クリスマスオペラはラ・ボエームですか?

音楽抜きのクリスマスは考えられませんよね。聖歌に始まり世界中のクリスマスソングを聴いてみると名曲が多いです。秋になると今年のクリスマスのオペラはなにしようかと考えるのが、わたしの楽しみです。

毎年、まず思い起こすのはプッチーニの『ラ・ボエーム』です。1830年のクリスマスイブのパリの屋根裏部屋、芸術家の卵たちが貧しいながらもみな希望に胸あふれ、生き生きと青春を謳歌しています。そんなボヘミアンの風景を、カルチェラタンでの大騒ぎとともにオペラは描きだしてくれます。

暗い部屋で鍵を探すお針子のミミの手に偶然触れたロドルフが「冷たい手を」歌いあげ、続けてミミが歌う「私の名はミミ」の2つのアリアで、恋に落ちる2人。そして、絶望のなかにも一筋の光を追い求めるかのようなミミの「あなたの愛の呼ぶ声に」は、何度聴いても涙腺を緩めます。

小学生のお子さんとご一緒なら、フンパーディンクの『ヘンゼルとグレーテル』や『シンデレラ』を元にしたロッシーニの『チェネレントラ』、そしてモーツァルトの『魔笛』が楽しいと思います。もちろん、高齢者だけでも素敵です。

そう思う理由のひとつがヨーロッパ各国の歌劇場の12月の定番らしいからです。個人的体験にすぎませんが、12月のプラハの3つの歌劇場のどこでも体験しましたが劇場内の3割は明らかに未成年で、小・中・高が1割ずつという感じでした。小学生でもスーツにネクタイ、ドレスに皮の靴の正装の地元のお子さんです。休憩時間を含めて騒ぐことも走り回ることもなく、もちろん寝ている人なんかいません。観劇の躾か、市民としての当然のマナーか、チェコ人としての誇りなのかは、尋ねてみる機会がなかったのでわかりません。しかし、あたかも「中学生以下お断り」では、芸術や文化は伝承されにくいのではないかと考え込みました。

2016年にプラハで観たレオシュ・ヤナーチェク作曲の第7作目のオペラ『利口な女狐の物語』に、わたしは感動しました。このオペラも素晴らしい音楽も初めてでしたが、動物たちが織り成すおとぎ話と音楽のすばらしさにビックリしたのです。

メインのあらすじは、女狐ビストロウシュカの巣穴の前を通りかかった雄狐ズラトフシュビテークと彼女が恋に落ちる物語なのです。雄狐は彼女を散歩に誘い、彼女は自分がひとりぼっちであることを雄狐に伝え、これまで人間にひどい目に遭わされて逃げてきたことや、うまく巣穴を手に入れたことを話します。雄狐が狩に行きウサギを持って帰ってきたので、互いに愛を告白し、巣穴の中に消えます。翌朝、キツツキの司祭役で2人は結婚式をするというものです。

『利口な女狐の物語』が気に入ってから、ヤナーチェクの曲を聴き始めましたがプラハを中心としたチェコ東部のモラヴィアや西部中部地方のボヘミアの音楽や芸術の根底に民族音楽の分厚い蓄積があることを知りました。川、森、湖、動物、人間、そしてそれぞれの命との壮大な関係が表現されます。彼の音楽からは愛の営みや自然環境への配慮そして天の恵を宝物として受け継いでいるんだよ、というやさしい視界が心に広がっていくような感覚があります。

スメタナやドヴォルザークも民族音楽の影響を受けています。日本で「ボヘミアン」というと、ジプシーの異称、社会の規範にとらわれず自由で放浪的な生活をする人などの意味だそうです。ジプシーはインド系であることは確かです。それでもクイーン伝説の映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、世界中に強烈にイメージを植え付けましたね。

社会医療ニュースVol.48 No.568 2022年11月15日