水の精ルサルカの純愛を伝えるプラハ

スラブの草原にある湖。湖面に浮かぶお月様に『たとえ、つかの間でも、いとしい人がわたしの夢をみるように!』と祈る姿は、そのまま美しい絵画になりそうです。アントニン・ドヴォルザークの水の精のオペラ≪ルサルカ≫第1幕でせつせつと詠まれる〖月に寄せる歌〗はチェコ語のアリアとして秀作だと思います。

なんとなく疲れた時に、世界で〖MOON・SONG〗として愛されているこの歌に触れると、ファンタジーの世界に引き込まれるとともに、甘酸っぱい青春の薫りがするような気になります。

ある日、湖に水浴びにきた人間の王子に一目惚れした水の精ルサルカは、魔法使いの≪イェジババ≫に「人間にして欲しい」と頼みます。魔女は「人間の魂と容姿を与えることはできるが、その代わりに声はだせなくなるよ」とさとしますが「あのお方を知ることさえできれば、声なんかいらない」といいます。「もし、この恋に破れたら、故郷の水底には戻れず、愛する人の命を奪うことになる」という忠告も上の空で、美貌のお姫様の姿にしてもらいます。

魔法の力で引きよせられてやってきた王子は、ルサルカをとても気に入りお城へといざない、すぐに結婚の宴を開こうとします。王子はルサルカが口をきかないことに悩み苦しみルサルカを邪険に扱います。おまけに宴のためやってきた別の国の公女に惹かれます。ルサルカは傷つき、水の精の父親は怒り狂ってルサルカを湖に連れ帰ってしまいます。

ルサルカは絶望しているものの、王子への想いは断ち切れません。≪イェジババ≫は「このナイフで裏切った王子を刺し殺せ」とナイフを渡しますが、無理です。ルサルカを探しに来た王子はルサルカと〖愛する人、わたしが分かる?〗の二重唱を歌います。ルサルカの声を初めて聴いた王子はルサルカに迫りますが、ルサルカはキスした途端に死んでしまうことを告げます。それでも2人は抱きあったままキスをして暗い水底に沈んでいきます。歌もオーケストラもなんとなくスラブというかチェコの美しい自然を強く感じます。

石畳と尖塔が立ち並ぶ美しい古都プラハには、数多くの劇場がありますが、オペラは欧州最古の劇場のひとつで旧市街地にある≪エステート劇場≫、プラハ中央駅のそばにある≪国立歌劇場≫、そしてヴルタヴァ川沿のチェコ軍団橋のたもとにある≪国民劇場≫の3か所です。1781年から建設が始まった≪エステート劇場≫は1789年10月29日にプラハ市民に捧げられたモーツァルトの≪ドン・ジョヴァンニ≫の初演が行われました。≪国立歌劇場≫はプラハのドイツ系住民がドイツ語の上演を求めてドイツ人らが建てた劇場で、今のプラハ市民は「ドイツ劇場」と呼んでいるようです。それに対して≪国民劇場≫は「チェコ語によるチェコ人のための舞台」として1868年に基礎がおかれ、1881年に完成しました。

19世紀後半のチェコはオーストリア帝国の一地域で、ハンガリーが後にオーストリア=ハンガリー二重帝国を成立させ、チェコ国民はチェコ語の禁止のようなひどい仕打ちを受けます。第2次大戦ではナチスに占領され、その後独立を果たすもののソビエト陣営に組み込まれつつ新しい社会主義「プラハの春」を目指しますが、1968年ソビエト軍がプラハに戦車で侵攻する「チェコ事件」が起きました。今は昔ですね。

プラハには≪スメタナホール≫≪国立マリオネット劇場≫そして≪新国立劇場≫もあります。プラハでオペラを鑑賞し、とてもおいしいチェコ・ビールを片手にモラヴィアやボへミアの自然や文化に酔いしれたいと夢見ています。

社会医療ニュース Vol.48 No.569 2022年12月15日