リーダーシップ論もマネジメント論も論文は山積ですが正答がない世界です
突然、マネジメントやリーダーシップなどということを書きましたが、医療や介護分野のマネジメントに関する話をすることになると、このことに触れないわけにはいかないので必要最低限の著書や論文を定期的に読んでいます。あまり意識されることがないかもしれませんが、リーダーシップ論もマネジメント論も時代とともに変化し毎年多数の新刊本が書店に山積みされます。また、この両者を表題名に取り入れる論文も多量ですし、両者の違いを研究した論文も多数あります。
ビジネスには、発想、発明、発展のマインドが求められますが、事業を継続するにはマネジメントやリーダーシップが是非とも必要なのです。マネジメントを徹底しないと事業は継続できませんし、必ずどこかのタイミングで事業自体を変革しなければならなくなりますのでリーダーシップが求められます。
徹底的に鍛えあげられた組織では、特別なリーダーシップを発揮しなくても日常業務は円滑に機能しますし、必要もない業務手順の変更は業務に支障をきたしますので不要なリーダーシップの発揮が組織構成員のやる気を失わせる危険があります。今まで通りに指示された業務を完璧にこなしている人にとって、多くの場合業務手順の変更はストレスです。課長が交代すると、前職のやり方を自らのやり方に固執して変更するだけでもブーイングの嵐が巻き起こるものです。
他方、自らが所属するチームが組織的に行き詰まっているとか、これ以上成長できない、生産的話し合いも少ないし、良いアイデアがあるわけでないといった場合は、職階に無関係にリーダーシップが求められます。いずれの場合もリーダーシップは、振り回すものではありませんし、見せつけるものでもなく、マネジメント同様、目に見えるわけではありません。
◎人材確保のマネジメント
最近というか、今年3月ごろから退職者、退職希望者が増えてきた社会福祉法人や医療法人が少なくないように思います。人材募集を必死で進めても確保できないぎりぎりの状況での退職者の増加は、深刻です。退職理由が出産、育児、介護、パートナーの転勤、高齢などということであれば諦めるしかありませんが、「より安定した大きな会社への転職、やってみたかった職業、給料が月4万円上がる、各種の新しいスキルが身につく、ここにいても先行き昇進が望めない」などの理由を明確にされると、残念というより人材定着化のマネジメントシステムを変更する必要であるということになります。
若者人口が急激に減り、国民全体の平均年齢が上昇し、そのうち高齢者の人口も減る日本で、労働集約型産業を支えるのは至難の業です。多分何も特徴も特色もなく労働力を集めたいというマネジメントでは、労働市場の側から見捨てられます。それゆえ、何とかマネジメント自体を変革する必要があることに多くの人々が気づきだしているのだろうと思うのです。
◎社会福祉も看護も危険水域
介護福祉士の不足が深刻ですが、介護福祉士養成校はどこも定員割れという状況が続いています。その上、社会福祉士養成校も不人気でこれまた定員割れしてきている大学が多数です。4年生大学の看護学科は、どうにか定員が確保されていると考えることができますが、看護師養成専門学校は大苦戦している状況をどのように考えればよいのでしょう。
介護福祉士養成の短大等の関係者の話では、高等学校の進路指導の先生が「看護師さんの方がいいよ」みたいな傾向があること、看護大学は大人気で今や303校になったもののこれ以上増えれば定員割れする大学が続出するかもしれないと予想する人々もいます。このことを医療や介護の分野の人々はどのように考えているのでしょうか。
一番重要なのは平均的給与水準です。医療従事者では医師のみが給与水準が高いことがよく知られていますがOECD各国と比較してみると平均以下で、その他の医療従事者の給与水準は大企業の給与水準に到達していません。介護福祉士は看護師に及ばない状況が改善されていません。では、職業の魅力は、昇進は、働きやすさは、生涯働けるのかなどはどうなのでしょうか。
このままではいずれ介護ばかりか医療の分野でも人材が確保できなくなるのは明らかでしょう。それゆえ、医療や介護の職場のマネジメント体制を徹底的に変革しなくてはならないのではないかと考えられるのです。
◎正答のない世界への挑戦
リーダーシップやマネジメントの議論は、永遠不滅のように感じられますが、正答のない世界でリーダーシップとマネジメントを変革する必要があるのです。マネジメントを総合的に点検し、リーダーシップを徹底的に強化することが必要なことは事実です。そして、多くに組織ではこの両者ともを改革する必要性に迫られているのではないでしょうか。
第1に、働かせるのでも、働いてもらうという意識ではなく、みんなで働こうという姿勢を前面にだす必要があります。働く側も「給料がいい、仕事がらく」という判断だけではなく、働きやすく、人間関係も良い、仕事にやりがいがあって、ともかく楽しいなどといったことを評価してくれるはずです。
第2に、職場環境の改善です。パワハラ、セクハラをはじめ妊産婦、育児や介護休暇取得者、障がいと暮らす職員、日本国籍以外の職員に対するあらゆる差別が起きない環境整備が必要です。職場環境で改善が必要であれば早急に対応しましょう。学習環境の整備も必要です。本人が望めば、新たな資格取得のための物心両面の支援や通信制大学や専門職大学院での学習奨励、奨学資金の援助なども効果的です。
第3に、職階に関係なく有効なリーダーシップを高く評価し、マネジメントの改善についてはトップダウンではなく話し合いで決めることを原則に進めましょう。このようなことは、時間もかかりますし手間も必要ですが、トップダウン型のリーダーシップから分散型に変化し、厳格なマネジメントから働きやすく職員が業務を楽しめるようなものに変化させることが、必要だと思います。
社会医療ニュースVol.49 No574 2023年5月15日