嗚呼!さようならB747ジャンボ

ひとつの時代が終わってしまった。20歳代後半に初めてジャンボを見た時「こんなにでかいものが飛ぶのか?」とえらく感心したのを鮮明に覚えている。一部が2階建てのB747の運用は70年に開始されたとのことだが、わたしは40年近くお世話になったので、感傷的にならざるをえない。昨年7月に、突然、生産打ち切りのニュースが流れたが、大統領選専用機「エアフォースワン」だけは製造が継続されることになっているらしい。

昨年11月下旬から各国の航空会社が「ジャンボのラストフライト」を公表し、12月には廃棄処分されるというショッキングな報道もあった。全て合計したわけではないが約700機が廃棄されるのではないかという記事もみかけた。就航から20年以下のまだ飛べるはずの機体が、つぎつぎにスクラップにされるのを知り、ただただ悲しい。血眼になって記事を追いかけていると、最大の理由が航空業界の業績見通しでは、最短であと2年後の23年まで国際航空旅客数がもとに戻らないという予測があるらしい。その上、飛ばないで地上に駐機しているだけでも莫大な維持費がかかるらしいのだ。つまり、もはや無用の長物と判断されてしまったのであろう。

はじめてフランクフルトに向けて飛び立った50年前の飛行機はB707で、アラスカのアンカレッジ経由だったと記憶しているが、狭い機内で16時間カン詰状態が辛かった記憶が残っている。それから10年後のジャンボは天井も高く快適だった。以後ヨーロッパとの往復は、ほとんどジャンボにお世話になった。97年以降は、B787やA380がお気に入りでジャンボに乗る機会がなかったが、素晴らしい旅客機でなんといっても安定感が抜群で、いつも羽田に駐機しているカンタス航空のB747をみるとシドニーに行きたいという衝動に駆られ続けていた。

ほとんど個人的ノスタルジーに無理やりお付き合いしていただいて恐縮だが、もしかすると大量航空旅客輸送とかLCCと呼ばれた低料金の航空会社、観光立国とかインバウンド、そしてグローバリゼーションなどということが一時停止か時代遅れかはわからないが、元の時代に戻らないことを意味しているのではないだろうか。異次元の世界が広がるのか、ニューノーマル時代なのかもわからないが、第3の情報革命の次の第4のカーボンゼロ革命の時代に突入したのではないかとさえ思う。もしそうならオゾン層を破壊する恐れも指摘され、化石燃料を大量消費する大型旅客機の時代は、突然完全に終焉してしまった、と考えないと時代遅れなのかもしれない。現実にエアバスA380という総2階建ての世界最大の旅客機は初めて就航してから12年しか経過していないものの、21年には生産が打ち切りになるらしい。世界で300機以上が就航しているものの、その半数程度はエミレーツ航空が所有しているとのことであるが、どうも先の見通しは暗いらしい。ANAのホノルル便でも就航しており、今後さらに最新鋭機が引き渡される予定とのことだ。

偶然なのかもしれないがトランプ大統領にはジャンボが似合うような気がする。より大きく強い物だけを求める象徴がジャンボに重なるし、巨大な大鷲が米大統領のイメージに重なる。そのB747が大量廃棄されるというニュースが大統領選前後に集中したのは偶然であろう。ただ、一つの時代が終焉して、つぎのステージに代わったことだけは、厳粛な事実だ。

海外旅行が夢であった時代、当たり前になっていた時代の次が、不要不急の海外出張を自粛する時代が続くことだけは避けたいが、今はヒトの都合で解体されるジャンボに心から感謝を捧げたい。

社会医療ニュースVol.47 No.546 2021年1月15日