学生の頃に泳ぐことの楽しさを知り、プールさえあれば黙々と泳いできました。泳ぐ場所は市民プールだけでなく水泳クラブで今も泳いでいます。この習慣は、アメリカ留学中に持てる能力のすべてを使っても追いつかないくらい厳しい勉学に、落第しないように他の大学院生に追いつくために、ミシガン州立大大学院1) でPCBの毒性研究の一環としての研究をしているとき、振り返ればそれこそ崖を爪で引っ掛けながら登ったような状況で4年間を過ごした時に身に付きました。沢山の外国からの留学生が奨学金を得るために必死で勉強している競争状態にあるなかで、個人の資格での留学で誰の助けもなく、ただ環境問題に役立てればとの思いで勉強していました。厳しい生活の中で「頭を使うなら体も動かす」との文武両道を心がけ、毎日、毎日勉強の合間に力いっぱい泳いでいました。

 私の専門は公衆衛生学2)ですから、医学部の学生にはパンデミック3)の話も教科書に記載されている内容に言及しながら、人類はウイルスとの戦いで生存競争を切り抜けて、現在まで生き残った事や、人類がウイルスとの戦いに勝った印として、人間は増え続けている事などを話す授業を毎年繰り返していました。対象の学生は医学部から始まり、看護学部、福祉情報学科、コア学園のリハビリテーション課程など変化もありましたが、70歳からは山口大学経済学部の大学院で、特任教授として社会福祉制度についての授業を持っています。パンデミックについては当然公衆衛生学として人類の歴史上の重要な危機として取り上げてきました。水泳習慣は続いており、プールに入るとノンストップで1キロはクロールで泳ぐことにしています。最近も週3日程度は泳いでいます。だから、タバコも吸わず、糖尿病や高血圧の軽度の持病があるものの、自分は健康だと確信していました。水泳をしているのですから当然のように自分の肺は健康そのもので、頑強であると過信していたのです。

 そんな中で突然起こったのが2020年3月12日のWHOによるパンデミック宣言です。教科書でしか知らない感染症の地球的規模での急速な感染拡大、パンデミック時代に出くわしたことに、大いに興奮しながら、どんな小さなことも見逃すまいと、様子を注視していました。そのような日々を過ごしているときに私の家族にCOVID-19騒動が起きたのは突然でした。昨年の11月6日に次男(43歳)が、我が家のある山口市の観光名所湯田温泉で、東京からの友達に接触し、濃厚接触者となり、私と家内もCOVID-19陽性者となりました。まだその時点では、山口県のCOVID-19病床にも余裕があり、陽性判定までに3人とも数日の差はありましたが、判定と同時に私は宇部の医療センター、息子は山口の日赤病棟、家内は防府の県立医療センターに入院させられました。

 「GoToトラベル4)が感染拡大の原因であるとのエビデンスは存在しない」と政府責任者が発言したそうですが、今回の我々のCOVID-19感染はGoToがきっかけです。その後山口県では爆発的にCOVID-19感染者が出ています5)。今年1月23日の毎日新聞によると、COVID-19はGoToでホテルにおいて「集団感染」が従業員と旅行者に見られたとの報道があります6)

 最初に我が家にCOVID-19を持ち込んだ息子の話では、地元の常連さんメインで経営しているBARでマスターの誕生日を仲の良い常連6人でお祝いしていた際、東京からGoToを利用して1年振りに山口に来たというお客さんが来られたそうです。そのお客さんを交えて7人で呑むことになりましたが、結果として、その東京から来た人がCOVID-19陽性だったらしく、BARのマスターが感染、息子も濃厚接触者としてPCR検査7)を受けて陽性判定されて、保健所から入院指示を受けました。

 家族3人が同一週内に入院したのですが、今回のCOVID-19騒動で一番症状が軽かったのは息子でした。彼は働き盛りであるだけに、入院したことよりも仕事関係の影響がとても大きかったようです。彼は小規模ながらも個人の農業法人経営者ですが、東京からのGoToに便乗した帰省客に遭遇しただけで、突然の濃厚接触者として、保健所よりの電話で入院しなければならなくなりました。

 COVID-19入院が感染症予防法によるもので強制力を伴うもので、普通の入院と違うことはよく理解していますが、COVID-19入院は行政処置として個人に強制力を持つのです。住民としては初めての事ばかりで理解することすら難しいのに、保健所の担当者は忙しく目の回るほどの業務の中ですから入院患者個人のことまでは気が回らないでしょう。しかし、それこそ組織として行政の窓口のあるべき事柄を整理して住民に対応して欲しい思います。実際には、沢山発生した濃厚接触者に対して電話で通知して、その判定に続く隔離入院処置において、患者にしてみれば初めての事なのに、手続きなどの説明のないままに、次から次へと進められ、若い息子が理解できない事が沢山あったようなのです。私は70過ぎた一人として黙って従いました。

