『魔笛』はフリーメイソン賛歌なのか
この肖像はあまりに美しい、まだ誰も目にしたことのないほどだ。この神々しい姿が私の心を新たな感情で満たすのを感じる。これを名付けることはできないが、しかしそれが心で火のように燃えているのがわかる。この感情が愛なのだろうか。そうだ、それは愛でしかありえない。
「第1幕第3場で3人の侍女から夜の女王の娘パミーナの肖像を見せられと、タミーナはたちまちその美しさに捕らえられる」(三宅新三『モーツアルトとオペラの政治学』青弓社、208頁)
日本の狩衣をまとい登場し、大蛇に追われて気絶してしまう頼りがいがない王子が夢見るように歌うアリアは素敵だ。タミーナとパミーナの愛、野鳥を捕獲して売ることで生活しているパパゲーノとパミーナの恋の軌跡を本線にして、超高音ハイFで歌う夜の女王。その女王と対立する太陽の支配者であるザラストロの地響きするような超低音が繰り広げられる『魔笛』K620は、イタリア語でないドイツオペラの先駆的スペクタクル作品です。
夜の女王はザラストロにさらわれた娘パミーナを失った悲しみを語り、タミーノがパパゲーノとともに王女の救出に向かいます。
古代エジプトのイシス神とオシリス神に仕えるザラストロは神殿で神官たちにタミーノに試練の儀式を受けさせます。修業中フードで顔を隠した老女がやってきたので歳を尋ねると自分は18歳だと言うので、パパゲーノは大笑いです。パパゲーノは恋人がいるはずだと思い聞いてみると案の定、恋人はいるという。しかもその名はパパゲーノだというので驚いてお前は誰だ?と尋ねますが名前を告げずして彼女はどこかに消えます。
そこへ3人の童子が登場し、酒や食べ物を差し入れ、パパゲーノが喜んで飲み食いしていると、パミーナが現れる。彼女はタミーノを見つけて話しかけますが彼は修行中なので口を利かない。相手にしてもらえないパミーナは、もう自分が愛想をつかされたと勘違いし、大変悲しんでその場を去ります。
パミーナはタミーノに捨てられたと思い込み、母のくれた剣で自殺しようとします。3人の童子が現れてそれを止め、彼女をタミーノのもとに連れて行く。タミーノが試練に立ち向かっているところにパミーナが合流し、魔法の笛を使って試練を通過します。一方パパゲーナがいなくなったのでパパゲーノは、絶望して首を吊ろうとします。そこに再び童子たちが登場して魔法の鈴を使うように勧め、パパゲーノが鈴を振ると不思議なことにパパゲーナがあらわれ、めでたしめでたしとフィナーレに向かうのです。
一見して筋書きはドタバタ劇のようですが、儀式や試練、神官やザラストロ自体がフリーメイソンの賛歌なのだという指摘は、もはや通説です。日本で暮らしている人間にとって、このフリーメイソンを正確に理解することは至難の業です。まず、カソリックの世界でもユダヤ世界でも回教徒の世界でも秘密結社は禁止されました。ヒトラーやスターリンも「陰謀集団」として弾圧したりしました。逆にプロテスタントが底流にある「自由」「平等」「友愛」などの思想自体が、フリーメイソンに支持されアメリカ独立もフランス市民革命を成功裏に導いたと評価されている歴史もあります。
ゲーテ、シラーそしてモーツアルトも会員、ジョージ・ワシントン、ベンジャミン・フランクリン、長崎に居たトーマス・ブレイク・グラバーも、ヘンリー・フォードもカーネル・サンダースもダグラス・マッカーサーもフリーメイソンだったと聞くと、なんだか世界の歴史の見方が変わりませんか?
社会医療ニュース Vol.49 No.572 2023年3月15日