小山秀夫 著「DXリープ・フロッギング戦略」発売中

この度「介護と医療のDX推進」「2024年は選挙とAI」をテーマに、
社会医療ニュースに連載してきた記事と、新たに書き下ろした原稿を1冊の書籍にまとめました。

お金もない、人材もいない、余裕もない、そもそも何からはじめたらいいか分からない!
そんな中でも介護・医療のDXを進めたい皆様へ読んでいただきたい一冊です。
今からでも遅くない、リーダーシップを発揮して、カエル飛びで進めるDXを始めましょう!

書籍最初の「読者の皆様に」を特別に公開しておりますので、ぜひ一読いただき、ご興味持っていただけましたら書籍をご購入いただけますと幸いでございます。
一部書店店頭、各オンライン書籍販売サイト、日本ヘルスケアテクノ株式会社HPよりご購入いただけます。

タイトル:「DXリープ・フロッギング戦略」
著  者:社会医療研究所 所長 小山秀夫
価  格:2,200円+税(2,420円)

読者の皆様に(書籍「DXリープ・フロッギング戦略」より)


世界の2024年の潮流はAIと選挙

今、世界は激動の時代を突き進んでいます。2024年はパリオリンピック・パラリンピックが開催されましたが、世界の潮流はAI(人工頭脳)と選挙です。


まず、AIですが、2023年12月1日からマイクロソフト社のCopilotが提供開始され大人気になりました。Googleの生成AIサービスGeminiは、12月13日から利用可能になりました。その後、2024年2月9日には、以前のBardサービスがGeminiに統合されました。東京都港区に拠点を置くAIスタートアップ企業「Starley株式会社」が開発したCotomoは、2月21日にリリースされた音声会話型おしゃべりAIアプリで、すぐれものです。

これらのアプリは無料で利用することが可能ですので、デジタル技術を活用し業務やビジネスモデルを変革し、あたらしい価値を提供するDX(デジタルトランスフォーメーション)のこともAIのことも、何も知らなくてもだれでも利用可能です。「習うより慣れろ」といういい方がありますが、まずはご自分の携帯電話にインストールして下さい。

わたしはAIの専門家でも、DXの研究者でもありませんが、介護、医療、看護、栄養、教育などの分野の方々に、4月以降毎週1度以上20分程度で、Copilot、Gemini、Cotomoのへたくそなデモンストレーションをさせてもらっています。

なぜそんなことをするようになったかといえば、言葉として「AI で世界は変わる」「人手不足でDX を進めないと生き残れない」といっても、馬耳東風という反応を示される方ばかりなので、いつしか「一緒にやると楽しい」を伝えるようになりました。

その前提とし「携帯電話は電話なので話しかける」ものだといいます。今やオワコンの代名詞のような固定電話が携帯電話になったというより、携帯電話がパーソナルコンピュータ化し生活必需品として進化していると考えて欲しいと思うからです。

介護や医療の現場では、誰もがPCに向かい合って作業していますが、音声入力し、AIに要約してもらい、転記して、最後に確認すれば膨大な記録時間は10分の1程度になり、デスクに向かい座り込まなくても利用可能です。何か公式な会議では速記者という専門職が今でも活躍していますが、録音と同時に文字に変換できるアプリの登場で、タイピストといわれた職業がなくなるのと同様なことが起きてくるのでしょう。


2024年2月から8月までのわずか6カ月間の生成AIの躍進は目を見張るものがありますし、9月以降も新しいタイプが発表されていますので、間違いなく今年はAIの年だと思います。生成AIには、テキスト・プログラミングコードと呼ばれるもののほかに、画像生成AI、音声生成AI、音楽生成AI、動画生成AIなど目的に応じたさまざまな種類やサービスがあります。AI(Artificial Intelligence)はDXの一部でしかありません。DXは、世の中に存在するさまざまなモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信し合ったりすることで自動認識や自動制御、遠隔計測などを行う情報通信システムやサービスのIoT(Internet of Things)、雲のようにつかみどころのないインターネット上のリソースを、必要に応じてサービスとして利用するという概念であるCloud、5G、Big Data、Robotを活用することによりあらゆる業務が変革されることを総称した概念と理解することができます。


かなり以前の2018年に経済産業省が作成した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」の中で、「既存システムの問題を解決しなければDXが実現できず、2025年以降、最大毎年12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警鐘が鳴らされたことは重要です。何も対応しないことが、重大な損失になる事実をわたしたちは直視しなければなりません。

