香取照幸教授「社会保障論Ⅰ」
【基礎編】と書いてあるこの本が、東洋経済新報社から発刊されました。3250円(税込み)。上智大学総合人間学科学部の講義資料と講義録をベースに「教科書風」に書き下ろしたそうなんです。「学生たちに自分の頭で考え、理解してもらうこと」を目標に講義が進められたようですが、香取教授の授業を受けた学生は、本当に幸せ者だと思います。
早速一読いたしましたが、とても分かりやすく、考えドコロ満載というのが読後感です。社会保障関係の本は、制度説明に終始するか、わが国の社会保障制度の批判的検討に拘泥するものばかりが散見できますが、この本は皆で社会保障のこと考えようというスタンスに終始していて、皆様に一度読んでいただけると、少し頭の整理ができてよいのではないかとお勧めします。
最も考えさせられたのは「義務としての連帯」ということです。私は何度か、どのように説明したらよいのか悩んだままで、そもそも「義務」という言葉を戦後日本の知識人は使いたがらないで、曖昧模糊と権利と義務の根っこの部分を捨象した空虚な説明に終始してきたのではないかという深い疑いを持ち続けてきました。
この本の中で「社会、共同体のメンバーである人は全員、自分以外の他のメンバーがいることで生きていけてるんだから、社会に生きる全ての人は他の全ての人に対して、自分がそこに、そこの社会に生きていけることに対しての対価としての責務、社会的責務、義務がある」と書いてあるのです。
この文章は、慧眼というか近代ヨーロ文化の根底をなす根っこを正確に継承しているような良い文章だと感銘を受けました。Ⅰであり【基礎編】なので、近い将来Ⅱが刊行されることを待ち望んでいます。
社会医療ニュースVol.48 No.561 2022年4月15日