ビジョナリー・カンパニーZEROを楽しむ

本好きな人は、いつかはお気に入りの著者に出合うことになるものなのでしょう。もう四半世紀も前に読んだ本の冒頭につぎのように書かれていたのが、今でも忘れられないでいます。なんとなく上から目線で、第一印象はなんだか気分よくなかったように記憶しています。

「この世のすべての経営者、経営幹部、起業家は、本書を読むべきである。取締役も、コンサルタントも、投資家も、ジャーナリストも、ビジネス・スクールの学生も、この世でとくに長く続き、とくに成功している企業の特徴に関心があるすべての人は、本書を読むべきである。わたしたちが大胆にもこう主張するのは、手前味噌ではない。ここに紹介した企業には、学べることが多いからだ。」

『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存原則』との出会いです。2001年『②飛躍の法則』10年に『③衰退の五段階』12年に『④自分の意思で偉大になる』が日経BPから翻訳出版されました。この間、90頁の副読本として06年に『特別編』が、そして20年には91頁の『弾み車の法則』が発表されたのです。出版社は、世界で1千万部超のベストセラーだと書き、多くの人々が、著者のジム・コリンズを「世界最高の経営思想家」と評価しています。

徹底的な調査と歴史研究が武器で、真理の探究心は驚くばかりです。わたしが専任で大学院の教員として講義を組み立てる際の重要参考書であり、大学院生への推薦図書であり、リーダーシップの研修方法の教科書としても活用させてもらっている大切なシリーズです。

本年8月下旬に『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で継続的な企業になる』が土方奈美さんの訳で日経BPから出版されたのです。この本は、ジムと彼のメンターでもあるビル・ラジャーが30年前に発刊した「ビヨンド・アントレプレナーシップ」(日本語未訳)を半分以上書き足し修正し、再編集した「アップデート版」とも呼ぶべきものです。

もともと『ビジョナリー・カンパニー』は、徹底した調査から「事実」を掘り当てる記述の進め方ですが、このZEROは、ビジョン、リーダーシップ、戦略、イノベーションなどがどのようなことを意味し、どのように関連するのかという理論編というか、考え方の枠組みを丁寧に説明している「第1級」の教科書のような趣もあります。

個人的には、ジョージ・ルーカスのスターウォーズでいえば、夜明け前のような最初の秘密のエピソードが最後に解き明かされたような感覚を受けます。

30年前「リーダーシップの機能、すなわちリーダーの一番の責任とは、会社の明確なビジョンを生み出し、社員と共有し、そのビジョンへのコミットメントと精力的な取り組みを促すことだ」とし、ビジョンは「コアバリューと理念」「パーパス」「ミッション」という3つの基本要素で成り立っていると、言明していたのです。

30年後「リーダーシップとは、部下がやらなければならないことをやりたいと思わせる技術である」と簡素に言い換え、3要素のひとつミッションを「社運を賭けた大胆な目標:BHAG」に置き換えた経緯を明らかにしています。

経営学について基礎教育を受けていないわたしとしては、組織経営とはどのようものであり、何を生み出し、どのように取り組めば良いのかという答えが、簡素かつ明確に書いてあるように思えます。抄読会を開いてでも、1人でも多くのリーダーに本書を読んで欲しいと強く思うのです。

経営に関するハウツー本は流行り廃りがありますが、わたしの予想では本書は経営関係書のレガシーになると思います。

社会医療ニュースVol.47 No.554 2021年9月15日