2024年のおすすめ10冊

年末に向けて本棚の整理をしているうちに2024年中に発刊された本を並べ替えて、お奨め本10冊を作成してみました。

◎人生の先輩達への畏敬

①中村桂子『人類はどこで間違えたのかー土とヒトの生命誌』中央公論新社。

②黒木登志夫『死ぬということー医学的に、実務的に文学的に』中公新書2819、中央公論社。

③神野直彦 『財政と民主主義―人間が信頼し合える社会へ』岩波新書(新赤版2007)岩波書店。

今年、米寿と喜寿をお迎いになった知のレジェンドの皆様の文章からお気に入りの言葉は以下です。

20万年におよぶ人類史が岐路に立つ今、環境を破壊し、格差を生み出した農耕の「原罪」が浮かび上がり、それが身近な「土」との結びつきを取りもどすという道なのだ。

老いや死というテーマであるのに、エビデンスのみが並ぶ冷たい本になる懸念から「短歌や、俳句という日本独自の表現形式は、たった一行で人々の心理を映し出し、感情を豊かに表現する」

「あらゆる決定を市場と為政者に委ねてよいのか。いまこそ人びとの共同意思決定のもと財政を有効に機能させ、危機を克服しなければならない。日本の経済と民主主義のありようを根源から問い直し、人間らしく生きられる社会を構想する」

◎人生とは歴史を知ること

④大河内泰樹『国家はなぜ存在するのか:ヘーゲル「法哲学」入門』(NHKブックス1286)。

19世紀初頭までの英国には英国国教会の教区があり、貧民対策を行ってきましたが、地方自治体も上下水道も警察組織も未整備だったのです。当時のドイツ連邦では「MedizinischePolizei衛生警察」組織があり、伝染病対策、衛生統計、埋葬、医療従事者の医師の国家資格化が進められていました。

Medical Policeと英語表記にすれば医療警察ということになりますが、明治時代の和訳は「衛生警察」で今日では「公衆衛生行政」と同義語と理解していました。

1831年に61歳でコレラにより急逝した大哲学者ヘーベルの『精神現象学』や『法哲学』はどれもトップクラスに難解です。「通読できない頭痛のタネ本」「これを丁寧に説明できれば大学者」などといって理解できない悔しさをごまかしてきました。

本書は、ヘーゲルが思い描いた国家体制の姿を、「コルポラツィオン(英語表記でcorporation)」「ポリツァイ」といった概念に着目して『法哲学』読み解いています。『衛生警察』は哲学者の世界では『医療ポリツァイ』と表記されており、それが国家の装置として存在しているということを改めて理解することができました。

つくづく歴史がわからないと哲学は、理解できないことを思い知りました。

⑤麻田雅文『日ソ戦争―帝国日本最後の戦い』中央公論新社。

1945年8月8日から9月上旬まで参加兵力200万人超えの戦いは、ソ連による中立条約破棄、非人道的なものだったと、わたしは信じて込んできました。この本は、新史料を駆使し、米国によるソ連への参戦要請から、満洲など各所での戦闘の実態が描かれています。「そうだったのか」と改めて旧日本軍は人の命よりメンツが大事な怖い組織でしかなかったことに涙しています。

⑥黒田祐我 『レコンキスタ―「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和』(中公新書2820)中央公論新社。

8世紀にジブラルタル海峡を渡ってイベリア半島さらにフランスにまで勢力を伸ばしたイスラーム。その後はキリスト教徒側が少しずつ押し戻し、1492年のグラナダ陥落でイスラーム勢力を駆逐した戦いを「レコンキスタ」と呼びます。

西洋史の重要な出来事なのでなんとなく知っているつもりだったものの全貌は理解不能で、いつかは正確に学び直したいと考え続けてきましたが、目から鱗が落ちる思いです。サッカー、パエリヤ、ピンチョス、黒ワイン、フラメンコ、闘牛士のどれかに興味があればお読みください。

◎何か変だと感じませんか

⑦岩竹美加子『フィンランドの高校生が学んでいる人生を変える教養 』青春出版社新書。

フィンランドにお住いの著者が小中高で「宗教」科目の代わりに用意されている「人生観の知識」という科目の内容をデジタル教材から丁寧に解説いただいています。

「人生観の知識」の内容は、心理学、社会学、政治学、哲学など、様々な分野を横断しながら、自分の人生観を育むための知識と教養を深めるそうです。

⑧戸谷洋志『生きることは頼ることー「自己責任」から「弱い責任」へ』(講談社現代新書)2751講談社。

新自由主義を下支えする思想として、日本に導入された「自己責任」論が、人々を分断し、孤立させる。誰かに責任を押し付けるのではなく、別の誰かに頼ったり、引き継いだりすることで、責任が全うされる社会に変えることが必要なのです。

⑨小松正人『未来をつくるデジタル共創社会―日本と海外の先進事例から学ぶ住民参加型行」政のあり方』日経BP。

住民と行政の「関心・信頼関係の構築」と「マインドセット変革」が行政のデジタル化にどのように関係するのを海外事例や国内の先進的な地方公共団体による変革の事例から解き明かします。それにしても日本の公務員のデジタルリテラシーは、先進国の水準と比較すれば、かなり低いと思います。

⑩矢野裕典『地域医療と街づくり京都発!「日本の医療が変わる」経営哲学―元ひきこもり理事長の病院経営術』ダイヤモンド社。

副理事長時代、ICT化やDX化の環境整備に積極的に取り組む際、実父の理事長に「すべての職員が本来の業務だけに時間を費やすことができる仕組み」だと説明したそうだ。40歳で職員数6000人のへルスケアグループの新理事長に就任した直後に長男が誕生したので、「育児休暇」を取得したそうです。「今後、AIや高度医療の発展によって日本の医療はそのものが進化したとしても、医療や介護にかかわる仕事の大変さは、体力的にも精神的にも変わらない。いや、そればかりか、より深刻化することが目にみえている」。

洛和会ヘルスケアシステムが進めるDX化と「福利厚生日本一」を応援します。

社会医療ニュースVol.50 No.593 2024年12月15日