マリア・カラスの椿姫

ウィーンフィルのニューイヤーコンサート2023は、マスクなしで奏者も観客も気合が入って素晴らしかった。『ラデツキー行進曲』を作曲したヨーゼフ・シュトラウスの約300楽曲の内、演奏されるのは僅かにすぎません。フランツ・ウェルザー=メストは、ヨーゼフの曲を厳選し指揮し、コンサートを大成功させたと思います。楽しかったです。

来年は、クリスティアン・ティーレマンが指揮するとのことですので、これからの1年は平和を祈りつつクラッシック音楽を心ゆくまで楽しみたいのです。各国でオペラが盛大に開催される予定なので観客として参加したいと思いつつ、開催予定の情報収集を楽しんでいるものの、これを観ておかないと後悔するだろうというプログラムが未だみつかりません。

オペラは総合芸術なので指揮者、オーケストラ、歌手、合唱、演出、舞台装置、照明、衣装などの組み合わせに妙があると思います。まず、考えるのは誰のどの作品かです。つぎが、指揮者と歌手になります。これまでに観たオペラは、ヴェルディとワグナーが比較的多いですが、この10年間で聴いたことがあるのは100程度にすぎません。実際に劇場に足を延ばすまで想像の世界で楽しめますが、現実的には何時どこで誰と、ということが最優先されますね。

音源だけを求めるのであれば100年前の歌手の歌声も聴くことができますが、戦後のベル・カント・オペラ歌手の代表格といえばルチアーノ・パヴァロッティとマリア・カラスでしょう。パヴァロッティは「神に祝福された声」とか「イタリアの国宝」とまで評価されましたし、マリア・カラスには「伝説から神話になったディーヴァ」という称賛があります。

1923年12月2日にマリア・カラスはギリシャ系移民の子としてニューヨークで生まれましたので、今年は生誕百年を迎えます。そんなこともあって昨年末からマリア・カラスを聴いたり、本を読んだりしています。高名なマリア・カラスですが「彼女の声の絶頂期は10年ほどに過ぎなかった」書かれているものが少なくありません。その時期とは53年8月から64年7月ということだろうと思います。アテネで彼女は45年、18歳で『トスカ』の主役を歌い切ったとのことですが、53年8月にミラノスカラ座で録音された『トスカ』と64年7月のパリオペラ座での『カルメン』が絶賛されています。

YouTubeで誰でも聴けるので繰り返し聴いているのは、55年5月28日スカラ座での『ラ・トラビアータ』です。カルロ・マリア・ジュリーニ指揮、ルキノ・ヴィスコンティの演出が素晴らしい。第1幕で歌われる『乾杯の歌』はあまりにも有名ですが、このストーリー自体は古臭く平凡で時代遅れです。パリの社交界の華ヴィオレッタ(高級娼婦)が青年貴族アルフレードと恋に落ち真実の愛をみつけますが、息子と娼婦との恋が認められない父親のジェルモンによって言葉巧みに引き離され、主人公は失意の中で結核でなくなるというものです。

『ラ・トラビアータ』とは「道を踏み外した女」という意味ですが、日本では『椿姫』と呼称していますよね。原題を直訳すると「椿の花の貴婦人」というアレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)が1848年に書いた小説が『椿姫』で、彼自身による戯曲も書かれ、パリの劇場で上演されていたのを、ジュゼッペ・ヴェルディが観て作曲したオペラが『ラ・トラビアータ』です。この作品はヴェルディの代表作というだけでなく、マリア・カラスのヴィオレッタが、わたしの中でヴィオレッタに変身して、他のソプラノが歌うのを聴くと違和感さえ感じてしまうのです。

社会医療ニュースVol.49 No.570 2023年1月15日