勝利なき戦いですね・「息ができない」デモ

2005年5月の国立感染症研究所の報告(IDWR)は、次のように述べている。「中国南部の広東省を起源とした重症な非定型性肺炎の世界的規模の集団発生が、2003年に重症急性呼吸器症候群severe acute respiratory syndrome の呼称で報告され、これが新型のコロナウイルスが原因であることが突き止められた」と。

日本でSRAS(重症急性呼吸器症候群)と呼称したのは、正しい表現だ。WHOは2020年2月11日「COVID-19」と正式に命名し、ウイルス名として、SARSを引き起こすウイルス(SARS-CoV)の姉妹種なので「SARS-CoV-2」と名付けた。

20年5月13日ニューヨーク(NYと書かせてもらいます)のクオモ知事は「102人の子どもが、発熱や発疹が続く原因不明の多臓器炎症型疾患で7割がICUに入院し、3人が死亡した」と発表した。過半数の患者がCOVID-19の検査で陽性と診断されており、詳しい原因を調査中とのことだ。

また、全米の14州、英国、フランス、イタリア、スペイン、スイスでも類似の症例が確認されているので、情報収集中であるとのことも付け加えていた。

子どもの「原因不明の多臓器炎症型疾患」といえば「河崎病」が代表格だが、もし今回のコロナウイルスが原因であるとすると、これまでのことを根本的に考え直さなければならなくなるのではないかと、ヤキモキしてしまう。

くどいようだが、急性呼吸器症候群を引き起こすのでSRASと呼称した。今回のウイルスも呼吸器疾患を伴うので、SRASの姉妹種としてウイルス名がつけられた。しかし、それが子どもの多臓器炎症型疾患を引き起こしているならば、もはやSRASとは別の感染症ということになるのだろう。だから、何かが起こるたびに「新型」などという気楽な表現を使用すると、時系列上も科学的にも正確な情報が伝わらなくなるのだ。組織でいえば新人といういいかたがあったとしても、性格も能力もそして将来の影響力も全く個別性があることは、よくあるだろう。

◎勝利なき戦いですね

5月25日、47都道府県すべてで、緊急事態宣言が解除された。この日の安倍首相は記者会見で「日本モデル」の力を示したと胸を張った。ニュースだけみているだけだが、お隣の国の大統領は「Kモデルの勝利だ」と宣言したが、その後首都を再封鎖せざるをえなくなった。トランプ大統領は、強気で経済優先なのはわかるが、収束が見通せない。習主席は「封じ込めに成功した」と強調するが、真相はベールに包まれたままだ。

現時点で日本が、人口当たり感染者数も死亡者数も少ないことは事実であるが、その原因は特定されていない。各所で山中伸弥先生はファクターXにこだわっている

https://www.covid19-yamanaka.com

「コロナウイルス情報発信」を是非読んでほしい。この中の各種研究者の意見は、参考になる。何しろ表現が正確なのでテレビなどからの断片情報より優れている。

いずれにしろ収束宣言とか、ましてや勝利宣言などはありえないし、これだけの人が死亡しているのに、チャンスとばかり政治利用するという浅はかな行為は慎んでほしい。誰も勝者がいない、したくないゲームに引き込まれたのだから、負けを少なくするしかないのだ、と思う。

◎ニューヨーク市のHPがいい

クオモ知事が最近お気に入りだと2頁に書いた。NY州は広いが、NY市の面積は790㎢で、東京23区より少し広い程度。人口は840万人で、州人口の43%が市民ということになる。さらに市の5つの行政区の一つであるマンハッタンは、山手線の内側程度の面積に、住民としては162万人程度が暮らしているというが昼間人口はものすごい人数だ。

NY市はnycと略すが、市の衛生局の㏋がお気に入りなので是非みて欲しい。検索欄にnychealth と打ち込むと、でてくる。上部左側にCOVID-19とあるのをクリックすると、情報一覧がでる。じっとみると多数の言語表示がある。日本語を選べばいい。日本語を読むと、専門家の翻訳としか思えない。なんと「新型コロナウイルス感染症COVID-19」と表示されているのだ。

内容は、日本のお役所のどこHPより優れていると思う。日本の公務員は全員参考にしてもらいたい。例えば、感染防止の方法、感染が疑われた際の対応手順、連絡先、ストレスへの対応、ペットに関する相談など、親切丁寧でわかりやすい。

人種のるつぼで、言語も宗教も多用、思想もなんでもありのNYのすごさを感じるHPだ。

クオモ知事を褒めたが、ビル・デブラシオン市長も、わかりやすく記者会見している。ただ彼も、民主党選出なので、トランプ大統領とことごとく対立している。

◎ニューノーマルを生きる

COVID-19は、世界中のこれまでの常態を経済的社会的に大転換させるという意味で「新常態」になるといわれている。もともとは、リーマンショック後の国際金融関係者が広めたことだといわれている。安倍首相官邸は、この言葉を避け「新しい日常とか」「生活様式」などといいだしているが、意味が今一つ伝わらないのではないかと思う。2014年に習近平国家主席が「中国は新常態に入りつつある」と演説したのを、NewNormal と訳されて、世界を駆け回った。それが気に食わないという人がいるのかもしれない。

◎「息ができない」デモ

5月25日、警察官がジョージ・フロイドさんの首を足で圧迫している映像が全米で公開された。各地でデモが一斉に広がった。直接的には、人種差別への怒りなのであろうが、そこには感染パンデミックであぶりだされた格差と分断、渦巻く不満がみて取れると思う。

差別と貧困が生みだす、根強い分断と対立は、人々を不寛容へと追い立て、目を覆うばかりの光景を映しだす結果となっている。

夜間外出禁止令がだされた都市が続出し、全米から英国やドイツにも抗議デモは広がっているにもかかわらず治安重視の「法と秩序」だけを振りかざしても、収束しないであろう。

6月に入ってから南アフリカやインドなどが外出制限を解除した。世界中がデモにならないように経済を優先するのだろう。

社会医療ニュース Vol.46 No.539 2020年6月15日