検疫所のPCR検査への対応能力
検疫のことを英語でQUARANTINEという。この言葉はヴェネチア語の「クワランテーナ(40日間)」が語源だそうだ。1448年にヴェネチアに入港する船を40日間強制的に停泊させることができる法律名だそうだ。世界の船乗りならだれでも知っているらしい。
小松武弘著「近代日本と公衆衛生」雄山閣という本によると、文久(1862)年官版の『疫毒予防説』に「クワーランタイン」として紹介されており、明治12(1879)年には、京都でのコレラ対策としての行政処分名として実際に使用されたとある。ただし、コレラ患者8名が発生した長屋の借家を強制的に焼き払う命令の名称に使われたそうだ。
わが国の検疫所を中心とした検疫システムは、島国ということで水際対策が中心となって長い時間をかけて整備されてきた。現在は、全国13の検疫所本所、支部14か所、それに出張所という体制で厚労省健康局が所管している。COVID-19で脚光を浴びている大切な組織だ。
日経新聞の6月24日12版43面に「空港検疫感染者絶えず」「検査体制入国制限後緩和の課題」という記事が掲載された。書いてあることは、空港検疫のPCR検査で連日新たな感染者が見つかっており、水際対策の現場では緊迫が続いているとの報道である。成田空港のPCR検査の1日当たりの実施人数は平均950人程度だそうで、全国13の検疫所で1日最大2300件で頭打ちになっているそうだ。
最後に専門家のコメントがあるものの、わたしのような一般的な読者には、多分「今後急増する入国者全員にPCR検査をする処理能力は確保できないので、無症状の人は2週間の経過観察を条件にするしかなさそうだ」というニュアンスしかわからない。
マスメディアは、ワクチンはできないのか、薬は開発できないのか、PCR検査をどんどんできないのか、対応可能な病院のベッドはもっと確保できないのか、挙句の果ては日本版CDCを早急に組織できないのかなどといっているが、そう思うのは当然だと思う。
珍しいことにわたしはどれにも悲観的な意見しかない。ワクチンは安全性が確保できなければ死者がでる。薬も副作用が必ずあり一朝一夕にはできない。医療費は削減しろ、公務員は減らせというステレオタイプな意見というか、空気に流され、結果的に人命を軽視してしまったのではないかと考えざるをえない。
ただ、PCR検査に関して、研究機関や民間の企業との協力体制によって、その処理能力を向上させる手段はあったのだろうと思う。ただし、PCR検査が万能ではなさそうだということは、各種研究論文でも明らかなことは理解しているつもりだ。
医学書院の「病院7月号」64頁からに佐藤敏信先生が寄稿しているのを読んだ。「PCR検査で陽性と判断されても、本当に感染しているとされる陽性的中率は40%。逆に陰性という判断でも偽陰性で本当は感染している人もいるということで、検査結果が陽性だった、陰性だったと言ってみたところで、その結果が信用できるのだろうか」と述べている。わかりやすく書いてあるので、是非読んでみて欲しい。
それでも、わたしは検疫所のPCR検査等の対応能力をもっと整備した方がよいと思う。
社会医療ニュースVol.46 No.540 2020年7月15日