病院の建て替え計画は40年先をみつめてパーパスを明確にすることからはじめる
感染症の第五派がおさまりかけたころから病院の建て替え計画について、意見を求められることが多くなっています。わたしに相談されても建築の専門的知識があるわけでもないので、まずは病院の財政上立て替えられるかどうかの相談がメインです。建築後40年近くなりそろそろ建て替えが必要であると判断し情報を集め、なんとなく基本構想らしいものが出来上がった時点で「これ見てください」と声がかかるのです。
どこかの建築会社や設計会社、最近では医療コンサルタントが無料で資料作成に協力してくれている場合がほとんどですので、それなりのかたちは出来上がっていますが、拝見させていただいて正直「スゴイ」と思ったケースはこの3年間皆無です。ひどいものになると何ら根拠もないのに勝手に絵を描いたものもあり、実現可能性がないものも見受けられます。病院内に病院建て替えを一度でも経験した職員が確保できれば良いのですが、40年に1回しか訪れない病院全面建て替え時に、建て替えを体験したことがあり、一定のスキルがある職員を配置できる病院はほんのわずかです。
わたしの知る限り市や町が設立主体の病院では、ほとんどそのような職員はいません。ただ、複数の公立病院を運営する都道府県には、それなりのエキスパートがいます。日本の病院の大多数を占める民間の中小病院になると、費用面が前面にでてしまい「どのくらい安く建てられるか」ということが最優先されてしまう傾向もあります。
病院管理や病院経営という世界で40年以上関与してきた経験では、わたしの話を聞きとどめていただけた病院は全国で10病院程度です。ほとんどは「そのようなご意見いただいてもで、ムリです」で終わってしまうのです。別にお金を請求しているわけでもなく職業でもありませんが、病院さんのお役に立てるのならとの思いで相談に乗っているつもりですが、何度も否定されると、わたしがおかしいのかもしれないと考え込んでしまいます。
◎立て替えの目的の明確化を求めているにすぎませんよ
まず、人口予測、患者予測、競合分析、各種マーケット調査は必須です。つぎは、財務計画の策定と資金調達の見込みなども検討します。これらが第1段目です。第2段階は、誰のために何をどのようにするための病院なのかということです。これはとことんまでストーリーとして明確で物語として美しいことを求めます。何回もブレストし、コアの考えを話し合う必要があります。この際、職員からの要望は、あえて最優先しません。手間はかかりますが外部の人々に説明して意見を聴取することも有効です。最近の流行語でいえば建て替えのパーパスを明確に言葉少なめに打ち出せることが必要です。この際「地域住民に愛される病院」などという抽象的で具体的な評価軸を示せないものは何の役にも立ちません。むしろ「あらゆる変化に適応できる病院」とかの方が選択肢は広がります。
実際に「何のために建て替えるのですか」というわたしのしつこい質問に、明確に答えて頂けた方は過去に1人しかいませんでした。4面を書いていただいている東瀬多美夫さんだけです。パーパスが短い言葉で明確に示せれば、後の作業はいい感じでスタートできますが、パーパスを何か月もブレストしたという話を聴いたことがありません。残念でたまりません。院長や理事長が対象の場合は、もっとストレートに「何したいのですか」と尋ねますが、白旗という状況に出会ったことはありませんが「さすがだ」と思ったことは何回かあります。建て替えは、その目的の明確化が全てなのではないかといいたいだけです。
◎どうして全室個室化はできないのでしょうか
親友の工学院大学の筧敦夫教授に「全室個室は当然だよな」などと話すと「何をいまさらという表情で」対応されます。あまり深い考えはありませんが、全室個室であれば病床利用率100%も夢ではありません。当然のことですが4人部屋では男女別ですので100%以上は達成できませんよ。病院の関係者に「全室個室を検討してください」というと「5割しか差額取れない」「田舎では差額代払う人はいない」「個室だと動線が長くなる」凄いのは「ひとりを寂しがる患者さんがいらっしゃる」という口撃を受けます。
サービス付き高齢者住宅もグループホームも有料老人ホームもすべて個室ですが、大部屋希望者は皆無です。修学旅行や社員旅行なら大部屋も趣があるのかもしれませんが、40年後、大部屋希望者が存在していると考えている病院人がいるとすれば、残念です。
病院の職員さんは皆様、日夜「患者さんのため」と懸命に働いていただいていることはよく存じ上げています。それなのになぜ「個室化アレルギー」が頻繁に起こるのかどうしても理解できないでいます。何度も話あっていると「全室個室のこと考えたこともみたこともない」という発言がでてきます。
わたしの役割はほぼ完了です。見たことのないものは理解できませんし、考えたこともないことは実現しませんよね。
◎一度真剣にご一緒にブレストしませんか
なんだかんだとこの世界で生かさせていただいてきましたが、もし病院の建て替え計画があればわたしとブレストしませんか?ZOOMなら費用もかかりませんし、わたしが知りたいのは、わたしの意見はどうして取り入られないのかを知りたいだけです。もう一度いいますが、40年後日本の医療がどうなっているかを明言できる人は一人もいないと思います。ただし、現在の医療が、より正確にいえば40年後の医療は、想像以上に変化しているだろうことは確かなのだと思います。
医療費の増加を目の敵にする官僚や財界人そして正義の味方のはずの大新聞は、医療が進歩し、入院患者さんの療養環境が改善されることに、あたかも反対なさるのでしょうか。将来のことは正確には分かりませんが、医療や介護を豊かにするためのささやかな努力を正当に評価して欲しいし、そのために病院人は大志を抱きましょうよ。これが小さな希望なのですが、何か問題があるのでしょうか、
どなたか教えてくださいませ。
社会医療ニュースVol.48 No.558 2022年1月15日