社会的災害を受け続けていると考えられる病院経営を持続可能にする方法はあるのか
令和初めての元旦、多くの人々は自然災害のない、穏やかな年であることを祈ったことだろう。
昨年も日本列島を台風が襲い、甚大な被害が出た。「異常気象」といわれることがあるが、毎年のように自然災害が続くと、それはもはや「異常」とは呼ばれなくなり、各地で災害に対する一層の覚悟と準備が求められることになる。これと同じように、今、医療や介護経営の分野は、経済的にも社会的にも「災害」を受け続けており、これに対応するには、細心の注意と徹底的な準備を欠かすことができないのではないかと考えられる。
2017年の厚生労働省の医経済実態調査の病院の平均医業収支差額では、国立・公立・公的はどこもマイナス。医療法人立の平均では1.8%であった。ここ数年、病院の経営状態も社会福祉法人等の収支差額も、多くの収益部分を介護保険支出により賄う営利法人の経常利益も減少している。通常、経営の継続性を担保するには損益分岐点以上の利益がなければならない。つまり、利益がマイナスということが数年続けば、もはや経営危機と判断するしかない。医療や介護の経営は、社会的災害に追い詰められている現状では、2年後3年後の経営ビジョンも描けなくなっている。はっきりしていることは、過去20年間と比較して、医療経営も介護経営も改善の兆しもなく、経営的には、少なくとも3割程度の事業体が経常利益を確保できないままというのが現実だ。
◎金がないから払えない それって社会的災害?
このような経営実態にかかわらず、政財界や制度・政策をつかさどる行政関係者の間では、診療報酬や介護報酬などの、いわば公定料金をもっと引き下げることができるという判断が先行しているとしか考えられない。そのように考える理由は、国の財政状態であり、なんとか社会保障費用負担の軽減ができないかという財界の後ろ盾がある。もっと単純化してしまえば「ない袖は振れない」と主張しているのである。
病院経営サイドからみれば、このような要求を社会的災害と考えざるをえない状況に追い詰められているという見方も可能だろう。
だが、時代とともに医療介護分野の需給関係自体が大きく変化していることに細心の注意を払わないと、これまでの経営手法では通用しない時代である。実際の医療介護経営では、いわば公定料金である報酬改定に即応せざるをえない側面と、報酬改定の先を見越した選択とか組織の価値観や経営方針から5年先の経営形態を模索する側面があることになる。経営的にみれば、どのように考えても前者より後者が重要である。
◎人口減は社会的災害です
医師や看護師の確保が困難という状況には大きな変化はないが、給食・掃除・洗濯などをはじめ何しろ職員募集しても応募者がいない。深刻な働き手不足は、何も医療や介護分野だけの話ではないし、超高齢社会の必然的現象に真正面から向き合うしかない。定年延長や高齢者の定義の変更などが議論されることが多くなったが、働ける人には働ける環境を工夫する必要がある。海外の人々の協力をえるというのであれば、これも細心の注意と国際的世論を前提とした配慮が必要であろう。人口減少社会は現実であり、人口が少ない自治体はいずれ維持できなくなる。すでに、牧歌的な村落共同体は次々に崩壊し、地域の祭りを維持することが難しいという報道が各地から絶えない。人口減少、人口構造の変化は、人為的に対応することが難しく、重要な政策課題であるが有効な解決策が乏しい。この問題は社会的災害として認識し、対応する必要がある。
結局は、診療や介護報酬が引き上げられる状況にはなく、働き手の確保は難しく、競争が激化するという社会的災害を防止することは、かなり困難であるというのが現実なのである。
◎経営持続性確保のために改めて論陣を再構成する
わが国で病院の経営問題が真剣に考えられるようになったのは、たかだか50年、特に民間病院の経営に関心が高まったのは老人保健法が成立した1983年以降ではないのかと思う。つまり、この社会医療ニュースが発刊されてきた期間でもある。
もう38年前のことだが、厚生省病院管理研究所で病院の医業利益と経常利益について若輩である私が名だたる病院長を前に説明したとき、ある市立病院長が質問した。
「我々は医療をしているのであり利益を求めているわけではない。利益・利益と言われるのは心外だ」。
当時の厚生省用語(今でも使用している)は「医業収支差額」であり、収益から費用を差し引いたものを利益と呼ぶ習慣はなかったことに、改めて驚愕してしまった。この体験は、病院経営は経営持続性が最優先されなければならないという私の信念となり、どうすれば継続性確保ができるのかを深く考えるようになった。
しかし、日本経済は実質経済成長できず。公定料金の報酬は改善の兆しもなく、少子高齢化は進行し、人口減、働き方改革が病院経営に災いを与え、病院間の地域内競争は激化している現状である。全国各地の状況をみると診療圏ごとに共倒れを防ぎ、地域医療を確保するという選択肢が現実的である場合も多い。だが、公と私の溝は深く、地域ごとに話し合いで解決できるかどうか、わからない。
社会医療研究所の存在意義は、病院経営を持続可能にする方法を開発してきたし、これからも探求するため前進することである。
社会医療ニュースVol.46 No.534 2020年1月15日