世のため人のためと強く思うことが生きにくい世の中をやり過ごす方法

このパンデミックで多くの方が働き方、暮らし方、生き方を変更せざるをえなくなったのではないかと思います。かつて大都市圏では「痛勤」などと揶揄され、30分以上電車に鮨詰め状態が当たり前でしたし、何しろ勤務時間が長く働き盛りは睡眠時間が取れないことが良くありました。その割に「飲み会」も仕事の延長戦のように盛んでした。

昨年入学した大学生は、入学式もなく対面授業もないまま2年生の夏休みを迎えています。他の地域から引っ越して一人暮らしを始めたのにアルバイトもみつからず、大学にも行けず、家にも帰れない状態が続いているのです。クラブも学園祭も学生旅行も何もなく、仲間も友人も恋人も誰もいないのです。学生に同情的な教員は、この窮状をよく理解していますが、対面授業全面解禁などと主張できる状況ではありません。

厚生労働省の「人口動態統計」速報値概数を久しぶりに眺めると、今年1月の出生数が83万人台、婚姻数が52万件台なのをみて驚きました。2年前の同月比を求めると▲9・1%と▲9・7%です。婚姻が減少すると相対的に出生も減少し、高齢化率は上昇します。

婚姻を増やしベビーの誕生をこれ以上減らさないため何ができるのか、考え込んでしまいました。なるようにしかならないから「ほっとけ」とは思えません。他人の結婚や誕生を称賛する雰囲気、結婚しやすく生みやすい仕組み、少なくとも利己的に考えても結婚や出産が社会的不利にならないような社会を実現しなければならないのではないでしょうか。

思わず利己的と書いてしまいましたが、結婚や出産は損得の話ではないし、性別によって考え方が分かれるかもしれません。でも「生み育てるのは人の性だ」と悦に入っている場合ではありません。子どものために無償の愛を提供するのは当然などと言えば「封建草の根オヤジ」と炎上するかもしれません。逆に「子を思う親に勝る、子の無償の愛」と言えば変態と揶揄されるのかもしれません。

◎利他的に生きることが不思議でない世の中に

全く根拠はありませんが「利他」という考え方は家庭内で幼少期に刷り込まれるのではないかと思います。別に宗教的とか道徳的な一方的な教育ではなく、経済的に豊かでなくとも昭和の三世代家族では珍しいことではなかったのではないでしょうか。家庭内教育などという言葉がありますが、東京の下町的雰囲気では生まれながらにして「寄り合い」「助け合い」「支え合い」という人間関係がはぐくまれ「自分だけが良ければいいわけではない」と諭され続けます。つぎが「人にご迷惑かけるのではない」だったように思います。

何か個人的な経験に過ぎないのかもしれませんが、こういった体験を話すと「うちもそうだった」とおっしゃる同年配の方が全国にいるらしいので、感覚的には「利他」は家庭内の刷り込みだと思い続けているのでしょう。「自分を犠牲にしても他の人を助ける」「自分以外のものに利益をもたらす」「世のため人のために生きる」などと書いて読んでみると、どこか照れ臭く、一切利己的ではなく生涯利他的に生きてきたなどと言えるわけはありません。

利己的であるのが人間の本性なのかどうかはわかりませんが、利他的であることは恥ずかしいことでも、不思議でもなく、ごく普通の人間たちの営みに過ぎないという理解が共有化されている地域社会で暮らし続けたいと思います。

◎利他的をベースとした医療や介護の職業人達

WHOがCOVID‐19と命名したのは昨年2月11日です。あれから18か月間、世界は怒涛のような日々を重ねました。パンデミックの対応に成功も失敗もはっきりしませんし、勝者はいません。ワクチンは感染防止効果が持続できず、3度目のワクチン接種が世界で始められようとしています。この間、多くの人々が感染の恐怖に耐えながら、生きてきましたし、これからも収束までの長い時間をやり過ごさなければならないのでしょう。

この間、医療や介護の現場の方と話し合い、メールなどで沢山やり取りしてきました。感染した人も、家族や本人が危篤状態になった人もいます。感染病棟で働く医師も看護師もいますし、クラスターが起き病院に引き取ってもらえず介護保険施設などで利用者に対応している介護職員もいます。

「もう自粛疲れで行動制限しない人が多い」らしいといったようなことが世間に流布されていますが、多様な考え方があるのでしょう。野党に所属する政治家は「政権」を批判していますが、いつものことで強力な代案を提示することができていません。違う人がやればもっと良い結果になるのか、人を変えるとさらに悪化する恐れがあるのかわかりません。政治は感情ですので、もともと制御不能で、いいたい放題合戦のようです。

どちらかというと公務員は利己的ではなく利他的態度で仕事をしているようにみえますが、為政者側が一体的機動的であればあるほど能力を発揮できます。その逆の場合であると組織的に非効率という結果になりかねます。

これらに対して医療や介護を職業とする人々には、職業自体のベースが「利他的」であるので、利他的に行動する人々がほとんどです。このことが世の中で正確に理解されれば、この先もどうにかやり過ごせるのではないでしょうかと思っています。

社会医療ニュースVol.47 No.553 2021年8月15日