 息子は11月5日に保健所からの迎えの車(前後の席がビニールで仕切られた車)で病院へ移動したのですが、何も予備知識のないままに資料を見せられるわけでもなく、乗車前になって「意見はありませんか」では、考える暇もありません。COVID-19が騒がれ始めた年初から11月の間までに、PCR検査に関する判定後の行動マニュアルすら作成されていないようです。もしも陽性と判定されたら、こうなりますとの想定、入院による手続きなども、合わせて個人としての経済活動だけでなく法人とか組織としての準備も必要なのに、全くその仔細が知らされないままに、車に乗せられ隔離されたのでは、公私ともに損失は莫大になります。それに対する予防策や補填策は全く示されないままです。このことは、飲食街や飲み屋さんの営業自粛のたびに吹きだす不満と同じでしょう。家賃はかかる、従業員への支払いもあり、営業の制約を求めるなら当然のように保証もセットでなければいけないのは当然と思います。

 なによりも、先ずは情報が余りにない事に不安になり憤らざるを得なかったようです。PCR検査も「患者が要望すれば実施する」と定められているようですが、今後のプロセス等の説明なく、「保健所からの指示でPCR検査をします。」と訪問されて検査後、行政検査の実施についてという別紙を渡されましたが説明は「保健所から検査をしたら渡すように言われている」のみでした。さらには、入院に関しては基準を満たしていなければ従うほかなく、勧告とはいえ他に選択肢が無いものは勧告と言えるのでしょうか?憲法の問題上、勧告でしか対応できないのも理解しますが、流石に流行し始めて7か月も経過した11月時点でのCOVID-19の対応として拙すぎるのではないでしょうか。

 それに、現在のデジタル情報時代に病院のWi-Fi 8)が有料なのに300kbpsしかなくメールがiPadから送れないなど、法人の日常業務にも支障が生じたようです。社会の安定と秩序を保持するために強制的に入院させるのなら、我が国の経済規模からして、隔離病床だからこそ通信環境は整えるべきだと痛感させられました。隔離されるのに、隔離される患者のための環境整備が出来ていないなど課題が多すぎます。医療スタッフが新型COVID-19対応に慣れていないのは仕方ないのですが、せめて、これまでに発生した隔離患者からの意見をアンケートにより集めるなどのことは出来るはずです。パンデミックで対応には不満な人があるのは当たり前ではなく、その不満を少なくする工夫をすることこそ今の時代に衛生行政が取り組むべきではないでしょうか、関係者が問題を共有していれば解決することも多いのでしょうが、息子によると入院については事前に説明を求めても説明はなく、感染症ですから外出も制限され、急いで入院に必要なものも買いに行くわけにもいかず、さらには仕事上必要な銀行での振り込みなども、外出を一切止められているので、もちろん必要な日常生活も時間も取り上げられ、慌ただしく入院したようです。COVID-19による入院指示がでてからは、仕事の継続に欠かせない連絡や、入院先の通信環境についても、それに2週間近い入院が予測されるので着替えや洗濯等について、何も知らされないまま、確認したい情報が少なく時間もないままに入院となったようです。

 我が家では息子、私、家内の順にPCR検査を受けて全員陽性と判定され、判定順にそれぞれが入院となりましたが、年齢の高い私だけは入院してまもなく、3日目くらいに熱が高くなり、肺炎症状が全面的に広がり、重症に近い中等症と分類され1か月入院していました。自分の肺は他の人より健康であるとの思い込みは何の役にも立たず、入院してまもなく、COVID-19による肺炎を全面的に起こしていたようです。熱もあり意識もうろうとしていたため、ほとんどそのあたりのことは覚えていません。

 入院直後には、肺炎があればmアビガン、デカドロンの使用がおこなわれていましたが、私は初めのころの記憶がないのですが、デカドロンを使用し、血糖値が上昇したため、インシュリン注射をされていたようです。その時の状況は、ほとんど意識がなく、ベッドに横たわったままの私には分かりません。私より数日遅れて入院した家内は、その時は無症状で在宅中でしたので、私の症状について主治医から連絡があったと言います。酸素量を確保するための気管挿管をするかどうかについて家族の判断も参考にするためだったようです。

