どうすれば有能な人財を集め続け学習組織化することができるのか

半藤一利は『ノモンハンの夏』(文藝春秋98年)の中で「ジューコフはモスクワに凱旋したとき、スターリンから日本軍の評価をただされた。そのとき、日本軍の下士官兵の頑強さと勇気を、この猛将は心から賞讃した。慰めとはならないが、その理由がわかるようである」と書いた。

この文末に注がありジューコフの見解は「日本軍の下士官兵は頑強で勇猛であり、青年将校は狂信的な頑強さで戦うが、高級将校は無能である」と万感の思いで「あっぱれな正答である」と記されています。ジューコフとは、ソ連の将軍でノモンハン後、独ソ戦を勝利に導き、スターリンの狂気の粛清をかわしつつソ連邦元帥、そしてフルシチョフ時代の国防大臣まで昇りつめました。

高級将校は無能であるということが旧日本軍の特徴であり、戦後もその組織体質が引き継がれたどうかは別問題です。ただ、高級官僚の度重なる不祥事や大企業トップ層による重大な法令違反などのたびに「魚は頭から腐る」ということわざを、噛締めてきました。

人材を人財と書くようになり、人が大切で、有能な人が集められなければ組織の維持も発展も望めません。企業の取締役や重役、CEOとかCFOとか呼ばれるCクラスの人材はいつも不足しており、単なる学歴主義では成長が停滞しますので、社会人の学習歴が評価される時代です。

デジタル人材の不足のような緊急課題はありますが、何しろトップマネジメント層の能力と姿勢そして行動が問われているのです。どうしたら有能な人が集められ、どのような学習が必要なのか、そしてどうすれば持続的成長が可能かという大きな課題があります。

◎医療は技術人財が全て 福祉は理念追求型集団

どのような組織でも共通なのかもしれませんが、医療は一定水準以上の技術人財が集められないと事業を進めることができません。福祉の世界では、福祉を追求していくという理念を組織集団のパーパスとして共有できる組織ができないと成長できません。

医師をはじめ医療技術者の多くは国家ライセンスが必要で、最近の言葉でいえば国家資格はオープン・バッチの原型でもあります。日本的経営が昭和の高度経済成長期を支えた経営手法で、その特徴は、企業別労働組合・年功序列・終身雇用といわれてきました。30年前までの日本の国公立病院にそのような傾向があったことは事実です。しかし、独立開業するか病院の事業継承する以外の医師は、職場を異動しながらキャリアアップします。看護師も新卒後同じ病院で働き続ける集団の方が少数傾向です。その他の医療従事者は、自らの技術の習得に関しては熱心ですが、職場へのロイヤリティーは高くならない傾向があります。また「事務職」と呼ばれる医療従事者以外の経営マネジメント職は、職層を登ると流動化する傾向がありますし、他業種のマネジメント層を病院が積極的に受け入れる傾向が近年顕著です。

社会福祉法人の経営という観点ですと、正直いって、デジタル、財務、戦略、マーケティング、知識創造分野のCクラスに相当する人財は僅かです。福祉の世界でも他分野からの経営専門職人財の獲得が経営課題になります。理念追求型集団での非営利組織経営では、経営マネジメントに対する業績評価基準が明確化できず、給与面でも福祉職給与体系が組織全体の給与ベースになり、優秀な人材を外部から高給で募集することはできません。そのため組織内でスキルアップするか、外部のコンサルなどを活用する以外ないという状況です。

◎医療・福祉の世界では人材は財産で資本です

中小企業基本法では、「資本金の額」と「常時使用する従業員数」を業種ごとに定めています。サービス業では5000万円以下、100人以下が中小企業に該当します。医療法人や社会福祉法人は、法令上の「会社」ではありませんので、100人以下の組織でも非該当になります。一方、大会社とは、資本金が5億円以上ある企業、または負債額が200億円以上である会社のことで、会社法において規定されています。

単一の医療法人や社会福祉法人で年間収益が1000億円を超える法人はいくつか存在していますが、100億円を超える法人でも全体の1割程度です。

法令上のことは別として、従業員100人以下の病院も福祉施設もありますが、国家資格者が確保できなければ事業を継続することはできません。病院であれば医師、看護師のほか薬剤師、放射線技師、管理栄養士が不可欠で、リハビリテーションを提供するのであれば理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士が必要です。透析や手術を行うには臨床検査技師や臨床工学技士などの専門スタッフが必須です。すべて、ライセンスが必要で、チーム医療が基本なので、医療に対するパーパスの共有やコミュニケーションとともに日進月歩する医療技術の生涯学習が求められます。

このようなことから病院の医療従事者は病院の貴重な財産であり資本なのです。その上で、どうすれば有能な人財を集め続けられ、学習組織化することができるどうかが経営の最重要課題なのです。

今、上場会社が、人的資本を再認識していますが、病院などは、もともと必要な人財が確保できなければ事業が成り立たないのだと、どうしてもいっておきたいのです。

社会医療ニュース Nol.48 No.566 2022年9月15日