政治的リーダーシップに何を期待して投票するのかを改めて考え直してみる

今年の夏は、ウインブルドンもオリンピックも盛んだが、選挙や生成AIがあつい。

ものづくり経済から生成AI関連産業が世界経済を牽引し、社会そのものを変容させようとしているのです。今年76歳のAIの世界的権威レイモンド・カーツワイル博士が、人間を上回る知性が誕生するシンギュラリティー(技術的特異点)が2045年に到達すると予測してから、すでに35年が経過しています。それは「脳神経の働きをまねることで機械が自律的な人工知能の自己フィードバックによる改良を繰り返すことによって」達成されるものです。

30年前は半信半疑だったのですが、今では数年後に人間の知性を超えるシンギュラリティーが起きるような予感さえします。AIに人間が支配されるかもしれないことを危惧することも必要でしょう。ただ、1811年からイギリス中・北部の織物工業地帯に起こった自動織機のうちこわし騒動であるラッダイト運動のようなことをしても、世界は何も変わらないのではないでしょうか。

生成AIは、今やDXを牽引し、あらゆる部門でイノベーションを起こしているようにみえます。それは、あらゆる情報がデジタル化され、大量の情報が蓄積され、相互に情報交換され、ディープラーニングにより構築された非常に大規模な機械学習モデルが機能し、デジタルの画像や動画、音声や音楽、文章やコードなどのテキストが瞬時に生成できるからなのです。

音声通話に限らず、パソコンと同じようにインターネットに接続するためのオペレーティングシステムを備えた携帯電話であるスマートフォンにより、四六時中利用可能です。どこに移動するにも地図も時刻表も必要なく音声で道案内してくれます。繰り返しインターネット上で検索しなくとも会話しながら疑問に答えてくれます。語学も音楽も数学も科学も哲学も得意です。

ただ「バイデン大統領とトランプ元大統領のどちらが当選するのか」といったプロンプトに対しては、何度やっても結論はえられません。つまり、膨大なデータを集め機械学習モデルを駆使しても正答がえられない政治分野のことは、あまりよくわからないのです。

◎政治的リーダーシップどんな価値があるのか

6月28日午前10時からジョージア州アトランタで開催された大統領選挙に向けたテレビ討論会が、CNNテレビのスタジオで観客も入れず、司会と候補者だけで進められ、世界に配信されました。
81歳のバイデン大統領と78歳のトランプ元大統領は、インフレや移民政策、人工妊娠中絶、ウクライナやガザなど主要な争点について主張を戦わせましたが、双方が相手について「大統領にふさわしくない人物だ」と罵りあっただけで、何も建設的討論はありませんでした。

これは「高貴なウソ」です。ソクラテスの弟子で、アリストテレスの師プラトンの主著である『国家』第3巻で用いた言葉で、転じて為政者が全国民を説得する(納得させる)ために用いる作り話・虚構を意味します。「高貴な嘘」の本意は、為政者が自分の利益・権益を獲得・拡大・正当化するためのもではなく、あくまでも「全ての国民が、各々の役割に納得・満足し、国家共同体として調和・一致結束できるようにさせる」ことを目的とするものです。

この意味では、真っ二つに切り裂かれた世論を背景に「ウソかもしれない一方的な主張」をわめき散らすより、せめて「高貴な嘘」であって欲しいという願望があるのかもしれせん。この討論会をみた有権者の多くはたぶん、政治的リーダーシップに何らかの価値を見出しているか、どちらが正しいと思えるか判断していない人々なのではないかと思います。

もし、どちらかの意見の正しさには確信を持てず、どちらかの意見にも頼らずに行動しなければならないのであれば、途方に暮れるか絶望せざるをえないのかもしれません。

◎政治と経営学としてのリーダーシップの違い

リーダーシップとは、カリスマ的なリーダーによる力強い統率力のようなイメージがありますが、実はさまざまな種類があります。企業経営とか組織運営という世界では、リーダーシップが重要視されます。何をどのようにすれば良いという正答はなく、状況区分別に「こうするとよい」という結果がでたという経験則が蓄積され、分析されているだけです。

経営学では、何しろ正しいことを選択し、周囲の人々を巻き込んで、目的を達成することを求めます。一時的な利益より、組織の経営継続性が求められます。それゆえ、リーダーの個人的資質に着目します。

政治的リーダーシップは、主に政治学や歴史学の真骨頂です。そこでは、本人の資質より結果として成果があったかどうかが全てです。危機に立ち向かい、困難を克服したヒーローが賞賛され、負けたら全てを失います。

結局、どのような政治的リーダーシップをどのような理由で求めているのかということです。不利益を回避してリーダーとしてグループメンバーを牽引して、最終的に勝利に導いてくれることを期待することもあるでしょう。これ以上の深刻な分断を阻止して欲しい、と思う人もいると思います。

人々が何に期待しているのか、自問自問するのが選挙なのです。だから選挙は、意味深く、熱い戦いになるのでしょう。

社会医療ニュースVol.50 No.588 2024年7月15日