カエル飛びしていつか追いつけばDXは成功なので諦めないで欲しい
日本の介護や医療にDXが不可欠だと理解してから、わたしはほぼ独学で情報収集し各地でデスカッションを重ねてきました。その結果、DXに関しては経営トップが自ら学習し決断しトップダウンで推し進めないとどうにもならないという、あたりまえの結論に到達しました。
日本型組織は、どちらかというとボトムアップ的で全員参加型が基本で、組織を維持発展させるためには民間組織であっても官僚性が徹底されており、トップには人望と資質をステークホールダー側が求める傾向があると思います。官僚制とか官僚主義という言葉自体にアレルギー反応を示す人は決して少なくないと思いますが、官僚性には短所もありますが長所も沢山あります。徳川幕府の260年間は、家父長制的な支配に基づく家産型官僚制の完成形であったのではないでしょうか。
ドイツの社会学者、マックス・ヴェーバー(1864 – 1920)は、合理的支配システムとしての近代官僚制が持つ「権限の原則」「階層の原則」「専門性の原則」「文書主義」などに着目し、研究しました。その結果、個人の自由が抑圧される可能性などのマイナス面があるものの「近代官僚制のもつ合理的機能を指摘し、官僚制は優れた機械のような技術的卓越性がある」と主張しました。
一方、米国の社会学者ロバート・キング・マートン(1910-2003)は官僚制には、逆機能があることを指摘しました。例えば「法律(規則)の手段の自己目的化」「官僚組織の情緒的な同調主義・自己保存」「官僚組織の非人格的な機械性・画一的な対応」といったマイナス機能があると指摘したのです。これ以降、いろいろな人が官僚制には「規則万能、責任回避・自己保身、秘密主義、前例主義による保守的傾向、画一的傾向、権威主義的傾向、セクショナリズムの発生」というマイナス面があるとして徹底的に批判されてきました。
行政官僚主義は硬直的で時代も変化に対応できにくいことは確かです。それでも世界中の近代組織は官僚制の原則に貫かれていますし、官僚制を打破した新しい組織のあり方が研究されていますが、未だ決定的新原則が確立しているわけではありません。民間組織が官僚制とは全く別の体制によって運営されているわけではなく、むしろ官僚主義的運営を経営の場面に活用している私企業が少なくない現状があります。
◎官僚主義的組織体がDX推進を邪魔する
官僚制はどのような組織でも部分的に採用されていますので、全てが悪いわけではありません。しかし、マイナス面があることは確かですので、デメリットに十分注意しながら運営する努力が必要です。官僚主義的態度の人々は、どうしても新しいものに対応しにくいといえるのではないかと思います。それゆえ、官僚主義的組織体ほどDX推進を邪魔しているのではないか?逆に、それほど官僚主義的でないところほどDXに取り組んでいると、わたしは考えてきました。
しかし、先進的な市などの地方自治体で民間企業の人材を副市長などに公募し、デジタルガバナンスに取り組んでいる掛川市、四条畷市、加古川市などの現状を確認してみると、行政官僚主義組織が副市長クラスに民間のデジタル人材を登用すればDXが可能な場合があることがわかりました。このことは、市長自身がデジタル人材であれば、市レベルのDXの可能性はいくらでもあるのだということに、気づきました。
病院や社会福祉施設などが官僚主義的組織体化しすぎているために、世の中の変化への対応力を低下させているのではないでしょうか。年功序列型補充人材募集が習慣化している組織では、対応力のある人材の流失と対応力に乏しい職員の採用を繰り返すことにより、再生不良になるという体験が、わたしにはあります。
◎新しもの・勉強好きで諦めないで取り組もう
「新しもの好き」「勉強好き」「決して諦めない」というトップがいる組織ほどDXが進んでいます。「年取ったのか新しいことに取り組む意欲がない」「いまさら勉強するのが面倒くさい」「DXはむじかしいので諦めるしかない」という人は少なくありませんが、こういった組織トップにいろいろ話しても時間の無駄なような気分になることがあります。それでも、組織の経営継続性確保のため諦めないでくださいと、励ましています。
「失礼ながらいい年なのに新しいことを勉強して偉い」などと嫌味をいう人もいます。それでも「変化への対応を怠たった結果、無能なへたよろ老人と揶揄されたくない」などとやんわり反論したりしています。人それぞれですが、組織や職員そして利用者のためにも変化に対応して経営継続性を高める使命が経営者にも管理者にもあります。それをあきらめるということは、椅子から降りる準備を進めざるをえないのではないでしょうか。
くり返しなりますが、新しもの好き・勉強好き・決して諦めないという姿勢は、経営者や管理者の使命なのではないでしょうか。自分では対応できないと判断すれば、対応できるナンバー2をどこからか人材登用するしかないでしょう。決して諦めないでカエル飛びをイメージして学習しDXのための戦略を策定するためのチームを創りましょう。DXは全員参加が原則ですからリーダーシップもマネジメントも必要です。
社会医療ニュースVol.50 No.590 2024年9月15日