魔弾の射手がドイツ楽劇の惑星直列

舞台は、17世紀中葉のボヘミアの森に囲まれたある領主領。狩人のマックスは、護林官の娘アガーテと恋愛中です。ただ、領主が主催する射撃大会で良い成績を出さなければ、結婚させてもらえないことになりましたが、自信がありません。

そこに悪い狩人カスパールが「百発百中の魔弾を使えば」とそそのかします。彼は以前悪魔に心を売ったことがあり、自分の延命のためには誰か悪魔に魂を渡す人を探していたのです。結局、マックスは結婚のことしか考えられずに、ガスパールと、魔弾を作るために、狼谷の深い森の中に、行ってしまいます。

実は、魔弾は7発のうち6発までは意のままに、的中させることができるのですが、7発目は悪魔の生贄になる者に当る、という恐ろしい弾なのです。

あやしい森の中で、2人で魔弾を作る場面では、一発銃弾を造るごとに雷鳴や嵐が吹きすさぶ魔の谷の恐ろしい様子が表現されます。音楽が凄く怖いです。

射撃大会当日、アガーテは結婚式の衣装をまとい花の冠をしていましたが、その冠は不吉なものだといって、どこからともなく訪れた「森の隠者」が白いバラの冠をくれます。

射撃大会ではマックスは好成績ですが、領主が「あの木にとまっている白い鳩を撃ってみろ」とマックスに命じます。でも、最後の弾は魔弾の7発目です。マックスが引き金を引くと、あろうことか弾はアガーテに向かって飛んでいきます。でも、賢者がくれた白バラの冠のおかげで、アガーテに当たらず、逸れた弾は、隠れていたカスパールに命中します。

開場は騒然とします。マックスは事の次第を領主に正直に打ち分けたのですが、領主は「追放だ」と許しません。そこに森の賢者が進み出て「マックスに1年間の執行猶予を与えたらどうか」と提案します。マックスは「2度と正義に背かない」ことを誓います。これにて一件落着と相成ります。

オペラの序曲は素晴らしいものが多くありますが、《魔弾の射手》の射手の序曲はその代表格だと評価されていますし、多分どこかで聴いたことのある方が多いのではないかと思います。また、第3幕の「狩人の合唱」は男声合唱の名曲として広く知られています。

作曲したカール・マリア・フォン・ウェーバーは、1786年ドイツのリューベックの生まれです。父は旅芸人の楽隊の隊長で、母は歌手だったので旅が多く、カールも幼年時代からモーツァルトのように神童になるべく育てられたそうです。

ウェーバーは、ベートーベンの《フィデリオ》のプラハ初演を28歳で指揮し、その後31歳で、ドイツのザクセンの宮廷楽長になり、ドレスデン歌劇場(現ゼンパーオーパー)に迎えられます。1821年に《魔弾の射手》で大成功を収めているのですが、それから5年後に享年39歳で惜しまれながら結核で死亡します。

モーツァルトの妻コンスタンツェは、結婚前はコンスタンツェ・ウェーバーで、ウェーバーの従姉妹にあたります。年は20歳以上上ですが、ウェーバー家とモーツァルトは縁戚関係だったわけです。ウェーバーの作品を徹底的に研究し、ライトモチーフや序曲の4本のホルンの効果を取り上げたのが30歳年下のワーグナーなのです。

モーツァルト、ベートーベンそしてワーグナーのドイツオペラは、ウェーバーによって惑星直列のように結びついているのです。

社会医療ニュースVol.49 No.577 2023年8月15日