経営層は『貞観政要』を再読して欲しい
尼将軍と呼ばれた北条政子は、菅原為長に命じて『貞観政要』をかな交じり文に変換してもらって読んだといいます。まず、帝王の必読書として天皇に進講され、それが歴代将軍に読み継がれ、日蓮も筆写したことが確認できているとのことです。
「帝王学『貞観政要』の読み方」(各社版アリ)を書いた山本七平は、「貞観の治」それは中国では、理想的な統治が行われた時代であり、日本は「唐の時代の影響を最も強く受け、後に宋学の影響を受けた」というべきで(中略)、唐が衰退・頽廃の時代に入ったころには、遣唐使の派遣をやめてしまって、すでに得たものを自己の伝統の中に組み込むことに専念していた。従って、『貞観政要』的考え方・見方は、一種の「感覚」(センス)となって現代にも残っている、とかって書きました。
読んだことのない人でも「創業と守成いずれが難きや」という日本的表現の間答を、組織の経営層の人々は聴いたことがあるだろうと思います。創業することと、その事業を継続することでは、はるかに維持することの方が困難だという戒めのような口伝は、日本の組織文化にしつかりと根付いているのではないかと思うことが、時々あります。
創業に成功して、権力構造がほぼ固定すると、トップの周りは「イエス・マン」ばかりになる。この人たちはトップの偉功を笠に着て、陰険で横暴な権力を下部の人々に振るうことが多い。組織内に無規範がはびこり、上司に対する「情報遮断」が起きる。「個人の破滅、事業の失敗、一国の破滅はまずこのあたりからはじまる」と山本は解説しています。
『貞観政要』は、漢文だけなら頁数は僅かです。守屋洋訳(ちくま学芸文庫)は、文庫本253頁、[NHK100分de名著]にもあるし、出口治明の座右の書『貞観政要』中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」(角川新書)も読みやすいです。
竹内良雄・川﨑享の『貞観政要』に学ぶリーダー哲学(東洋経済新報社)の目次をみると以下のようになっています。
1 リーダーとしての度量
2 人の声に耳を傾ける
3 人財を徹底して活かす知恵
4 引き際の美学を求めて
下手な横好きなわたしは、少なくとも山本七平の「帝王学」の再読を重ねています。別に偉くなりたいとか、まして帝王になりたいわけでもありませんが、「人はナゼ失敗するのか?」という自間自答の答えが『貞観政要』に行きついたにほかなりません。
パンデミックが収束に向かい、多くのリーダーが再起をかけて事業に邁進しようとなさっています。心が折れてしまった幹部職員の対応に迷うリーダー、深く考えているのですが慎重すぎて決断できない人、悩んでいるのですがどこか肯定的・積極的になれない人、傷ついたところやダメなところはよくみえているのですが目的が今一つ明確にならない人、他の人と比べると自分にはリーダーシップも経営手法も不足していると思い込んでいる人、やる気もあるし体調も問題ないのですが「失敗」の恐怖から自由になれない人、過去の苦い経験から人事の件で切ることも昇格させることも躊躇している人、何しろこの先の経営状況に対して自信が持てない人、後継者問題を抱えている人々が、たくさんいるように思います。
そんなことはない人は、思い切り職員と話あって果敢に事業を進めましよう。そうでないと思う人は、もう一度『貞観政要』を手に取り、静かに読んでみてくださいませ。リーダーシップ論としても、名著と判断できますし、これたけの関連書籍が版を重ねている事実は貴重だと思います。
社会医療ニュースVol.48 No.567 2022年10月15日