減収減益した病院の経営継続性を担保するために必要な政策は何か
医療経営に対して、一瞬の干天の慈雨がきた。CΟVID-19への対応により資金調達が困難となった保険医療機関に、今年5月診療分の診療報酬等の概算前払が実施された。融資が実施されるまでの間の資金繰りを支援するため、本来今年7月に支払われる5月診療分の一部を6月に受け取ることを希望する保険医療機関に対して、概算前払されたのだ。
福祉医療機構や日本政策金融公庫などの融資が必要となっている保険医療機関で、6月5日までに申請を行った場合、特例的に6月下旬の4月診療分診療報酬の支払い時に、4月診療分に加えて、5月診療分診療報酬の一部を概算前払する。
その額は昨年12月~2月診療分の3か月平均診療報酬支払額から4月診療分の診療報酬支払額を減じた額の80%だ。ただし、概算前払された診療報酬については、7月下旬に支払われる5月診療分支払時に減額調整されることになっている。緊急借り入れに過ぎない。
ただこれだけのことでしかない。経営は生き物で、血液と同じようにカネがまわらなくなると生き続けられなくなる。当たり前のことだが、公務員やサラリーにはリアリティがない人もいるだろう。1か月以上の休業や、3か月以上売り上げが半減するだけで倒産する場合もある。ある金融機関の知人が「医療機関の経営は、政府が素早く手早く対応するんですね」といった。なぜか、とても嬉しかったし、世間の目というのはこういうもんなんだなー、と思った。
◎4月の病院の経営状況
5月27日、日病、全日病、医療法人協会の3者は、CΟVID感染拡大による病院経営状況緊急調査の結果を公表した。調査対象は、全国の4,332病院で、有効回答率は30.2%だ。
回答した全病院の4月の前年同月日の外来患者は19.5(初診患者41.6)%減、入院患者は10.4%減、手術件数は17.5%減。感染患者受入病院は外来21.2(同41.5)%減、入院14.5%減、手術19.3%減だった。さらに、一時的に病棟閉鎖した病院は23.1(同41.5)%減、入院14.5%減、手術19.3%減だ。
その結果、全病院の医業収入は▲21.5%、医業費用は▲0.6%、医業利益は前年同月が1.5%であったものが▲8.6%だ。患者受入病院の利益は▲10.8%、一時病棟閉鎖病院は14.4%だった。大変な数字だ。当日、記者会見した全日病の猪口会長は「5月はもっと悪いかもしれない」と表情を曇らせていた。
詳しくは、各団体の㏋で確認して欲しい。ただ、東京都だけをみると、外来は26.7%、初診63.5%、入院16.4%、手術35.8%減で、救急車の受入件数も32%も減少している。凄まじい比率だ。
健康保険に加入する人口の約6割をカバーする社会保険診療報酬支払基金の4月分の病院の診療報酬請求件数は19%減だったと報道されているので、調査結果と同様の傾向が読み取れる。
◎第2次補正では不十分
政府の第2次補正は、雇用対策も含めると過去最高の規模になった。医療や介護経営に対しては①個人用防護具をはじめとする感染症の対策に要した「かかりまし費用」の支援など、②無利子・無担保などの危機対応融資の財政融資資金や新たな優遇融資の実施、③感染症発生または濃厚接触者に対応した職員に対して1人当たり20万円、それ以外の事業所に勤務し利用者と接する職員には同5万円が功労金として8月末に支給される。
しかし、これらは起こってしまったことへの対応であり、応急処置に過ぎない。感染者を受け入れなかった病院の外来患者や入院患者減だけを考えても、つぎの感染拡大がなくとも今年度経常利益が確保できる病院の方が少数派にならざるをえない。感染患者を受け入れた病院や、病棟閉鎖をした病院は、現時点で経営継続性を確保できるかどうかの瀬戸際である。
このようなことは、わかりきっていることだし、ましてつぎの感染拡大時に、どうするのかというルールが全くみえない。経営的な医療崩壊が各地で起きることを防ぐ必要がある。
こうなると感染対応によって発生したことが明らかな損失分は、必ず補てんするという原則と、急激な患者減により経営悪化については、診療報酬で対応するという約束が必要だ、と強く思う。
しかし、3月4月5月6月の4か月間だけのことを考えても、今年度に医業利益を確保できる病院はごく少数で、大多数が医業損失を計上することになるのは、必然だ。こうなると逸失(得べかりし)利益を補填しないと、多数の病院が経営継続できないのだ。
◎第3次補正予算が必要だ
今回のパンデミックで「政府は経済的な損失を被っても、できるだけ多くの人々の命を救うべきだ」という決断をした。そのことが、日本のかたちだ。世界の感染拡大は、収束には程遠いいし、つぎの大きな感染の波が押し寄せることを想定しなくてはならない。であるとすれば、現行の医療システムを維持・強化しなければならない。
政策として考えると、直接、病院の逸失利益を補填するか、何らかの公的資金で病院に資本注入するかという2つの政策が考えられる。まず、医療保険財源には、多額の租税がつぎ込まれているという全体がある。つぎに、得べかりし全国の医療収益減は、保険財政の巨額の黒字という結果になるはずだ。
したがって、俊敏に政策方針を決断し、公表することが肝要だ。
社会医療ニュースVol.46 No.540 2020年7月15日