カリスマ的専制的統制的で統括型のリーダーもマネジメントも通用しない

「沈黙は金、雄弁は銀」とは、19世紀のイギリスのトーマス・カーライルの『衣装哲学』の中の一文で「説得力のある言葉を持つことは大事だが、黙るべき時を知るのはもっと大事である」という表現方法です。

この言葉は、時代とともに意味が変わりますが、「黙っていた方が気持ちは伝わりやすい」と、「余計なことを言わない方がいい」という意味に大別できそうです。ただ、最近は後者の意味が強く、「黙っていることが得で、余計なことは言わない」という意味でしか使われていないように思います。一昔前は、「黙っているのが吉」「言わぬが花」「口は災いのもと」などという感じで受け取られていましたが、最近は「言うのも面倒だし、なにも変わらないので、言うだけ損」というコミュニケーション上の問題が生じているように思うのです。

成人になるまでに海外で暮らしていた人、あるいは暮らしたことのある人は、しっかりした意見を言うことが日本国内で育った人より多いのではないか、と思います。別の言葉でいうと「自己主張が強い」「意見を言わなければ理解されない」「自分の考え方を修正しない」というネガティブなとらえ方もありますが、「何事にも自分の意見を持っている」「アイデンティティーが確立している」という評価もあります。

「黙っているほうが得」なのかどうかは分かりませんが、「言うだけ損」と思い込んでいる人が少なくないように思います。部下を持つ上司も「なんだかんだと言ってくる部下より、黙ってしっかり仕事してくれれば良い」と考えはじめると、相対的に会話の量と質が低下するように感じます。特に、Zoomなどで会議をしていると、明らかに会議時間が短縮できますし、情報伝達はできても、どの程度「言うだけ損」と思い込んでいるのかが、よくわからないことがあります。

なるべく完結明快に発言することは大切ですが、「言うだけ損」と思い込んでいる人が参加している場合は、会議以前に「発言しないことを決定している」ので「合意できたかどうか確認しながら話を進める」必要があり、手間取りますし、面倒です。最も多いトラブルが「聞いていない」「賛成した訳ではない」「意見としては聞いたが明確に決定されていない」というたぐいのことです。

◎リーダーの資質の低下問題は従来型マネジメントの限界

このようなことを感じるのは、最近、各種の職場で「コミュニケーションがうまくないのではないか」とか「従来のマネジメント方式では適応に限界があるのではないか」、あるいは「この人のリーダーシップでは無理なのではないか」といった場面に遭遇する機会が増えたのかもしれません。あるいは、物事をポジティブに受け取れなくなりつつあるのかと自問自答することが多くなっただけのことに過ぎないのではないか、と思います。

「上司の言うことが絶対だ」なんてことはありませんが、日本の組織は「上司に従順な部下」という文化があるのかもしれません。ただ、このようなことを逆手にとって「部下は言われたとおりにやればよい」と勘違いするのは傲慢です。中には「与えたられた目標を機械的に達成すればよい」とか「トラブルを起こさず順調ならよい」「もし問題が発生しても自分で処理し、上にあげなければよい」などと勘違いしている上司もいます。

病院や福祉施設、大学や介護会社のトップマネジメント層の皆様は、まず「人がいないのが問題」とおっしゃいますが、どんなに必死に募集しても人が応募してくれない」という現状から「従来と同様な方式ではどうにもならない」と問題点を明確にしている場合では、対応が異なります。

あるいは「組織内で人が育っていない」とか「部門を任せられる中間管理者が確保できない」、はたまた「経営を任せる後継者がいない」などという深刻な課題を抱えている組織もあります。

まず、「人がいない」はどの分野でもそうです。人口減、生産年齢人口の減少、求人倍率の上昇、給与水準の高騰は、今後も継続することを覚悟しなくてはなりませんし、従来型の採用とか募集システムでは、もはや誰も応募してきません。はっきり言って事業の成否は人を集められるかどうかなのです。

つぎの、これまで組織が長年進めてきた従来型マネジメントでは、時代に対応できず、明らかに限界に達しているのではないかという観点から、募集システムから退職規定までの人的資本システムの総点検、給与水準、産休・育休・介護休暇などのシステムの徹底的見直し、本紙で何度も注意喚起しているダイバーシティ・インクルージョン・マネジメントの明確化などは不可欠なのではないかと、私は思います。

その上で、リーダーの資質の低下に対応することが必要です。外部から優秀なリーダーを採用したいという衝動はよく理解できます。しかし、その前に働いてくれる人々に、組織が働きやすいかどうかを、組織内部の人々と話し合わなくてはならないのではないでしょうか。

◎自組織が時代遅れなのかスタイル自体は間違いか

従来の、軍隊や官僚組織を原型とするカリスマ的専制的統制的で統括型の組織、マネジメントやこのような組織を前提としたリーダー育成とか、これまでのリーダーシップのタイプ自体が時代遅れで、これまでのマネジメントやリーダーシップが通用しなくなりつつあるのだという認識を共有しないと、何も問題は解決できないのではないかと、私は思うのです。

パンデミックの対応で、組織内の組織がガタガタになったのでないかという、単なる心配は、全国各地を訪れてみて毎回確認することができます。同様なことを感じている全国の経営層は沢山いますが、まったく能天気で従来型を押し進めばいいのだとしか考えていない人にもお会いします。

どうしても生き残らなければならないと考えれば、時代に合わせて、自分も組織もシステムも変えなければならないのです。契機は人不足ですが、働き方改革やDXなども期待できます。

自己変革が必要です。

社会医療ニュース Vol.49 No.577 2023年8月15日