リーダーとしてのクオモ知事に学ぶ
今更ながらウェブサイトには、心から感謝している。ほとんど毎日、世界中の情報を集めることができるので、ありがたい。世界中のニュースも、画像でみられる。この3か月間で、いろいろな国のリーダーたちの発言が、世界を駆け回ったが、改めて考え方が違うし、多分お国柄というものもあると思う。それ以上に感じるのは、コミュニケーション力の差と、リーダーシップの圧倒的な差だ。
島国日本で、具体的にだれがコミュニケーション力が高く、リーダーシップを発揮しているのかということになると、明確な尺度が示せないので、なんともいえないということになってしまうのかもしれない。が、このご時世、失礼ながら国会議員の皆様と道府県知事の皆様を比較してみると、知事さん達が、とても真剣に取り組まれているという印象を受ける。もちろん、良し悪しはあるのだろうが、結局「この人がいうのであれば、フォロワーとしてついて行きたい」と思うかどうかなのであろう。
まず、コミュニケーションであるが、言葉、表情、声、態度、動作などによる能力には、明らかに個人差がある。世界に通用する日本人がどのくらいいるのかわからないが、日本でも通用する海外のリーダーがいるように思えてならない。この3か月間、ニューヨーク州のアンドリュー・マーク・クオモ知事に注目している。
◎クオモ知事の語り掛け
世界を駆け回ったのは、3月20日に、州内のエッセンシャル・ワーカー以外の自宅待機の義務づけを発表する際の記者会見だ。「私が全責任をとる。不満や他人を批判したい気持ちがあれば、私を非難してほしい。私以外に責任ある人物はいない」といった。
シンプルな落ち着いた一人ひとりの心に伝わるような語り掛けだ。
人種のるつぼで、世界の情報発信基地でもある、人口約2千万人のニューヨーク州の決断の瞬間でもあった。即座にトランプ大統領は大批判を浴びせる。民主党選出の知事だからというより、多分、個人的にも天敵なのであろう。
この記者会見の前後に、クオモ知事は、何度も「医療崩壊が起きた。もしニューヨークに来てくれる医療従事者がいれば、助けに来てほしい」と率直に語りかけてきたし、様々な生活上の困難や経済的影響についても、語ってきた。
◎封鎖解除の条件
自由の国の中心でもあるニューヨーク州を封鎖することは容易ではないし、それを受け入れてもらうのは至難の業だ。当然、解除の条件提示というか、だれにもわかる明確な判断基準が求められた。早速知事は、CDC疾病管理予防センター、WHO、米国国務省、その他の公衆衛生専門家の指導に基づいて、指標を確立した。
それは州を10地域に分け、地区ごとに以下の基準がクリアできれば段階的に解除という、メトリックスと呼ばれる「7基準」だ。
①COVID-19の入院患者数が14日間減少、もしくは3日間の平均が1日につき15人未満になる。
②上記入院患者数の中から死者数が14日間減少、もしくは3日間の平均が1日につき5人未満になる。
③1日あたり新規入院者が、3日間の平均で10万人あたり2人未満になる。
④病院の病床数に少なくとも30%の空きがある。
⑤集中治療室の病床数に少なくとも30%の空きがある。
⑥住民1000人あたり、7日間平均として、少なくとも30検査/月が実施される。
⑦住民10万人あたり、少なくとも30人の濃厚接触者の追跡調査を行う。
また、経済活動再開へ向けた出口戦略については、活動再開の業種の第1フェーズは建築業と製造業。第2フェーズは小売業、不動産業。第3フェーズは外食産業やホテル業。第4フェーズは芸術、娯楽、エンターテインメント業となる。
https://forward.ny.gov/regional-monitoring-dashboard
読者の皆様は、すぐにお気づきであろう。数字はともかくとして、大阪府の自粛解除要件、そして、少し遅れて公表された東京都の基準とそっくりであることを。証拠はないがどちらが本家なのかは、時間経過を知れば、明らかだ。
◎日本で数量化できないわけ
ホームページには、地図が示されており、全ての数値が示されているので、どの条件がクリアできないので、解除できないかが一目瞭然である。日本でなぜ、東京都と神奈川県、埼玉県、千葉県という全域を一つとみなし、同一歩調をとる必要があったのかもわからないし、根拠となる数字は示されなかったので、意思決定のプロセスがみえないことになってしまう。説明責任を果たさず、それこそ「専門家の皆様の総合的判断だ」とかいう理屈は、ニューヨークでは通用しないだろう。
それより日本でも、この基準をそのまま活用できなかったのかという疑問が残る。ただその理由が④と⑤にあったのではないかと思う。つまり、病院病床とICUの利用率が70%以下だという基準は、到底受け入れることができないのであろう。日頃「ICUなどの特殊病床の利用率を85%以上にすることが急性期病院の損益の分かれ目」とか、病床利用率80%以下では病院の経営継続性は担保できない」などといってきた、わたしとしても申し訳ないと思ってしまう。しかし、病床利用率が70%を超えたら解除条件にならないし、アラートの対象ということになれば、日本の病院のほとんどは、すでに医療崩壊しているということになってしまう。
ただし、直近の数値はよくわからないが合衆国全体の急性期病院の病床利用率は、通常60%台であることは確かであるので、国が違うので、何ともいえない。しかし、日本では80%とか85%にするのかという根拠が示せない。看護師の人員配置も関係することも確かだ。もっと他者に学ぶべきだと思う。
社会医療ニュース Vol.46 No.539 2020年6月15日