組織はトップのインテグリティとリーダーシップの再構築で蘇れ!
感染拡大防止のための行動制限が解除されている今、組織トップのインテグリティなどと書いているのは、病院の院長や社会福祉施設の施設長、あるいは法人の理事長などとリアルに話し合う機会が増えてきたことと関係があります。少なくとも2年以上、最長10年ぶりに直接話し合った仲間達は、一見何も変わりがないようにみえますが、言葉の端々にこの期間に起こった苦闘を感じます。
「感染防止対策で緊張が続き組織をまとめるのが大変になった」「ついに感染者がでてクラスターになって大変だった」「職員の離職が相次ぎまいった」「人がいなくなると残業時間が増え、シフトが厳しくなるので休職者も離職者もさらにでて、どうしようもなくなりそうになった」「スタッフは頑張ってくれているのだが組織がまとめられない」「なにしろ人が採用できないが、リーダーの人材不足が深刻」「これから先どうすれば良いのか考え込んでしまう」「これから先うまくやっていけるのか自信が揺らぎ、なんとなく不安だ」。
久しぶりに会ったのに話合っていると愚痴とボヤキの言い合いみたいになりながら、みんな苦労しているということだけは共有できているようにも思うし、孤独で苦戦している組織トップの集まりなので、ポツンと本音で話しているようにも感じます。
こんな体験から、社会も経済も深く傷ついてしまい、なんでもないコミュニュケーションが崩れ、通じなくなった個人や組織がさらに傷ついているように思えてならないのかもしれません。ただ、ほとんど組織のトップたちは、厳しい状況においても、何とか誠実に真摯に組織をまとめ、成果を達成するために考え、何とか組織を率いようと考えていることだけは伝わってくるのです。
もう少し話を進めると、経営者や組織長としてどうすれば良いのかという話と、リーダーシップを再学習する必要がありそうだというとりあえずの結論に到達するのです。「結局、自らを深く知り、何事も謙虚に対応して、感謝を述べながらプロとしの強い意志を貫くしかないじゃないか」などといいつつ、頭では「リーダーとして成功する資質や条件なんて存在しないので、天の時・地の利・人の和だ」とつぶやいているのです。
◎リーダーシップ関連書籍をいくら読んでも正答はない
リーダーシップに関する書籍は、世界中にあふれています。英雄や名将の伝記や物語、リーダーシップ・スタイルの研究や時代区分別分析、どのような書籍や研究があるか調査・再評価して紹介した著作など、山のような書籍と研究があります。マネジメントを説明しようとするとリーダーシップとの関連を説明する必要があります。研究論文や関連書籍を毎年5冊以上は読み続けてきましたので、半世紀過ぎた時点で書架にあふれています。
リーダーシップに関する書籍は、どれも楽しく新しい発見があります。ただし、最新のものが最先端かどうかは判断できませんし、リーダーシップを専門に研究されている方には申し訳ありませんが、これって科学なのか学問なのかさえ理解できていません。わが国でのリーダーシップ研究の第一人者の金井壽宏博士(神戸大学名誉教授)は、かつて次のように書き記しています。
「リーダーシップ研究は膨大な数があり、幸か不幸か『組織行動論のなかで最も研究され、いまだ解明されることが少ない領域』というレッテルが貼られている(HBS「リーダーシップ:経営力の本質」33巻第2号、ダイヤモンド社、2008・2月、P42)」と。
トップだからといって全て思い通りにはいきませんし、専制主義的態度ではヒトがついて行きません。だからといって全て人任せで、責任を他者に押し付けるような行動をとれば、部下は育たないばかりか、人は去っていきます。KKD(経験・勘・度胸)と揶揄されることが多いですが、どれもないのではトップは務まりませんよね。それなりの組織のそれなりのトップは、方法は別として「勉強」するしかないないのです。だから、本を読んでみる。しかし、それでリーダーシップが身につくかどうかは分かりません。
◎鍛錬し続けなければならないのはインテグリティといえる
リーダーシップ・スタイルには、いろいろなバージョンがあるし、状況に応じて使い分けが肝心です。ただし、リーダーとして成功する資質や条件を特定できるわけではないですが、ある程度のリーダーシップはトレーニングやポジション・パワーによって獲得できます。正直、わたしの理解はこの程度しかありません。
リーダーシップに関しては、誰でもがその存在を認め、少なくとも自分はどのようなことを望んでいるかという思いがあるのです。もっとはっきりいえば「あの人の下では働きたくない」「理想の上司はイメージできる」「最低限上司に求めるもの」ということについては、組織労働体験者ならだれでも明確な体験的基準があると思います。ではどのようなリーダーシップがお好みですか?
やさしい人、いつもニコニコ挨拶してくれる人、人をバカにしない人、金払いが良い人、共感、謙虚、感謝、情熱、自覚、確信、決断力、責任感、適応力、正義感、強靱な精神力、そして真摯、誠実、正直、高潔などという答えが返ってきます。リーダーの資質や条件を特定できないことは確かですが、リーダーシップに求められる要素は沢山あるということです。
その究極の答えが、リーダーの人間性の中のインテグリティに集約可能で、成功した多くの経営者が自覚してきたのかもしれない、とわたしは思うのです。もしご賛同いただければ、リーダーは日々真摯さ・誠実さを意味するインテグリティを鍛錬するしかないと結論できます。
個人や組織が傷ついていることについて、いろいろなことを考えてきましたが、組織のトップである人が深く傷つき思考停止状態になり、仕事に対する意欲をなくしてしまうことは、組織にとって最大の危機です。なんとしても組織を牽引する多くのリーダーたちが蘇りリーダーシップを発揮して欲しいと願います。
社会医療ニュースVol.48 No.562 2022年5月15日