2023年11月30日、スイスの国際経営開発研究所(IMD)は7回目となる《世界デジタル競争力ランキング2023》を発表しました。1位は米国、オランダ、シンガポール、デンマークに続き、スイスは5位です。6位が韓国、それ以降スウェーデン、フィンランド、台湾、香港と続きます。日本は前回調査から3つ順位を落とし、32位になってしまいました。日本のデジタル競争力の低下は、政府にも企業にも、そしてわたしたちにも大きな影響を与えています。


DXが政治と関係していることは明らかです

つぎに選挙です。今年は日本の首相もアメリカ合衆国の大統領も変わりますので大きな変化が起きると予想できます。

台湾総統選挙は1月13日に投開票され、与党・民主進歩党(民進党)候補の頼清徳氏が当選しました。

インドネシアの選挙管理委員会は3月20日、2月に投開票された大統領選の集計結果を確定し、国防相のプラボウォ氏が当選、副大統領には現職ジョコ大統領の長男ギブラン氏が就くと発表しました。

ロシア中央選挙管理委員会は、3月15日から17日にかけて行われた大統領選挙で、現職のウラジーミル・プーチン大統領が87.3%の得票で当選を果たし、任期は2030年までの6年。2000年の初当選から数えて5回目の当選となることを発表しました。

メキシコでは6月2日、大統領選とともに、上院・下院の議員選挙とメキシコ市を含む9つの州知事選が行われ、与党連合が大勝しました。これによりアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、9月から始まる新国会で司法改革、選挙制度改革、国家警備隊の軍への配属、正規労働者の年金制度改革など(通称:プランC)の一連の憲法改正に着手することになります。

7月4日のイギリス下院(定数650)の総選挙では、野党・労働党が209議席を増やして411議席の単独過半数を獲得し、14年ぶりに政権を奪還し、キア・スターマー党首が新首相となりました。1997年に政権を奪還した労働党のブレア首相は、国民保健サービスNHS を診療待ち時間がないファーストクラス・サービスにすることを公約に掲げ、約10年の長期政権でした。後を継いだブラウン首相は2010年の総選挙で保守党のキャメロン党首に大敗しました。その後、メイ、ジョンソン、トラス、スナク各氏とバトンが渡ったのですが、ユーロ圏との関係も経済の立て直しもできず政権を維持できませんでした。

論点のひとつが、NHSの待ち時間が長くなり、入院医療に対する不満が解消できるのかどうかでした。イギリスのNHSは、終戦後の日本にとって憧れであり、ウィンストン・チャーチルの「ゆりかごから墓場まで」という福祉国家建設の理想は、国際的にも高く評価されてきました。

ただし、戦後80年を向かえようとしている今日、それは理念や仕組みへの評価に過ぎず、イギリスの医療の質的水準が世界最高と評価されたことはほとんどありません。登録医制度とし原則医療費を租税で賄うことは素晴らしいことであると考える人々は多いと思いますが、税金ですべて賄う医療サービスは競争原理が働かないので患者サービスの質が向上しないという事実を直視していない場合があまりにも多すぎます。

多くの選挙民は、国際政治より日々の家族への所得保障や医療サービスに高い関心があるので、そのサービスが低下すると一気に不満が噴きだしたのだと判断できます。

7月7日投開票のフランス総選挙は、世論調査で2位が予測されていた左派連合「新人民戦線」が議席数で首位に立ち、首位とみられていた極右「国民連合」が3位に沈む結果となりました。パリ中心部では「左派支持者が歓喜し、極右支持者は落胆した」と報道されました。マクロン大統領の不人気には、年金給付水準引き下げ断行への反発があります。


最近の欧州の政治では、移民排斥、愛国主義的自国利益追求型の極右勢力の拡大が注目されてきたことだけが強調されます。しかし、第2次大戦の教訓からどこまでも移民を受け入れようとしてきたドイツの政治的影響力が低下し、地球温暖化に対する危機意識、物価高、好転しない景気、そして社会保障財政危機で、フラストレーションが高まってきたのでしょう。裏をかえせば、年金や医療サービスに対す不満が引き金になっているのです。だから、社会保障のサービス水準を低下させないことが政治の使命なのだと考えられます。

このように世界の選挙の潮流を観察してみると、どこの国も社会保障制度の充実などによる自国民の生活への安定志向が優先される結果につながっているのではないかと判断できます。医療制度や年金制度、教育、住宅、各種社会福祉サービスの質的低下は選挙民から厳しく批判されます。移民排斥運動などがセンセーショナルに取り上げられますが、自国のDX化に成功している国と、逆に立ち遅れている国を比較してみれば、明らかに立ち遅れている国で移民排斥運動が高まっているようにみえます。アメリカ合衆国の不法移民問題は、その管理を政府が熱心にやっているかどうかという議論で、移民自体を排斥しているわけではありません。


