感染リスクを回避したい管理者の面会制限はどこまで許されるのか
4月7日、厚生労働省健康局結核感染症課はじめ関係各課連名で都道府県各指定都市民生主管部(局)に対し「社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)」という事務連絡をした。内容は「社会福祉施設等における新型コロナウイルスへの対応等について、これまでお示しした事務連絡等を別添参考の通り整理したので、改めて参照頂き、適切に対応して頂きたい」という趣旨だ。
この連絡文書の中で(面会及び施設への立ち入り)の項目があり、つぎのように書かれている。「面会については、感染経路の遮断という観点から、緊急やむを得ない場合を除き、制限すること。テレビ電話等の活用を行うこと等の工夫をすることも検討すること。面会者に対して、体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には面会を断ること」。その上で「面会者や業者等の施設内に出入りした者の氏名・来訪日時・連絡先については、感染者が発生した場合に積極的疫学調査への協力が可能となるよう記録しておくこと」とある。
行政文書なので完結明瞭なのかもしれないが、施設などでは「緊急やむを得ない場合を除き、制限すること」が求められているとしか読めない。高齢者福祉施設では、3月初旬から面会制限というか、現実として面会禁止を原則としたところが、少なくない。今回が特別ではないが、これまで多くの高齢者福祉施設などは、インフルエンザやノロウイルスの対応を経験してきたので、面会制限は常套手段といってもいい。4月の緊急事態宣言以降は、面会制限は、ほとんどすべての施設で実施された。ただし、テレビ電話等を使った遠隔面会は徐々にではあるが、確実に普及してきている。
インフルエンザの予防接種は、高齢者施設ではマストだが、ノロウイルスに有効な予防接種はなく、発生したら面会禁止として感染防止策を徹底するしかない。しかし、比較的短期間であれば我慢することもできるかもしれないが、家族との面会や会話は生活上重要であるので、期間を短縮できるような工夫は必要だと思う
障がいのため児童福祉施設で生活している子どもたちが親と会えない。認知症グループホームにいる親や祖母に、面会禁止で3か月以上話ができない。老人保健施設に入所中の利用者の認知症が進行しているのではないかと心配する家族が多い。
問題は、いつ、どのように解除するのかについてのルールがないことだ。すでに、8月末まで面会制限を決めている特別養護老人ホームもある。一方、5月下旬から制限を一部緩和した施設もあるが、6月に入ってからも、面会はテレビ電話などやせいぜい家族1人だけの面会のみという状況で、完全に面会は自由という施設は少ない。
◎病院からの悲痛な叫び
3月29日、志村けんさんの死亡が伝えられた。有名人の感染死は、世間へのインパクトは強烈だった。その後、お兄様が、入院以来面会もできず最期のお別れも火葬場にも行くことがかなわなかったとお話しされた。治療にあたられた医師や看護師の皆様も、さぞつらかっただろう、と思った。
地方新聞を中心に病院の面会禁止についての記事が、増えたように思う。まず、ベビーの誕生というおめでたい瞬間に、父親が駆け付けられない。生まれてからも病院を退院できない乳児のそばに両親ともいけない。入院するとお見舞いに行けない状態は、いろいろな問題を引き起こす。
一時は、医療従事者のマスクや手袋、ガウンやフェースシールドなどの個人用防護具(PPEという)が不足していたこともあり、面会を禁止せざるをえない病院がほとんどだったと思う。このような状態は、確かに異常であるが、院内感染を起こせば取り返しがつかないという緊張感と、入院患者さんや家族の思いを何とが遂げさせてあげたいという医療者の心が、激しくぶつかり合い悲痛な叫びとなってこだましてくる状況が、各病院スタッフの話から聞き取れた。
非常事態宣言が徐々に解除される過程で、PPEが比較的潤沢に確保できた病院では、手袋やフェースシールドなどを面会者に用意し、面会が可能になった。ただし、一度に面会できるのは1人か多くて2人という病院が多いようだ。
今回の教訓として、病院には面会者分を含めてPPEの備蓄が必要なことがわかった。PPEがないから面会禁止ということでは、患者さんもご家族も、そして医療従事者もあまりに辛すぎる。緊急事態だから我慢するしかないと考える人もいるかと思うが、大切な日本の医療をより良いものにするためには、多くの人々に真剣に考えてほしい。
その上で、面会制限の緩和についても、各病院で明文化したマニュアルを作成して欲しい。「なぜ、面会させてくれないのですか」「いつになったら面会できるんですか」という問いに対して、何も答えてあげられないこと自体も医療従事者のストレスになるのだという認識を共有したい。
◎ドイツにおける考え方
厚労省HPに「諸外国の行動制限等の現状について(6月24日時点)」がある。「在外公館等において把握している主な取組に限る」という文章があるが、米国、英国、韓国、ドイツ、フランス、カナダ、スペイン、スイスの9か国が紹介されている。お国柄があり興味深いが、ドイツの現状には「病院、介護施設、高齢者施設及び障害者施設への訪問について、特定の1名による定期的な訪問のみ認める」「感染経路の追跡が不可能な大規模イベント(お祭り、観客を伴う大型スポーツイベント、大型コンサート等)は少なくとも10月末まで禁止」とあった。
冒頭紹介した日本の行政文書は「緊急やむを得ない場合を除き、制限すること」だったが、ドイツは「特定の1名による定期的な訪問のみ認める」と書かれている。他の国でも同様なことを決めているかもしれないが、この資料には紹介されていない。「特定の1名」といういい方がドイツらしくもあるが、考えてみれば「キーパーソン」との関係が重要だという考え方があるようにも思える。大型イベントは10月までダメというもはっきりしてていいと思った。
社会医療ニュースVol.46 No.540 2020年7月15日