 治療について最善を尽くしてくれたスタッフのおかげで私の熱も徐々に下がり始め、私は気がついたようです。そして、私は自分の治療に取り組んでおられる医師の姿をベッド上から観察できました。もしも私のCOVID-19感染が昨年の4月頃だったら、未知のCOVID-19対処法で混乱しており、当時は著名人が次々とお亡くなりになりましたが、私の発症時期が11月だったので、COVID-19に対応する医療現場の医師にも治験が積み重なっており、そのおかげで私は助かったと理解しています。

 私は入院翌日の10日には、胸部X線検査では肺炎像は目立たなかったのですが、夕方より38°C台の発熱が続いていたようです。その後の経過をまとめると、13日-Dダイマーが上昇機構だったのでエドキサバン30mg/日が追加された。16日再度発熱、17日-酸素3L/分を要するようになり、SPO2が低下し、レムデシビルの点滴静中開始されました。18日-解熱、19日-酸素4L/分を要したがその後穏やかに改善し気管挿管は回避できたようだと家内が記録していました。挿管が必要になりそうなとき主治医から家内の電話があり、相談されたようです。家内が軽症なので防府医療センターから、私が入院していた宇部医療センターに転院となりました。私の主治医から家内に、治療状況の報告を聞いてくれていました。病室を3部屋位隔てたと同じ病院に家内が転院してきたのですが、出会うことも一切出来ませんでしたが携帯電話は使えました。そこで私への治療等については家内から聞いておりました。

 そして、私の入院3週間目に新しい治療法に変更したとたん、それまで私は意識のないままに気管挿管をするかしないかという状況から驚くほど改善し、それから2週間後に退院して自粛期間も過ぎて12月7日に社会復帰した次第です。

 これまでは公衆衛生の専門家として、COVID-19パンデミックに興味を持ち続けていましたが、まさかその医療対応のど真ん中で貴重な経験することに成るとは想定していませんでした。そして、家族三人が入院した11月中旬から12月初旬にかけて全員が退院しましたので、その後医療費の請求が届いたのですが、公費負担の内訳などのアナウンスがなく先に届いた実費負担分(テレビカード、買い物代等)の請求書が届き支払いを済ましたが、病院ごとに請求内容が違うことが気になり病院に確認したところ「COVID-19での入院中でも、ドクターの判断でCOVID-19と関係ないものは請求出来る。」「今回は糖尿病に関する治療の一部は公費負担にならない。」とのことでした。それでも、転院して2つの病院で同じ治療で片方だけ請求されている請求書があるのはおかしくないかと、問い合わせたところ、保健所の判断ではCOVID-19治療に関するものは全て公費負担になると云う回答をもらいました。そして、治療費の一部が自己負担から公費負担に変更されたのでしたが、再度送付されてきた請求書には所得による公費負担の上限2万円の請求が記載されていました。ですが、転院しているので2つの病院で日割りする必要があるのではないでしょうかと、再度確認したところ、公費負担の上限である2万円も、2万円を30日で割り、入院日数を掛けたものが正しい請求額でしたと再度の訂正がありました。

 入院患者を受け入れて下さった病院の医師はじめ看護師、その他医療関係者の献身的な働きは素晴らしいものです。ベッドに横たわったままの患者のために、真夜中の2時3時と定期的チェックのために病室を音もなく出入りされる看護師の姿に感謝の想いで溢れました。

 それだからこそ、前述したPCR検査後の陽性者に対する情報提供の少なさや、要請なのか強制なのか判別し難い文言の曖昧さ、さらには退院後の医療費請求に関する医療事務方の共通マニュアルの不足で、COVID-19騒ぎが起きて1年も経過した時点でも、請求のための情報が整合されてないのは、日本の医療を支える厚生行政の隠し通せない欠陥であると思わざるを得ません。それが、医療崩壊と言われる現場の要因になってはいないでしょうか。

文献

1)  https://msu.edu/ ミシガン州立大学

2) http://dphpm.med.yamaguchi-u.ac.jp/greeting.html 山口大学大学院医学系研究科 公衆衛生学・予防医学講座

3)  https://www.nikkei.com/article/DGXKZO56717610S0A310C2EA2000/   パンデミックとは 世界で流行、制御不能の状態

4)  https://news.yahoo.co.jp/articles/47d30f6e13c69ef1ffa48321f5e7ab6a18c0a1bd【Q&A】「Go Toキャンペーン」って何?

5)  https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/pref/yamaguchi.html山口県の新型コロナデータ

6) 新型コロナ感染拡大、Go Toトラベルが影響か、Care Net https://www.carenet.com/news/general/carenet/51598?utm_source=m33&utm_medium=email&utm_campaign=2021020302

7)  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00132.html 新型コロナウイルス感染症に関する検査について

8)  https://www.buffalo.jp/topics/select/detail/wifi-about.html かんたん解説 Wi-Fi(ワイファイ)ってなに?