運営次第では病院船もいいね

3月28日、米国海軍の病院船コンフォート号が、バージニア州ノーフォーク海軍基地を出港し、30日にニューヨークのマンハッタンに到着した。それより先に、もう一隻の病院船マーシー号が3月23日にサンディエゴ海軍基地を出港し、3月27日、ロサンゼルス港に到着していた。

この2隻の病院船は、1970年代に建造されたタンカーを病院船に改造したもので、全長272メートル、全幅32メートルで、満載排水量は約7万トンという大きな船だ。あのダイアモンド・プリンセス号よりも、少しだけ長さも幅も短いが、もともとタンカーなので満載排水量は何倍もある。

今回、コンフォート号の任務は、COVID-19以外の患者を受け入れ、現地の病院のコロナ感染者用のベッドを増やすことだと説明された。が、この病院船、多数の感染症患者の治療は、もともと想定外である。作戦は、あくまでも感染症以外の入院患者に対応することによって、すでに医療崩壊している病院を救うという間接支援とならざるをえないので、どれほどの効果があるのかという疑問は当初からあったようだ。

報道によれば、4月7日の時点で、入院患者は44人だったそうで、約千二百人の乗組員らは暇を持て余していると揶揄されている。その理由は、コンフォート号に乗船するためには、「コロナに感染していないこと」以外に、49もの医学的条件をクリアしていなければならないという軍の厳しい規定があるというのだ。実際に、救急車から直接患者が入院することはできず、事前に市内の病院で検査を受け、問題がないことが証明されなければならないらしい。

市中の医療従事者にすれば、鳴り物入りだったのに、無用の長物化している病院船を忌々しいと感じているであろうことは、遠いい日本からでも容易に想像できる。

さて、病院船を持たない日本では、2月中旬に厚労大臣も外務大臣も「病院船を検討する」と表明。病院船導入については、超党派による「病院船・災害時多目的支援船建造推進議員連盟」が3月11日に要望書を武田防災担当相に提出し、厚労、防衛、国交各省と内閣府が中心となって検討を進めたという報道もある。この議連では「調査結果を半年でまとめ、秋の臨時国会で新造船に向けての実施設計を進めたい。21~22年度に竣工したい」と威勢がいい、らしい。

その結果、政府は2020年度補正予算案に「病院船」導入への調査費約七千万円計上することになったそうだ。このこと自体が、今後どのようになるかについては、よくわからないが、約四半世紀前の95年の117阪神・淡路大震災後に、四方を海に囲まれている日本には「病院船が必要だ」という議論があった。国内災害に対応するための災害時多目的船の必要性についても議論が高まった。その後、政府は97年度から「多目的船舶基本構想調査委員会」を設置し、検討を開始したという事実がある。

昨年お亡くなりなった東大名誉教授の渥美和彦先生が「健康医療技術船」という名の病院船が必要だと話されているのを聞いたことがある。9年前の311東日本大震災後にも、病院船が必要だということで、各地で議論が巻き起こったが、今ひとつ実現しなかった。私にとっては、今回が「3度目」になるが、その場限りの議論ではなく、運用方法などをよく考えて、真剣に慎重に推進してほしいものだ。

ただし、運営管理などを十二分に検討し、例えば、ICU以外は、全室個室で、平時はパンデミックや災害医療の教育研修施設として活用するなどといったことを含めて、議論を進めてほしい。

社会医療ニュースVol.46 No.538 2020年5月15日