ナポレオン物語

8月15日誕生、5月5日死去のナポレオン・ボナパルトは、今年で没後250年を迎えました。この記念すべき年の5月の連休に何かしようと思い、厚さ約11センチにもなる佐藤賢一著「ナポレオン」3部作を購入しました。長期間の閉じこもり生活には、好奇心や探求心を絶やさないことがポイントではないかと思いますが、テーマが大きくなると手間も時間も膨大で根気がいりますね。

数えたわけではありませんが、世界中のナポレオン関連書籍は60万冊を超えるともいわれており、毎年各国で新刊が発行されています。面白いのは軍事関係の事柄ばかりでなく政治、経済、宗教、司法、行政といったあらゆる社会を改革したことが綴られ続けていることです。余談ですが、彼はシャンパン好きでブランデーを飲んでいたのかどうかわかりませんし、ワインの格付けを行ったのは甥のルイ(ナポレオン3世)ですよ。

最近のナポレオンへのわたしの関心は、彼のリーダーシップとその時代の風潮がどのようなものなのかに集中するようになりました。英国の歴史家A・ロバーツは、つぎのように書いています。

「ナポレオンは兵士たちとの時間を過ごすのが本当に好きだった。彼は兵士たちに慕われる民主的ともいえる率直さ備えていた」(三浦訳「戦時リーダーシップ論」白水社.17頁)。

ナポレオン伝説には軍事的天才、英雄豪傑で改革者、あるいは「最後の専制君主、最初の近代政治家(杉本淑彦『ナポレオン』岩波新書1760)」などという評価がなされていますが、部下が好きで部下に慕われていなければ偉業を成し遂げることはできなかったであろうと信じたい気分になりますし、案外本質なのだろうと思いました。 

戦記オタクとして興味深いのは、多くの戦闘で200万人以上のヒトが死亡したにもかかわらず「侵略」などといった罪に問われることなく2回の島流しで済んだしまった時代の人だったことです。他国から侵略されないようにすることが独立を保つために必須で軍事力が政治的パワーの根幹となっていた緊張感充満の時代は、賠償金を要求されるか税金を突き付けられるだけで済んでしまうゲームみたいな感覚なのでしょうか。一面では「戦争」はビジネスの様でもあり、フランス革命により高揚したナショナリズムの発露でもあった好戦的な時代の精神だったのでしょう。 

少なくとも「平和に対する罪」とか「人道に対する罪」などという考え方が成立する以前のロマン主義の遺産のようですが、歴史を探求する楽しさがありツッコミどころ満載のナポレオン物語は、飽きることがありません。まだまだ読み漁りたいと思います。 

社会医療ニュース Vol.47 No551 2021年6月15日