実践的なダイバーシティ・マネジメントを医療や社会福祉の現場に取り入れて欲しい
先日、社会福祉学を専攻する大学生の皆さんに「ウーマンリブ」について、1960年代後半から70年代前半にかけて米国発の女性による女性解放運動「ウィメンズ・リベレーション」を略したもので、新しい女性解放運動とも呼ばれ日本でも大きな社会現象を巻き起こしたことを話しましたが、うまく伝えることができませんでした。多分伝え方が悪いと思い「ガラスの天井」という現象があり、たとえ男女が共同参画できても女性が企業のトップとか幹部になりづらい現実に対して、1991年に米国公民権法の改正により、働く女性の能力開発を妨げているみえない天井を取り除いて管理職や重要な意思決定への女性の登用を促進する「ガラスの天井法」が制定されたことも話しました。
驚いたのは男子ばかりか女子学生からも反応がなく、正直がっかりしてしまいました。何とか「ダイバーシティ」とか「ダイバーシティ・マネジメン」そしてインクルージョンということをお伝えしたかったのですが、話のつかみの段階で敗北しました。
このことを何度か病院経営者や福祉施設の運営責任者たちと話しましたが、なんとなく話は盛り上がりません。どうも理解はしているものの、そこまで手が回らないというか、重要性はあるが即効性のある対応はできず、人事案件の判断を伴うので気軽に話せない雰囲気があるらしいのです。それが女性の経営者とか女性のトップに話してみると、よく理解しているし日々戦っているのですが、男社会の壁は厚く、話題にしない方がよかったのではないかという雰囲気になってしまうことが続きました。
6月23日から29日まで内閣府は、「男女共同参画社会基本法」に基づき「男女共同参画週間」を設定して、性別や性差によらず、誰もが自分を大切に生きられる地域社会を目指すためのキャンペーンを展開します。この機会に、あらゆる組織や団体、職場や地域社会でこのことを話し合う機会にしていただきたいと思います。
◎ダイバーシティの制度は進んでいる
1985年に「男女雇用機会均等法」が施行され、男女間の雇用格差を是正する取り組みが始まりました。1999年の「男女共同参画社会基本法」で男女差別が廃止され、2016年の「女性活躍推進法」によって女性の働きやすい環境づくりが推進され、現在では101人以上の事業主に適応が拡大されています。このほかに外国人労働者受け入れのための「改正出入国管理法」、高齢労働者に向けた「高年齢者雇用安定法」、労働環境の見直しに関する「働き方改革」など様々な制度整備がなされているのです。
「高年齢者雇用安定法」は改正され、今年4月より70歳までの➀定年の引上げ、②定年制の廃止、③70までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入、④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、⑤70歳まで継続的に事業主が自ら実施する社会貢献事業、あるいは、事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業への参加、のいずれかの措置を講ずるよう努めることを求めた。ただし、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳までの就業機会の確保について、多様な選択肢を法制度上整え、事業主としていずれかの措置を制度化する努力義務を設けるものであり、70歳までの定年年齢の引上げを義務付けるものではありません。
このようなことを列挙するのは、国会や政府は何もしていないわけではありませんし、性別・年齢・障がいの有無・性的少数者、国籍・民族などの多様性を経済の発展や社会の成熟のために共に働くワザとしてのマネジメントを進めたいと考えていると評価することはできると思います。
◎損保ジャパン会社のダイバーシティ戦略
ホームページに以下のように書いてありますので一度確認してみてください。特に具体的な数値目標の開示などとても参考になります。
「SOMPOグループのダイバーシティ推進のスローガン『Diversity for Growth』のもと、性別・障がいの有無・国籍・年齢などに左右されることなく、それぞれの才能や強みを活かし、変化を先取りして新しい価値を生み出していくことにより、真の『ダイバーシティ&インクルージョン』を実現します。そして、社員の幸せや働きがいをベースとして、保険事業とその先の安心・安全・健康の領域で、お客さまにとって価値ある商品・サービスを創造できる人材を育成し、社会に貢献し続ける企業を目指します。当社の人事制度は性別、国籍、年齢等に一切とらわれず実力主義を徹底し、社員一人ひとりが自身の能力を最大限に発揮し活躍できる制度です」。
そして「社員一人ひとりが『いきいき』『ワクワク』しながらモチベーション高く活躍できる、もっと“働きがいを感じる会社”を実現していきます」と記載されています。損害保険ジャパンは2003年からダイバーシティ・マネジメントに積極的に取り組んでいることがわかります。5つの視点として「女性活躍」「障がい者活躍」「グローバル人材活躍」「中高年活躍」「LGBT活躍」を掲げ、様々な制度拡充に取り組んできた結果、多くの賞を受賞しているとのことです。
これはあくまでも企業の一事例にすぎませんが、ダイバーシティ・マネジメントが企業戦略そのものになっている好事例です
◎医療や福祉分野の組織で戦略化を実現して欲しい
ダイバーシティもインクルージョンも、もともと社会福祉の分野のキーになるテーマであり、ヒューマニティを基盤とした医療や福祉の経営の世界でもダイバーシティ・マネジメントに取り組む素地は十分にあるのだと確信しているが、組織の経営陣層が十分学習しているという状況でないのは嘆かわしいことだと、私は思うのです。医療や福祉のマネジメントの中心にダイバーシティ・マネジメントを戦略的に位置付けて欲しい。
すでにダイバーシティ・マネジメントに取り組んでいる組織があれば、是非ご連絡いただきたいし、取り組んでみたいと決断された病院や福祉施設があれば取材させて欲しい。
社会医療ニュースVol.49 No.575 2023年6月15日