コロナと呼ばないで!トムの贈り物
今年の春のことでご記憶の読者も多数いらっしゃると思いますが、コロナ社製タイプライターのことを書きます。映画「フォレスト・ガンプ」「プライベート・ライアン」などの人気作で知られる俳優のトム・ハンクスと妻のリタ・ウィルソンは今年3月、滞在先のオーストラリアで風邪のような症状に見舞われ、検査でコロナウイルスの陽性反応が出たことを発表した直後、クイーンズランド州のゴールドコーストに住むコロナ・デ・フリースくん(8歳)からお見舞いの手紙を受け取った。内容は「あなたと奥さんがコロナウイルスに感染したと聞きました。大丈夫ですか?」という言葉に続けて「自分の名前は大好きだが、学校でコロナウイルスと呼ばれるたびにとても悲しくなり、怒っています」と続いていたそうだ。
トムが書いた返信。「親愛なる友人のコロナへ。君から手紙をもらって、僕も妻もとても喜んでいるよ!素敵な友達になってくれてありがとう。友達というのは、友達が大変な時に助けてくれる人のことだ。すっかり元気になった後で、アメリカに戻ってからにはなってしまったけど、テレビで君を見たよ。もう病気ではなかったけど、君の手紙のおかげでもっと元気になった。君は僕の知っているなかでただ1人、コロナという名前を持っている。太陽を囲う輪っかという意味で、王冠という意味もある。このタイプライターは君に合っていると思う。僕が(オーストラリアの)ゴールドコーストに連れて行ったもので、それが今、帰ってきたんだ。君のところにね。使い方は大人のひとに聞いてみて。これを使って僕に返信を書いてくれよ。追伸。君はともだちだよ(You’ve Got a Friend in Me)
トムがコロナ君に送ったタイプライターには、コロナという名前が刻まれており、トムがオーストラリアでの治療中に使っていたものだそうです。4月24日、この心温まるニュースは、世界を駆け回りました。その後、武漢ウイルスとか、中国ウイルスという呼び方を含めて「コロナ」という表現は、日本以外の報道機関はしなくなっていったのです。さすが、トムです。
6月号539号のこの頁で、わたしは「コロナ禍」という表現について、「この表現が科学を軽視する爺さん臭いというか、歴史を顧みないオヤジ臭がする言葉に感じられるし、まだ始まったばかりのCOVID-19への人類の挑戦を、忌み嫌うという姿勢が逃げ腰なように思えてならない」と書かせてもらいました。表現は自由ですが、コロナをわざわいととらえることから、感染者やその家族に対する差別などいろいろな問題が続出しているのではないかと思えてなりません。新聞社にもよりますが、日経新聞などは「コロナ下」と書いています。よくわからないのはテレビですが「コロナ下」なのか「コロナ禍」なのか判断できませんが、ニュース報道では「コロナ下」を使用しているのかもしれません。
米国の1日の感染者数と死亡者数が、日本の2月以降現在までの総数と同等になることもありますが、この8歳のコロナ君とトムのおかげで英語圏では「コロナ」という表現をみかけることはたまにしかありません。ただ、世界の金融関係者を中心に「アフターコロナ」という題名の記事や報道はみかけます。ただし、あと1年間は状況に変化がなく、世界経済が完全に回復するのは3年後という予測記事もありますので、これからも怖がって逃げ回るのではなく、現実的な対応をする必要があると思います。
「禍」という表現は、このニュースでは今後も使用いたしませんが、わざわい転じて福となることを祈りましょう。
社会医療ニュースVol.46 No.545 2020年12月15日