ただいまパーパスを勉強し直しています

毎年、世界で大量に発刊されるビジネス書には、明らかに流行があります。単純化すればビジネスは金儲けのことですが、重要なことは「何のためにあるのか?」への明確な答えであるパーパスなのだというのです。ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)誌の日本版(DHBR)19年3月号は、これからの経営に欠かすことのできないテーマとしてパーパスと取り上げました。また、今年5月には名和高司「パーパス経営」東洋経済新報が公刊され、日本でもパーパスへの関心が急激に膨らんでいます。

訳者によりますが「パーパス」は「存在目的」「存在意義」「存在理由」などとされていますが、なぜあるのか、何のためにあるのかを突き詰めて考えてみることによって「不安定で不確実で複雑で曖昧な社会」では最重要なのだという意味合いだと思います。20世紀の経営は製造・販売・流通という営利企業の活動に焦点を当てているものがほとんどでしたが、情報や時間あるいは空間移動という世界が広がり、非営利組織や公的組織、教育や医療、社会福祉や環境という分野の社会活動の量と質が増加し、もはや営利企業のことだけを考えていても社会あるいは世界に追いつかなくなっているという現実に直面しているのです。

大げさにいえば人類は戦争、疾病、災害を何とか潜り抜け文明を作り上げてきましたが、文明の源泉は富です。富といえばカネともいえますが、富は価値であり、人々が価値と判断したものが富という考え方も成り立つのでしょう。家族や仲間には大きな価値がありますし、カネより優先できるものは少なくありませんよね。

長らくマネジメントの世界ではMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)が大事だと繰り返し伝えられてきましたが、ではパーパスとどう違うのかという説明をしないと先には進めません。使命と訳されるミッションは、社会の中での存在意義で、ビジョンは中長期的なありたい姿、バリューは組織構成員の行動指針なのだ、と偉そうに講義してきたわたしとしては反省しながら考え続けています。

MVVなんて古臭いからパーパスなんだという人もいますし、パーパスはミッションの類型なんだ、いやミッションより大きな志なんだという方もいます。数カ月間、読み漁り、各組織のMVVとかパーパスを調べてみましたが、正直、パーパスが大事だという以外よくわかりません。30年前からビル・コリンズはビジョンを構成している要素は、コワバリューと理念、つぎにパーパス、そしてミッションだと説明してくれています。パーパスを組織が存在する根本的理由で、それは常に努力する目標ではあるが完全に達成されることがない100年間にわたって会社の指針となるものだとも説明しています。

営利組織、非営利組織、教育機関、医療機関、政府機関を調査して組織のあり方を研究したフレデリック・テーラーの「ティール組織」(鈴木立哉訳)英治出版の中で、進化型組織が開く3つの突破口として➀自主経営②全体性③存在目的があるという指摘があります。この「存在目的」の原文はEvolutionary Purposeで「進化型パーパス」と理解した方がわかりやすいかもしれません。

かれこれ半世紀も前にP・F・ドラッカーは「われわれの事業は何か」という問いに対する答えで、最も成功したものでも、早晩、古くなってしまう、と指摘しています(野田・村上監訳「マネジメント・上」ダイヤモンド社、142頁)。

実存哲学にかぶれたことがあるので、パーパスよりレゾンデーテルだろうとか、確かにムーンショットはパーパスだよね、と勉強中です。

社会医療ニュース Vol.47 No.556 2021年11月15日