モーツァルトはお好きでしょうか?

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの歌劇『コジ・ファン・トゥッテ』K588は「女はみんなこうしたもんだ」というイタリア語。副題は『あるいは恋人たちの学校』です。

ナポリのカフェの店先で、2人の若い士官が老哲学者ドン・アルフォンソと言争い。2人は、「僕たちの恋人は浮気なんてしない!」と、哲学者はそれを否定します。そこで、3人は恋人が浮気をするかどうか賭けをします。

士官2人が急に戦争に行かなくてはならなくなったと芝居をし、恋人がいなくなって悲しむ姉妹。ドン・アルフォンソは、士官2人を変装させて、姉妹に別人として紹介し誘惑させようと仕掛けます。姉妹の家で変装した2人を紹介する際、彼は姉妹のメイドのデスピーナにあらかじめ小遣いをあげ協力させます。変装した2人は姉妹に言い寄りますが、貞節な姉妹は見向きもしません。

しばらくしてデスピーナが「女も15歳にもなれば処世術というものをみな知っとかなきゃいけません。どこに悪魔の尻尾があるかとか何が良くて何が悪いかとか。知っとかなくちゃちょっとしたテクニック。好きになった人を落とすための作り笑いとか嘘泣き、上手ないい訳のでっちあげなんかを」と姉妹をアリアで煽ります。

「殿方は誰でも同じようなもの、ため息、そら涙、これには弱いもの。あまり口はきかずに目にはものをいわせる。なびくように見せかけて、身を引くことも忘れずに、慌てずに手際よく。そうすれば何事もあなたの思いのまま。女王のように何事も。女王のように何事も」とデスピーナは軽やかに歌い続けます。

そんなこんなで、変装した男2人は、手を替え品を替えてお互いの恋人を口説きます。すると、女性たちは恋に落ち、ついに結婚の約束までしてしまいます。そこへ戦争に行ったはずの士官2人が突然帰ってきて、怒ってみせます。そうしておいてから、慌てふためく姉妹に種明かしをし、めでたしめでたし。

この『コジ・ファン・トゥッテ』というセリフは、もともと『フィガロの結婚』の中ででてきたのを観た皇帝ヨーゼフ二世が、この言葉をテーマに新たなオペラを創るようモーツァルトに依頼したという逸話があります。1790年1月26日、ウィーンのブルグ劇場で初演されたものの国民から博愛主義者と慕われた皇帝ヨーゼフ二世は病床にあり、2月20日に逝去されます。当時、音楽は美しいが、生真面目な観衆には軽薄で不真面目なドタバタ喜劇と評価されていたそうです。

『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『魔笛』がモーツァルトの3大歌劇とされますが、『コジ・ファン・トゥッテ』は、台本作家ロレンツォ・ダ・ポンテとの3部作として『フィガロの結婚』K492『魔笛』K620ともども21世紀になっても不滅です。『コジ』は、第2次大戦後ブルーノ・ワルターやカール・ベーム(カラヤンファンのためにカラヤンも)によって再生され、復活された歌劇です。

弦楽四重奏もシンフォニーもモーツァルトは素敵です。ナポレオン・ボナパルトの名を知るよしもなく1791年に35歳で生涯を閉じた彼の歌劇から「僕はコスモポリタンなんだ」というメッセージを受け取れます。「難しいこともあるんだろうけど、世界が平和で人間は平等で自由だ」と。『コジ』初演の6か月前にパリで「バスティーユ襲撃」が、さらにその3か月前にジョージ・ワシントンが初代大統領に就任します。モーツァルトの音楽は、どこかしら「自由で平等な」かおりがするように感じられるのは、時代のせいかもしれませんが、皆様はいかがですか?

社会医療ニュース Vol.49 No.571 2023年2月15日