《カルメン》はフランスオペラの巨峰
恋は気ままな野の鳥
誰も飼いならすことはできない
呼びよせようとしてもダメ
嫌だと思えば来やしない
脅しやお願いなんか無駄よ
あっちはお喋りこっちは無口
むっつり屋さんのほうがいい
何もいわない方が好きなの
ラムール!ラムール!恋!恋!
あまりにも有名な《カルメン》の『ハバネラ』を超訳するとこんなところだと思います。この4分の2拍子のアリアは、もともとはキューバの民族舞踊曲がスペインの船乗りたちによって海を越え、それがパリなどではスペイン的なものとして広く受け入れられたとのことです。
メゾソプラノのカルメンが歌う『ハバネラ』は、「恋は野の鳥」とか、「ハバネラの歌」として大正デモクラシー時代の東京でも花咲きました。もちろん、世界中で受け入れられた女と男の真理の歌なのです。一度聴いたら忘れないジプシーというか、ロマの野性的で妖艶な女性の美しい歌声なのです。《カルメン》は、世界中で上演されてきたオペラのうち3本の指に入るもので、イタリア語でもドイツ語でもないフランス語の歌詞はロマン派を代表する芸術です。
運動会の徒競走の時、前奏曲を聴いたのが初めてで、プロバンス地方の民謡のメロディーが引用されている『アルルの女』の作曲者と同じビゼーのオペラの曲なんだよ、と教えていただいた半世紀前の音楽の先生の笑顔が忘れられません。
ジョルジュ・ビゼー(1838年-1875年)は、《カルメン》がパリ、オペラ・コミック座で初演されてからわずか3ケ月後に、36歳で心臓発作のため急死してしまうのです。今では世界で最も有名なオペラのひとつですが、生前にはヒットせず、彼の死後に人気を高めて、フランスオペラの巨峰になったのです。
セビリアの闘牛士エスカミーリョが歌うアリア『闘牛士の歌』はバリトンの名曲で、舞台が1820年頃スペインのセビリアの酒場で、聴いているだけで気分が鼓舞されます。
気分がすぐれない朝、疲れ果てた夜に《カルメン》を長年聴いてきました。仕事に行きたくない時は「序曲」、重要な仕事前には『闘牛士の歌』、人生なんだかつまらなくなったら『ハバネラ』がいいのです。
それと、このオペラは、ミカエラという許嫁がいるにもかかわらず、野性的な美しい女性の挑発に惑わされて破滅への道をたどる伍長のドン・ホセになっていけない、という戒律のようなものを教えてくれたのではないかと思います。
カルメンに捨てられたホセが復縁を迫ります。カルメンは全く相手にしません。その上「私はエスカミーリョを愛している」といいつつ、ホセからもらった指輪を投げ捨てます。ホセは嫉妬に狂い、カルメンを短刀で刺し殺します。ホセが「愛するカルメン!」と叫ぶ中で、幕となります。
カルメンは「恋は気ままな野の鳥、誰も飼いならすことはできない」と歌っているのですから、嘘はついてないし、単に気が変わっただけなのに、刺し殺されてしますのです。考えてみれば考えるほど理解できない状況ですが、そういうことって確かにあるのだろうと思います。
どこまでも19世紀のロマン派の時代背景での話でしかありません。しかし、恋は危険がいっぱいなのに、人々を魅了してやまないし、時代が変わっても女と男の話は尽きることはないのでしょうね。
社会医療ニュースVol.50 No.582 2024年1月15日