お年越しはJ・シュトラウスの《こうもり》

舞台はオーストリアの温泉地イシュル。3年前の仮装舞踏会の帰り、ガブリエル・フォン・アイゼンシュタインは泥酔した公証人の友人ファルケ博士を「こうもり姿」のまま道ばたに置き去りにします。それ以来、ファルケは「こうもり博士」と揶揄され、いつかアイゼンシュタインに仕返しをしたいと思います。

200年前の大晦日から、アイゼンシュタインは税務署職員を侮辱した罪で、8日間の禁固を申し渡されています。そこへファルケ博士が登場。「今夜留置場に行く前にオフロスキー公の晩餐会に行こうぜ。かわいい子が沢山いるぞ」と誘います。

喜んでアイゼンシュタインがパーティにでかけた直後、家に残された妻ロザリンデのところに、元恋人のアルフレートがやってきて、アイゼンシュタインのナイト・ガウンを着こみ、2人きりで食卓につきます。そこに、突然、刑務所長のフランクが「ご主人をお迎えにきました」と訪れます。咄嗟にロザリオは「主人になりすまして」といいくるめ、アルフレートは刑務所に連れていかれます。

その晩のロシアの大貴族オルロフスキー公爵のパーティにアイゼンシュタインがきてみると、なぜか自分の家の女中アデーレに似た女性をみかけます。おかしいなと思いつつも、仮面をつけた美しいハンガリーの伯爵夫人に夢中になって口説こうとします。実はこの貴婦人の正体は彼の妻ロザリンデ。すべてはファルケ博士の仕組んだワナでした。ロザリンデは口説かれるふりをしながら、アイゼンシュタインの懐中時計を奪います。

酔いも残るアイゼンシュタインが刑務所に出頭してみると、すでに見知らぬ男が自分の代わりに牢屋に入っているではありませんか。アイゼンシュタインは弁護士に変装して様子を伺っていると、そこにロザリンデがやってきて、アルフレートを牢から出してほしいとアイゼンシュタイン扮する弁護士に相談を始めます。怒ったアイゼンシュタインが正体を明かし、妻を責め立てると、ロザリンデは昨夜奪った彼の懐中時計をだします。頭を抱えるアイゼンシュタイン。

そこへファルケ博士がパーティの参加者とともに集まり、すべては自分の仕組んだ「こうもりの復讐」の芝居だったのだよ、と種明かしをします。ロザリンデの歌う「すべてシャンペンのせい」の歌に一同が納得して幕になります

ヨハン・シュトラウスの《こうもり》は、物語が大晦日のパーティを軸としていることからも、特にドイツ語圏の歌劇場では、年末年始の定番レパートリーとなっています。

作曲は1873年、初演は翌年の4月5日です。73年5月1日から11月2日まで、皇帝フランツ・ヨゼフ一世の治世25年を記念して、ウィーンのドナウ河に沿ったプラーター公園で「ウィーン万国博覧会」開催されました。62年に開催された「ロンドン万国博」の12倍の敷地に大円形ホールをはじめとする約200のパビリオンと各種庭園が造営されたそうです。この万国博に日本政府は、はじめて出展しました。

開館期間中、岩倉使節団も立ち寄り、皇帝に謁見したという記録があります。博覧会事務局副総裁が元佐賀藩士佐野常民で、彼は帰国後、元老院議官に任命されます。77(明治10)年4月6日西南戦争負傷者救護のため博愛社設立を右大臣岩倉具視に請願(佐久地域の元岩村田藩主大給恒連名)して、現在の日本赤十字社の基礎をつくります

《こうもり》の劇中歌の多くがヨハン・シュトラウスのワルツですので、楽しいです。200年前毎夜奏でられるウィーンのワルツを博覧会関係者100人近くの日本人が、堪能している姿を想像するだけでうれしいです。

社会医療ニュース Vol.49 No.581 2023年12月15日