リーダーシップが非言語的要素で決定されるとすればどうするのか
今、混沌としている世界は、まったく新しいタイプのリーダーを求めているのではないかと思うことがあります。それがどういうタイプなのかは説明できませんが、これまで一時的にも世界中からリーダーと認められたことのある人でもないし、リーダーシップのスタイルを分類したどのタイプにもあてはまらない気がするのです。
個人的体験では、学者、研究者、医者、経営者、病院や社会福祉施設の管理者と呼ばれる職業のリーダー達と長年時を過ごしてきたため、モノの見方が歪んでいるかもしれないとか、これらの分野のヒトは全体からみれば大多数ではないので、このような人々との交流からえられた体験値は一般化できないのではないかと考えてきました。
ただ、大学とか研究機関、医療や福祉の現場では、どう考えてもトップリーダーの責任は重く、その優劣が成果を左右していることが明らかになるという体験を何度もしました。もちろん、それは上層部に限らず中間管理層でも同じことです。そんなことから長年、リーダーやリーダーシップに関する研究について関心があります。
ドイツ・ベルリン大学でゲシュタルト心理学者として注目され,アメリカ移住後はグループダイナミックスなどの領域で驚異的な量・質の研究を推進したクルト・レヴィン(1890-1947)という社会心理学者の巨星がいます。
レヴィンは、リーダーシップを「専制型リーダーシップ」「民主型リーダーシップ」「放任型リーダーシップ」の3つに分類しています。この分類は、リーダーシップの専門書には必ず引用されます。
リーダーシップ論には、各種タイプがあるものの、最大公約数的に目的をまとめてみると、「目標を達成する」「組織内の結束を高める」「個人の成長を促す」ことについて各種の主張を展開しています。
1966年に三隅二不二先生は、「PM理論」を公表し「目標達成機能:パフォーマンス」と「集団維持機能:メインテナンス」のどちらを重視するかによって、リーダーシップのタイプが違うことを主張しました。古典的な分析のひとつとして、今でもアメリカの多くのリーダーシップ論の教科書に掲載されています。
◎いくら本を読んでもリーダーは育たない
実は年に3ないし4回ぐらい「リーダーシップ論」の講義を引き受けてきましたが、諸説を紹介することしかできず「自らのリーダーシップを考えて実践してください」としか伝えられません。こんなことを20年間も繰り返して申し訳ないようにも思いますが、「こうすれば良い」などという無責任なことは言えません。
医療や福祉の現場の人々には、ロバート・K・グリーンリーフの「サーバントリーダーシップ」(金井壽宏監訳・金井真弓訳)が人気です。上司は部下に対してサーバント(奉仕する人)やコーチの役割を担うという考え方です。何しろ、トップダウンのリーダーシップは明らかに限界があり、統制型のマネジメント手法だけでは部下は生き生きと働けない職場では、有効です。
この他2020年以降、リーダーシップに関する良書が数多くありますが、特徴的なのが、リーダーシップの重要性が改めて強調されるようになっているように思うのです。これは明らかにパンデミックの影響やプーチン戦争の恐怖と関連しているとしか考えられません。
とても残念なのですが武力行使や伝染病の驚異の前では、読書はそれほど力がありません。
◎強いリーダーは専制的民主的リーダーは弱い?
個人的意見ですが、ロシアや中国の指導者は専制的で強く、民主的を守ろうとする国のリーダーが弱そうにみえてしまいます。何の根拠もないですが、ドイツのメルケル元首相、トランプ前大統領は強そうにみえてしまうのです。こんなことは、リーダーシップ論の教科書には書いてありません。
政治の世界でも、UCLA校のアルバート・メラビアンの実験結果が独り歩きして「人は見た目9割」という反応が起こるのでしょうか。メラビアンの法則は「情報が相手に与える影響は、言語7%、聴覚38%、視覚55%だった」と示しただけです。政治の世界でも「言った言わない論争」がありますが、少なくとも「言った内容は7%に過ぎず、その他が9割あるかもしれない」程度の話にすぎません。
仮にそうだとすると、私たちは見た目だけで投票して、見た目が世論を形成していることになります。見た目を完全に否定することはできませんが、見た目はイメージにすぎず、そのイメージ戦略が勝てれば選挙結果を左右する。これがリアルだとすると、なんとなく割り切れない思いが残ります。
逆に考えてみると、政治の世界では「何をいうかよりも、どのようなイメージなのかの方が重視される」わけですから、政治家は常にイメージ戦術をたて、それを実行すればいいわけです。
恐ろしい話ですが、「リーダーシップが非言語的要素で決定される」とすれば、どのようにリーダーシップを受け取ったり、発揮するのかを再考する必要がありそうです。
社会医療ニュース Vol.49 No.577 2023年8月15日