高齢者は新しいことが分からないからと決めつけるのはエイジズムなのでやめて

郊外型飲食店に85歳前後のカップルが入ってきてゆっくり席に座ります。お店に設置してあるタブレットにふれてオーダーします。やがて店内自走式ロボットが食事を運んできて、引き取りました。

街中の飲食チェーン店に入ると「QRコードでご注文下さい」と書いてあります。面倒ですが自分のスマホでQRを写し取りオーダーするお店が急増しています。オモテナシはアリマセン。都市に限らず全国で働き手がいないで、これが当たり前になるのでしょう。

鉄道や地下鉄に乗るとほとんどの人が「スマホ」か「タブレット」あるいは「パソコン」をみています。新聞や雑誌を読んだり、マンガや動画を観たり、ゲームやチャットをしているようです。新聞を開いたり雑誌を広げたり本を読んでいる人は急激に少数派になり、車内で「新聞取り出すのは迷惑になる」のではないかと思い、新聞を持ち歩かなくなってしまいました。

総務省の『通信利用動向調査』では「過去1年間にインターネットで利用した機能・サービスと目的・用途」を聞いています。このうち「ソーシャルメディアの利用」に焦点を置き、2011年度調査から毎年シニア層を60~64歳、65~69歳、70~79歳、80歳以上の4つの年代層別に利用状況について公表しています。

23年の調査結果では、個人のモバイル機器の保有状況をみると、「スマートフォン」の保有者の割合が 77.3%となっており、「携帯電話」(19.0%)の保有者の割合よりも58.3ポイント高くなっています。年齢階層別にみると、80歳以上を除き「スマートフォン」の保有者の割合が「携帯電話」を上回っています。その80歳以上でもモバイル端末を半数以上が所持しているとのことです。

◎デジタル・ディバイドは85歳以上に集中している?

情報通信技術(IT)(特にインターネット)の恩恵を受けることのできる人とできない人がいるという「デジタル・ディバイド」問題や、なんでも「紙ベースでなければならない」という昭和的議論は低調になってきているように思います。各種データをみている限り70歳代でも6割は恩恵を受けており、80歳代以上でも利用している人は2割以上なのではないかと思いますが、年齢より個人差、男女差が大きいのでしょう。

どこを探しても85歳以上の方の利用状況を表す全国データが手に入りません。病院職員や介護施設職員の皆様から「お年寄りは分からない人が多いから」とか「モバイルのすべてを自分で操作できない利用者が多い」などという話をよく聴きます。反対に70代で親の介護をしている知人の多くが「親とメールしている」「写真送ってる」と話してくれます。どう考えても85歳以上で何らかのモバイルを操作できる人々も2割前後はいるのではないか思います。

人それぞれだと思いますが「お年寄り」のイメージは急激に変容してきています。介護施設の利用者の平均年齢は85歳を超えていますので、職員の皆様の感覚では85歳以上が「お年寄り」ということになります。高齢者ケア関連以外の人々は75歳以上だと「お年寄り」と認識する場合が多いのではないかと思います。この10歳の差はとても大きいように思えてなりません。

身近なことしかわかりませんが、私の周囲にいる75歳前後の人はスマホなど何らかのデバイスを利用していますが、85歳以上になると半分以上は利用していないらしいのです。高齢者ケアの職員は「お年寄りは分からない」といっているのはたぶん85歳以上の人々で、75歳で「めんどくさい・わからない」とおっしゃる方は、それでも生活に支障がないということではないでしょうか。

今、年齢に対する偏見や固定観念(ステレオタイプ)にもとづく年齢差別などを意味するエイジズムに関することを調べているので、デジタルと年齢差のことに興味津々なのです。エイジズムは主に高齢者に対する差別、老人蔑視・偏見を指す場合に使われることが多いと思います。人種差別や男女差別と同じよう年齢差別は「差別」で「お年寄りは分からない」も立派な差別なのではないかと考え込んでます。

◎本質的にスキルや能力は個人差が大きいものだ!

エイジズムは、実年齢に基づいた個人に対する固定観念、偏見、差別、または何かをするには「年をとりすぎる」または「若すぎる」という認識を表す包括的な用語だと理解されています。多くの場合、固定観念は私たちの考え方に影響し、偏見は私たちの感じ方に影響し、差別は年齢に基づいて人々に対してどのように行動するかに影響することは明らかです。

2016年4月1日厚労省は、「障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針について」の中で医療(福祉)関係事業者向けガイドラインを公開しています。

その中で、(病気やケガをしている=障害をもつ)患者・利用者に対して「本人を無視して、支援者・介助者や付添者のみに話しかけること」「大人に対して、幼児の言葉で接すること」「わずらわしそうな態度や、傷つけるような言葉をかけること」「身体への丁寧な扱いを怠ること」などについて差別と認め、法律違反としています。また、福祉分野では「障害特性に応じた具体的対応例」が多数掲載されていますので、繰り返し確認することが求められます。

「共生社会の実現」を主張することは大切だと思いますが、それを実現するには一人ひとりの「合理的配慮」が前提なのです。自分と共通点がある人々を承認にして仲間だと考えられても、自分たちとは同質性が低い人々に対する違和感が「差別」に発展してしまうことがあります。むしろ、世界にはいろいろな人々が暮らしていて、言語も習慣も、考え方も暮らし方も差があることを肯定して、どうやったら共存できるのかということに対する配慮が必要なのでしょう。

こう考えてみると、個々人の能力やスキルは千差万別で、同じグループ内でも個人差が大きいことを、認識することが大切です。他者の思考や行動は、多くの場合自分達とは別なことの方が当たり前で、グループだと思っていてもバラバラなのが普通なのではないかと思います。

社会医療ニュースVol.50 No.585 2024年4月15日