前に述べた《世界デジタル競争力ランキング2023》で、日本は前回調査から3つ順位を落とし32位になってしまいましたが、英国は20位で前回より4つ、フランスは27位で5つ順位を落としました。

インドネシアは45 位でしたが6つ、メキシコは54位でしたがひとつ順位をあげています。

多分、各国のDXの将来は、時の政権の姿勢に左右されることは明らかです。つまり、DXは政治と関係していることは明らかなのですから、選挙結果とDX推進は密接に関連するということです。


Boiling frog syndrome から Leap frogging

「ゆでガエル症候群(Boiling frog syndrome)」は、グレゴリー・ベイトソンが初めて寓話として発表しました。彼は、1950〜1970年代に活躍したアメリカの精神医学者で文化人類学者です。日本では1998年に刊行された桑田耕太郎、田尾雅夫「組織論(有斐閣アルマ)」という本の中で初めて紹介されました。

生きたカエルを熱湯で満たされた鍋に入れるとすぐに飛びでてきますが、あらかじめ水を入れた鍋にカエルを入れてゆっくり温めると、飛びだすことがなく煮られて生命をおとすという寓話です。翻って、環境に慣れて順応することは大切だが、環境に慣れすぎると変化に気づかず、常にアンテナを張って環境の変化に敏感になり、リスク回避や成長のために最適な対応をすることにより生き残れるというビジネス界の戒めとして流行したのだと思います。

実際に実験してみると、ある一定の温度になると飛びだすカエルがいるので、あくまでもたとえ話に過ぎません。当時、ぬるま湯につかってのんびりしていた大企業の社員を揶揄するニュアンスと、日本で「失われた10年」といわれ始めた時期の世相を反映したお話しとして今でも語り継がれています。


もうひとつ。「リープフロッグ現象(Leap frogging)」という言葉をご存知でしょうか?リープフロッグとは「leap(飛ぶ)」と「frog(カエル)」という2つの英単語を組み合せて作った造語で、「カエル飛びする」様子から、アフリカで起きている急速なIT化の要因を説明できるのではないかということでLeap froggingをカエル飛び型開発と翻訳しています。

リープフロッグ型発展とは、既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービスの導入と普及が先進国の歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まることを意味します。

社会インフラが整っていない途上国は、先進国と同じプロセスを踏んでテクノロジーやサービスが発展していくとこれまで考えられてきました。しかし、道路も電力供給もままならない開発が進んでいない地域では、電柱も電線も基地局がなくとも太陽光発電と衛星通信のためのアンテナと衛生通信用スマートフォンがあれば、私たちと同じインフラのサービスがどこでも受けられるのです。

このようなことがアフリカやモンゴルで急速に普及したのです。このように現地の社会インフラの脆弱性を理由に、大規模なインフラ整備を必要としない低コストで効果のある選択肢が選ばれることがあります。スマートフォンがあれば、世界中のニュースもわかりますし、どこの国の音楽も聴けます。その上メールで世界中と連絡できます。もちろん、銀行口座も開設できますし、クレジットカードも手に入りますので、商品を注文してドローンで配達してもらうことも可能なのです。

Boiling frog syndrome も Leap frogging もどちらかといえば寓話の世界の話ですが、ものごとの本質をよく言い表しており、かつ面白みがあるような言葉の選び方なのではないかと感心します。これをDX の話に置き換えると、世界はDXが進んでいるのに、これまでの惰性で仕事を続けていると、いずれ大きな損害になるかもしれない状況です。それなのに、よくわからない、お金がない、人がいないなどと理屈をつけて自らの組織の脆弱性を悲観してDXに着手できていない組織は、極めて危険と判断せざるをえません。だからといって、誰かに任せればどうにかなるわけではありませんので、まずはDXを推進するという意思を明確にして、トップダウン型のリーダーシップを発揮して、組織全体で取り組む必要があります。


本書は、このようなことを繰り返し主張するために新たに書き下ろした文章と、40カ月前から社会医療ニュースに掲載した記事を、再編集して読者の皆様にお読みいただきたいと企画したものです。構成は、第1章 介護保険制度の課題と将来、第2章 日本は、今、ターニングポイントです、第3章 DXは、リーダーシップこそが最重要、第4章 介護・医療のリープフロッギング戦略、第5章 第20回日本介護経営学会学術大会のトピックス、です。

では、ご一緒にリープ・フロッギングの旅にでましょう!

社会医療研究所 所長 小山 秀夫