多様な人々が共に働くワザとしてのダイバーシティ・マネジメント開発

今回のパンデミックについて「20年先の社会の状況にしたのではないか」という人が沢山います。どうも、人の考え方や家族の在り方、働くことや組織のあり方、社会的に解決する必要のあることが改めて明確になった人口減少や花粉症問題までの社会問題、そしてプーチン戦争の恐怖やアメリカ主導のパワーバランスの終焉によって巻き起きている国際政治問題などは、かなりのスピードで大きく変容してしまったのです。

いつの間にか日本では「終身雇用、年功序列型賃金、企業別労働組合」は死語になってしまいました。日本人の多くの男性サラリーマンは、まるで昔の滅私奉公のように上司に従順に従い、「大過なく定年まで働く」というモデルを温存してきたし、「職務専念義務」とかいわれ副業禁止の世界に閉じ込められてきました。

定年延長が進みだしましたが、役職定年だとか役員定年だといわれる「ニュータイプの定年制」を規定しています。「定年制自体が合衆国憲法違反」だと話したところで、定年制がないと「年寄りがはびこる」などと意義を強調する始末なのです。多くの人々が自らの能力を最大限に発揮して社会に貢献することより、人の和を重んじ出過ぎないで群れとして生存することを選択した集団社会の風習のようにもみえます。こんなことで過酷な世界と競争することができるのでしょか。

「再雇用なし、勤務延長なし、定年制なし」などと書いてある企業もあるのですが、いつまでたっても主流にならないばかりか、「女性管理職の登用」がニュースになる世の中で、もし「政治家と公務員にクオーター制を導入したらどうか」などと公言すると黙殺されることが少なくないのです。

しかし、年齢序列型賃金体系は男社会の牙城のような公務員の世界を変革しないと崩れません。副業が当たり前になり、リスキリングの必要性が強調され、結局、生涯学習をはじめ新しいスキルを保持しないと、組織から放り出される危険は、安定している公務員の世界には無関係のようです。

一方、働き手の不足は深刻です。このままでは私たちの社会自体が維持できなくなります。

女性も高齢者も、障がいとともに暮らす人々も海外から働きに来てくれている皆様も、総出で働ける社会を構築する必要があることを理解することはむずかいしいことではありません。私たちはどうしたらこのような仕組みを構築できるのでしょうか。

◎みんなで働ける社会を構築する枠組みを創る

各論はともかく「みんなで働ける社会を構築する」という共通の目的が共有できるのであれば、つぎにその枠組みを創り、その枠組みに従ってマネジメントすればできそうです。障がいをお持ちの方の就労支援事業とか介護職員の技能実習制度などに関わっている体験では、十分実現可能だと思います。国の障がい者のための就労支援事業は全国で実績を重ねていますし、外国籍の介護福祉士試験合格者も増加し、近い将来、介護分野のリーダーとして活躍いただけそうです。

ただし、このような多様な人々に働いてもらう枠組みが、どこかしらおかしいように思えてなりません。まず、1日8時間労働、残業があるのは当然で、昇給や昇進のルールは曖昧、いつも働き手の都合より雇い主の都合が優先されている仕組み自体を冷静に点検してみることが必要です。残業なし、有給完全消化、育児休業は男女とも取得中などということが当たり前なのか、それとも珍しいと思うかは人それぞれです。しかし、多様な人々がみんなで働けるためには、これまでの前提が当たり前では済まされず、人々の多様性に対応できる共に働ける枠組みを創ることが必要だと思います。

時計の針は着実に進んでいき、多様性を意味する「ダイバーシティ」という言葉は、ビジネス用語でもあり、日常の会話でも使用されることが多くなっていますので、それにどのように対応するかを考えなければなりません。

◎共に働くワザとしての多様性のマネジメント

1965年に設置された米国雇用機会均等委員会による「ダイバーシティとは、ジェンダー、人種・民族、年齢における違いのことを指す」という定義は有名です。その後、ゆっくりとですが、米国大企業はグローバル化の進展に伴い国際競争力を高めるために働く人々の多様性を組織で生かすというダイバーシティ・マネジメントという手法に転換してきています。それは、性別、年齢差、障がいの有無、国籍、民族の違う多様な人々の能力や発想、価値観をインクルージョン(包摂)することにより、組織全体の活性化を図り、企業の価値創造を向上させる新しい人的資源管理であり、グローバル企業の重要な経営戦略に組み込まれてきたのです。

日本でも「ダイバーシティ・マネジメント」について紹介したり解説している書籍や論文あるいは雑誌記事などが多数あります。また、これを積極的に取り入れている上場会社もあるのです。しかし、欧米などと比較すれば、取り組みが本格化していません。多様な人々と共に働くワザとしてのダイバーシティ・マネジメントは有効な手段です。これを日本で再開発し実践することが重要だと、私は考えています。是非、医療や福祉の分野の組織で取り組んで欲しいのです。

社会医療ニュースVol.49 No.575 2023年6月15日