≪トゥーランドット≫のピンポンパン
ジャコモ・プッチーニの没後百年祭なので、24年秋から10カ月間のオペラ期間≪トゥーランドット≫が世界中で上演される予定です。プッチーニのオペラ10作品がレパートリー(回演制)に組み込まれて、盛んに上演されている国は、ドイツです。
ドイツでの上演順位では、≪ラ・ボエーム≫≪トスカ≫≪蝶々夫人≫になるようですが、≪トゥーランドット≫も年間40回程度は上演されています。この他のプッチーニ作品では≪ジャンニ・スキッキ≫や≪マノン・レスコー≫も人気があります。
2011年12月17日、バイエルン州立劇場で≪トゥーランドット≫をオットー・シェンク演出、ズービン・メーター指揮で楽しみました。ありきたりな表現ですが、シェンクの演出の凄さ、メーターのオペラへの奥深い理解に感服しました。それ以降、ドイツ以外の国で何度か≪トゥーランドット≫を観る機会がありましたが、今でもシェンクとメーターの組み合わせが最高だと思います。
1998年9月に北京・紫禁城内の一角にある労働人民文化宮殿において野外上演され、映像作品化された≪トゥーランドット≫の世界への発信力は強力でした。この時の演出は中国を代表する映画監督チャン・イーモウ(張芸謀)、指揮はズービン・メーターでフィレンツェ歌劇場のオーケストラと合唱団をバックに伝説の公演が行われました。
世継ぎの王女トゥーランドットは、自分と結婚する王子には、3つの謎を解くことを条件とし、謎が解けぬ場合は首切りの刑に処すると布告していました。ペルシャの王子はその謎解きに失敗し、処刑されますが、その場に居合わせたダッタン国の王子カラフは、姫の美しさに心惹かれ、謎に挑戦するための銅鑼を叩き、めでたく2人は結ばれるという物語は、わかりやすいものです。
このオペラ第3幕のカラフのアリア「誰も寝てはならぬ」Nessun dormaは大流行していますし、召使役のリューのアリア「お聞き下さい、王子様」「心に秘めた大きな愛です」「氷のような姫君の心も」はどれも名曲だと思います。
このどちらかという暗い感じがするオペラを盛り立てているのが、ピン(大蔵大臣か高等書記官)、ポン(総料理長)、パン(内大臣か施政長官)の登場人物です。第2幕に、このピン、ポン、パンの三人の軽妙なやりとりで姫とカラフの噂話をしている面白おかしい場面があります。実は、この3人が客観的ストーリー・テラーの役割を果たしていることは明らかです。ピンポンパンを深堀してみると、京劇で使用されるパーカッション群を「らこきょう」とよび、その音がピンポンパンなんだそうです。
1966年からはじまったフジテレビのテレビ番組『ママとあそぼう!ピンポンパン』や、1971年発売の「ピンポンパン体操」の由来は、≪トゥーランドット≫のPing・Pong・Pangからだという説が有力だそうです。京劇で使用される打楽器がプッチーニによってオペラになり、それが日本でオリコンの童謡チャートで1位となり、日本人がピンポンパンという響きを共有しているということは素晴らしいことです。
シェンク演出では、ピンポンパンが車イスで走り回りながら話し合いますが、それが美しいイタリア語の韻となり、音楽と車イス動作と歌の韻が合わさると、いつの間にか中華風に味付けられている絶妙さに、このオペラが精密につくり込まれた総合芸術なのだという真実を体験できて素晴らしいです。
プッチーニの美しいメロディーやドラマティックな展開は、音楽劇的にはオペラからミュージカルにつながっていくことになるのでしょう。
社会医療ニュースVol.50 No.587 2024年6月15日