武久流「令和時代の医療・介護を考える」の巻
日本慢性期医療協会会長の武久洋三先生から「令和時代の医療・介護を考える」中央公論事業出版、と題する著書をご恵贈いただきました。
昔から医療界では「ぬるま湯」につかりっぱなしで、そこから出てどうにかしようなどとは決して思わない人たちが未だにはびこっているのです。「改革は嫌だ!」、「現状のままが最良だ!」、「激変は医療崩壊をもたらすぞ!」、「その結果国民が困るぞ!」などといつまでも言ってるようでは、この先の激変についていけなくなります。世の中の流れや必然性を伴う未来は為政者でも変えられるものではありません(以上128-9頁からの引用)。
こんなことを直言する全国に百以上の病院や介護施設を経営し、その上医療団体の会長として八面六臂の活躍をしている現役の臨床医を、わたしはこれまでもこれからも出会えないのではないかと思っています。出会いは30年以上前ですし、いろいろなことを良く話し合いました。なんと同級生がわたしの直属の上司、国立医療・病院管理研究所(当時)所長の松田朗先生でしたので、老人の栄養問題とか老人病院や老人保健施設の経営実態調査などで、ご協力賜りました。わたしが厚生労働省職員を退職した15年前からは、頻回にお会いするようになりました。
2008年7月に日本慢性期医療協会の会長になられてからは、将来の高齢者医療制度をどうするのかといった議論をしていたように思いますが、10年ぐらい前からは一方的に教えを乞うようになりました。大きな課題は、介護保険制度により誕生した介護療養型医療施設を、どのように発展解消するかということと、「治療すれば治る高齢者を徹底的に治療するにはどのような制度にすればよりよくなるのか」といったことでした。何度も主張されたことは「口から食べられて、排泄が自立すれば無駄に死ななくても、生きられる」という確信です。基準介護みたいな制度はできないか?リハビリテーションを基準化できないか?看護職をトレーニングして医師がやっている行為を代替してもらうことは可能か?医師の生涯学習を強化して高齢者をもっと治療できる医師の研修体制はどうすればいいのか?
これらのことに関して、考え続け、決断し、あらゆる会合で主張を繰り返すという姿をみてきました。
岡田玲一郎前所長の米国視察に同行され、長期急性期病院(LTAC)、短期急性期病院(STAC)、入院リハビリテーション施設(IRF)そしてスキルドナーシング施設(SNF)を観て回り、かれこれ10年前ぐらいから「日本でもSTACの制度をつくらないとだめだ」と発言されていました。
今回の著書では、より明確につぎのように断言なさっています。「STACでわずか5日前後の在院期間内の治療を終えると、LTACやIRFで患者さんを受け入れます。日本では『自院は急性期だ』と主張することで地域における病院の存在感を高めたいという病院の都合のもとに、一般病床を有していれば急性期病院であるとみなされていたので、長期入院患者さんが多く入院していようとも、急性期病院に固執していました」「一方、アメリカのLTAC病院の定義は、複数の合併症を有し、ある程度の長期入院が必要で、重症度の高い患者さんに対し、専門性の高い急性期ケアと同時に、広範囲の医療及びリハビリテイションケアを提供する病院です。私は単なる長期療養を目的とした老人収容所的な機能ではなく、LTACのように慢性期の患者さんの急性憎悪を受け入れる機能が必要だと考えたのです。これがまさに現在の地域包括ケア病棟です」と書いてあります。
快刀乱麻ですよ。
社会医療ニュースVol.47 No.548 2021年3月15日