リゴレットは娘への父性愛の結晶
姉の子ども達のために1斤のパンを盗んだ罪で19年間の監獄生活を送ることになったジャン・ヴァルジャンが、司教の愛にふれ改心したという『レ・ミゼラブル』はフランス文学の傑作です。童話にも絵本にも文庫にも映画にもミュージカルにもなり、この物語は語り継がれています。
フランス・ロマン主義の詩人・小説家のヴィクトル・ユーゴー(1802 -1885)は、七月王政時代からフランス第二共和政時代の政治家で、1851年12月にルイ・ナポレオンがクーデターを起こして独裁体制を樹立し、反対派のユーゴーは以後19年間亡命生活を余儀なくされました。1870年ナポレオン3世の失脚後、共和国が宣言され、ユーゴーは亡命を終えてパリに熱狂的に迎えられ、83歳の死は国葬として葬られたのです。
彼の作品に『王者の悦楽』という作品があります。この戯曲は、16世紀に実在した国王のフランソワ1世の道化師トゥリボレットが主人公で、その娘ブランシュが王に弄ばれたため王に復讐をしようとして起きる悲劇を描いた作品です。1832年にコメディ・フランセーズで初演されたものの「特権階級の腐敗」と7月王政下の当時としては「それに対する過激な批判」だということで、1日で上演禁止となってしまいました。
この戯曲を改編しオペラにしたのがジュゼッペ・ヴェルディの《リゴレット》で、1851年3月11日にヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演を迎えます。マントヴァ公爵の道化師リゴレットは毒舌ゆえに廷臣(家来)たちに嫌われています。そこに、娘を慰み者にされたモンテローネ伯爵がきて公爵とリゴレットを呪います。 マントヴァ公はリゴレットが市内に隠れ住まわせている彼の娘ジルダを教会で見かけその美しさに惹かれ、身分を偽り近づこうとしています。リゴレットが若い娘と同棲していると勘違いした家来たちはジルダをさらってきてマントヴァ公に献上してしまいます。
ジルダは以前から教会で若い公の姿をみかけていて好意を寄せていましたので公に抱かれます。それに気づいたリゴレットは公を殺し屋に殺させ、ジルダとともにヴェローナに逃げようと計画します。
いかがわしい居酒屋に殺し屋とその妹マッダレーナそして騎兵士官の身なりをした公爵、外にはリゴレットとジルダがいます。公は、カンツォーネ『女は気まぐれ(女心の歌)』を歌い、マッダレーナを口説きます。居酒屋の外から覗いて嘆き悲しむジルダ。公が酔いつぶれると殺し屋が殺そうとしますが、公に惚れたマッダレーナが兄の殺し屋を止めます。リゴレットから報酬の半額を受け取っていた殺し屋は「誰か客がきたら殺して公の遺体だといえばいいか」と計画を妹に話します。それを盗み聞きしていたジルダは「自分が身代わりになる」ことを決意し、男装して居酒屋の戸を叩きます。
戸を開けるなりジルダは殺され袋に入れられてしまします。そこへリゴレットがきて殺し屋にカネを渡すと殺し屋とマッダレーナは姿を消します。その時、酔いから覚めたマントヴァ公のカンツォーネが聞こえてきます。あわてて袋を開くと、それは娘のジルダなのです。リゴレットは「あー呪いだ。あの呪いなんだ」といってジルダの亡骸を抱いて幕となります。
ジュゼッペ・ヴェルディの《リゴレット》は、呪いばかりか自分の娘に対する父性愛と若い娘の残酷な恋心がどこまでもすれ違って交わることのない心情が美しい2重唱、3重唱、時には4重唱となって継がれるのです。
リゴレットのバリトンと若いマントヴァ公爵役のテノールが、聴きどころです。
社会医療ニュースVol.50 No.590 2024年9月15日