科学的介護情報システムLⅠFE登場で介護事業者は真っ先にデジタルに突入

詳細な通知は公表されていませんので正確に理解していないかもしれませんが、今回の介護報酬改定で「介護サービスの質の評価と科学的介護の取組を推進し、介護サービスの質の向上を図る観点から、事業所のすべての利用者に関わるデータ(ADL、栄養、口腔・嚥下、認知症等)をCHASEに提出してフィードバックを受け、事業所単位でのPDCAサイクル・ケアの質の向上への取り組みを評価(科学的介護推進体制加算)するものです。なお、平成3年度よりCHASE•VISITを一体的に運用するにあたって、科学的介護の理解と浸透を図る観点から統一名称『科学的介護情報システム(LⅠFE)』を用います」という説明がなされています。

『CHASE(チェイス)』は、Care,Health,Status,Eventsの頭文字を組み合わせた言葉で、介護サービスの利用者の状態の情報を集めて蓄積し、データベース化して活用することを意味します。『VISIT』は、通所・訪問リハビリテーションの質の評価データ収集に係るシステムの名称として英語圏ではおよそ通用しないであろうヘンテコリンなアルファベットの組み合わせです。LⅠFEは、まともにLong-term care Information system For Evidenceの略語です。

なぜデータベース化が必要なのかというと、医療の分野を思い出してもらえるとわかりやすいかと思います。現在の医療においては、『根拠にもとづく医療』が定着しており、これまでに蓄積された様々な情報をもとに最新かつ最良な根拠を用いて、患者さんそれぞれに合った医療を提供するために活用されています。介護の分野でもこのようなことを本格的に行い「科学的介護情報システム」を確立したいという強い思いが伝わってくる報酬改定です。

◎科学的介護推進体制加算の対象と内容は多岐で複雑だ

この加算の対象は、来年度には廃止が決まっている介護療養型医療施設を除く介護保険施設、通所系、居住系、多機能系のサービス全てです。提出するデータはADL値、栄養状態、口腔・嚥下機能、認知症等のデータで、利用者1人につき月40単位を算定できます。

施設系では、さらに疾病・服薬情報等のデータを提出できる加算が設定されています(加算Ⅱといいます)。老健施設や介護医療院では、利用者1人につき60単位、特養などでは服薬情報を求めず50単位が設定されています。凄いのは、リハビリテーション・マネジメントや個別機能訓練加算、褥瘡・排泄加算、口腔管理等に関する加算においても、LⅠFEを活用しデータを提出した場合、特別加算が設定されていることです。

今回の改定では、リハビリテーション、個別機能訓練、褥瘡・排泄、咀嚼・口腔、栄養の取り組みを一体的に運用し、自立支援・重度化防止を効率的に見直すという意図が明確に読み取れます。実際にリハビリテーション、機能訓練、口腔、栄養に関する加算の算定要件になっている計画や会議について関連する各職種が必要に応じて参加することを明文化したり、各種計画書について重複する記載項目を整理したり、それぞれの実施計画を一体的に記入できる様式を提示しています。

また、施設系サービスで廃用症候群の発生や寝たきり防止の観点から画期的な『自立支援促進加算』が新設され、医師が入所者ごとに自立支援のために必要な医学的評価を入所時に実施し、少なくとも6か月に1回の再評価、計画見直しに参画し、医学的評価に基づき、少なくとも3か月に1度各専門職がLⅠFEを確認しながら共同で支援計画を策定し、ケアを実施した場合、月300単位を加算できるようになりました。

◎加算算定のためには業務のデジタル化が不可欠なのだ

1頁で改定率に不満なことを述べたのは、感染が拡大し緊急事態宣言が発令され、全国各地の介護事業者や介護保険施設からクラスター発生の連絡を受けていた渦中の公表であり、正直がっかりしたからです。同じような思いは、全国で共有されていたのではないでしょうか。ただ、改定内容をしっかり読み進めると、改定率は僅かでも仕掛けが大掛かりに思えるようになりました。

特養を経営する社会福祉法人の理事長たちは「医師が本気で協力してくれるのか」「すごく良い先生だがあまりに高齢で対応してもらえるだろうか」「算定できる体制がつくれない」「LⅠFEの意義が理解できるが人がいない」「施設内のデジタル環境を改修する工事費がない」「新たにシステムを組まないと業務が回らない」「ぎりぎりの職員数なのに複雑化すれば退職されてしまう」「作業療法士さんとか管理栄養士さんはどこかにいないか」など、すごい反響がありました。

今回の改定について特養関係者の多くは「医療の関与が大きくなった」と感じ、老健施設でも「ついて行けるか不安」だという正直な感想を話す人が多いです。ビッグデータを処理するから「データベースに情報を送れ」といわれているのは十分理解できるが、そのためには全職員が毎日利用者の状態を把握して記録し、その記録を管理して各職種で共有化し、目標や計画との齟齬を発見することも大切ですし、問題点を洗い出さなければなりません。もちろん修正が必要ならただちに修正し、業務全体の評価もしなければならないのです。しっかりPDCAを回せばよいわけですよね。

まず、デジタル環境を改善する必要があります。PCの追加や、買い替えが必要です。辛いのは、オペレーションの見直しや、マネジメントをやり直しの必要が出てくることです。職員が対応してくれるのかという課題もあります。

でも、僅かな改定率に対応するために、真っ先にデジタル化に進まなければならないというわけです。デジタル化に伴う投資により真っ逆さまに経営悪化ということも考えられてしまうのです。

社会医療ニュース Vol.47 No.548 2021年3月15日