リバタリアニズムが大統領を決める?

2016年の米国大統領選では、大手メディアから各種専門家と呼ばれる人々まで、ほとんどの人がヒラリー・クリントンの勝利を予測しましたね。極東の島国でも、政治経験も行政知識もほとんどなく、軍人でも弁護士でもないビジネスマンが、まさか大統領になると予測した人を、わたしは知りません。

ただ、大統領選後にトランプがワシントンDCにあるアメリカン大学のリットマンAllan J.Lichtman教授に「教授、おめでとう。正しい判断だったね」という手紙を送ったことを後で知りました。皮肉にも大統領就任から3か月後、教授は「大統領は弾劾される」という予測を論文に発表し、この予測通りロシア問題をはじめ弾劾手続きが米連邦議会で開始されたものの、上下院とも過半数を占める共和党のパワーで、回避されて、真相は闇の中になりました。

リットマン教授は、独自のメソッドを使い、なんと1984年からの大統領選の結果を正確に予測していたというのですから、大したものです。その教授が8月初旬に今回の大統領選挙では、ジョー・バイデン元副大統領が11月の選挙でドナルド・トランプ大統領を破るという予想を「トランプがホワイトハウスを失うことを予測する」とニューヨークタイムズのビデオで述べたのですから、世界のメディアは大騒ぎになりました。

大統領選挙は米国内の最大の政治イベントですが、実は誰が大統領になるかによって20世紀の世界は、大きな影響を受けてきました。移民国家である米国は、まずもって「自由」なキリスト教国だといえます。20世紀の米国の富と権力はWASPと呼ばれるホワイト・アングロ‐サクソン・プロテスタントが支配しているのではないかという一面的な理解でも、なんとか説明できる場面があったように思います。第1次世界大戦時の米国はモンロー主義という強固な自国の利益を追求する保守主義からヨーロッパの戦争には無関心・無関与という政治姿勢を鮮明にしましたし、その後は、世界の利権獲得に奔走しはじめましたが、第2次大戦でも国内が戦場になることはなく、戦後は世界の新しいリーダーとして、そして軍事大国として世界の正義を体現するために戦争を繰り返してきたのだと、わたしは思います。

しかし、21世紀の米国は、もはや世界の警察を演じることもなく、また、自国中心主義に回帰しつつ、従来からの保守の共和党対リベラルな民主党という対立では、もはや説明がつきません。サンダースのような社会主義的な候補が支持されたり、オバマケアのような医療保険制度に反対する民主党員がいたりする一方で、どうもよくわからない隠れトランプと呼ばれる人々がいるらしいとなると、何がどうなっているのか理解できなくなるのです。その原因の一つが、比較的若い世代に広がっているリバタリアニズムという自由至上主義にあるのではないでしょうか。これは、公権力を極限まで排除して、自由を極大化しようという考え方が基本で、例えば、人工中絶、移民、LGBTには賛成、銃規制、オバマケア、人種差別には反対する、というものです。

残り少なくなった大統領選挙を、冷静に観戦しましょう。

社会医療ニュースVol.46 No.54 2020年9月15日