欧州の第2波感染拡大で都市封鎖・医療崩壊再危機を教訓に強靭化せよ
10月下旬から第2波の主役は、1日25万人前後の新規感染者を記録しているヨーロッパになった。フランスのマクロン大統領は「11月末まで都市封鎖を行う」ことを、深刻な面持ちでテレビに向かい話していた。原因は19日から25日までの平均新規感染者数が1日3万5千人を超え、その後4万人を超え5万に到達しそうな勢いで、医療崩壊の再危機があるからだそうだ。7月10日に衛生緊急事態宣言を解除してから4か月ももたなかったことになる。
英国も2万人を超え、イタリアとスペインは1万5千人を超え、ドイツも約1万人の新規患者が毎日報告されている。ただ、第1波に比べると、幸いなことに死亡者の感染者に占める割合は低下し、65歳以上より以下が増加している傾向にある。それでも、ICUが最も整備されているドイツのメルケル首相は「利用率が50%を超えた地域があり、医療危機の恐れがある」と緊急事態宣言を発した。各国とも学校は閉鎖しないが、レストランも娯楽も集会も禁止で、公共交通機関内と店内はマスクが強制される。もちろん、この「ストレスに耐えられない」人々により各地で抗議デモが起こっている。
WHOは、これから冬を迎える北半球にたいして「重大局面にある」と警戒を呼び掛けているばかりか、「まだ10月というのにICUは限界にちかづいている」として、感染拡大を防ぐための措置を徹底するよう強く求めている。
日本は幸運に恵まれているのかもしれないが、欧州も米国も感染症が収まらない状況では、いつ日本が第2波の波に飲み込まれるのか予測がつかない。日本の状況は「収束に向かっているわけではない」し、どう考えても「気の緩み」があるように思えてならない。前号で述べたように、ドイツの人口10万人当たりのICU病床数は、日本の4倍なので、改めて日本のICU体制の強靭化の必要性を強調したいと、強く思う。
◎ファウチ所長発言の衝撃
27日、米国立アレルギー感染症研究所(NIAIP)のアンソニー・ファウチ所長は「多少なりとも正常な様子に戻り始めるのは21年末になる可能性があり、22年まで正常に戻らない可能性もある」との認識を示したと、世界中のメディアが伝えた。米国では数カ月以内にワクチンが実用化される見通しだが「国民の大部分」にワクチンが行き渡るのは21年第2~3四半期になる可能性があると述べるとともに、1日あたりの平均感染者は7万人に上り、これは悪い状況だとも述べていた。来年末まで収束しない可能性が高いという指摘が、感染症の世界的権威であり、ホワイトハウスに最も影響力があるファウチ博士の発言であるので、世界を震撼させたのではないかと思う。
ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、米国では10月に29州で1日あたりの感染者が流行開始以来最多になった。CDCのフリーデン元所長は29日までに、新型コロナウイルスの感染拡大の問題に触れ、米国民の大半はマスク着用など公衆衛生上の予防策を理解しているとみられるとしながらも、連邦政府の対応策が足りない現状への不満を示した。元所長はCNNの取材に、米国民10人のうちの約1人がマスクを使っていないと指摘。「比率的には少人数で、見当違いの考えを抱いているグループだ」と言い切った。また、CDCの最新のデータを引用し、マスクを装着している米国民の割合は78%から89%に上昇したとも述べた。フリーデン元所長はトランプ政権の新型コロナ対策について「大きな失敗」とも断定。「多くの米国民が感染している。われわれに不足しているのは連邦政府が調整に当たるべき対応策だ」と主張した、そうだ。
◎ICUの強靭化を促進せよ
マスクをしない人がいること自体、日本人には理解できないような雰囲気があるが、全員がマスクをしていることを理解できない人がいることを知ることも大切なのかもしれない。わが国の感染者の累計は10万人を超え、比較的穏やかだが増加している。高齢者施設への政府方針は「一例でも感染がでた場合、濃厚接触者でなくとも入所者らにPCR検査を公費で実施できる」から、8月28日以降は「感染拡大地域では、職員や入所者全員を定期的に検査する」ということになった。東京都内では、世田谷区や千代田区で介護職員全員へのPCR検査が実施されているが、全国的には対応が後手後手という批判を受ける市町が少なくなっていない。今は、行政関係者を批判する時期ではないので大人しくしているが、本当にこの有事で行政機関の優劣がはっきりしつつあると思う。
大きなクラスターが発生した土地では、かなり体制が確立しつつあるようだが、これまでクラスターが全く発生していなかった地域は、対応が遅れがちなように思えてならない。これだけ長期間戦いが続いているのであるから、これまで感染者が発生していない地域や組織が「明日、陽性者がでる」という前提で対応しなくてはならないであろうと思えてならない。根拠のない「大丈夫だろう」という判断は、危険というか、もはや無責任なのではないだろうか。
このように考えていると、フランスはともかく、欧州では比較的感染拡大措置が成功したドイツと同じようなことが、日本でも起きることを前提に考えることが必要なのではないかと、思い悩んでいる毎日だ。しつこくて申し訳ないが、ICUを個室化したうえで、地域医療計画にICUの計画的整備方針を是非盛り込んでほしい。そして、感染症に対する医療体制の強靭化を政府の重要施策に盛り込んでほしい。
日本の医療システムは、医療保険制度も素晴らしいし、医療従事者も質が高いと思う。しかし、今の課題は、パンデミックに対応できる医療システムの強靭化と計画化であり、医療分野のICTを強化し、デジタル化を短期間に成し遂げることだと思う。
オバマ大統領選挙の言葉を思い出そう。YES WE CAN!
社会医療ニュースVol.46 No.544 2020年11月15日