マリア・カラス生誕100年
今年12月2日はマリア・カラスの生誕百年にあたります。イタリア・フィレンツェ出身の映画監督・脚本家・オペラ演出家で政治家でもあったフランコ・ゼッフィレッリも同様です。ゼッフィレッリは巨匠ルキノ・ヴィスコンティのスタッフとして演劇界入りし、主に美術・装置を担当し、間もなく自らも映画監督を手掛けるようになります。その後、オペラ演出を活動の中心とし、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、ニューヨークのメト、ロンドンのオペラハウスなど、世界各地の主要歌劇場で演出を行い、とくに自国出身のヴェルディやプッチーニなどの作品を手がけました。また映画の題材にマリア・カラスなどのディーヴァやオペラ関連のものが多く、映画『椿姫』も世に送り出しました。
彼の演出に対して現在でも酷評する評論家がいますが、その多くが古臭く、大げさで、保守的だということを根拠にしているように思えてなりません。このような批判に反論するだけの能力は私にはありませんので、なるべく無視しています。ただ彼が演出したヴェルディの『アイーダ』は何しろ大スペクタクルで、何度みても感動的で、何かを変える必要があるとは考えられません。
最近のドイツオペラでは新演出が流行していますが、必ずしも成功しているわけではありません。もちろん、イタリアオペラでも同様の傾向ですが、昔からのオペラファンには不評です。特に、時代設定を現在に引き写し、舞台装置も簡素化し、衣装もジーンズなどカジュアルにし、現代的解釈で芸術表現を試みても、楽譜も歌詞もそのままなので、つじつまが合わなくなる場合が少なくありません。
オペラ自体がミュージカルの台頭に対抗できるものではありませんし、オペラは政府の補助金と企業などからの多額の寄付金を基盤としていますので、存続自体の危機にさらされている絶滅危惧種と考えられます。だからこそ、芸術文化として守り抜きたいと考えている人々が世界中にいるのだと思います。
他方、芸術の世界は、時代の変化に敏感ですし、時代を先取りして大きな流れを作り出す力があります。ですから昔ながらのやり方に固執して、変化を受け入れないという姿勢では、時代に見放されてしまうので、変化を受け入れ美を追求することが求められます。
オペラは、伝統を守りながら変化を受け入れる、あるいは伝統は保守しつつより良く変化させるという試みを絶えず行うという姿勢が大切なのでしょう。今、私たちは急激な変化の渦中にいるわけですから、変化するものと変化しないものをしっかり見定めて、変化に対応する力と、革新を巻き起こすパワーをアップする必要があるのです。
社会医療ニュースVol.49 No.574 2023年5月15日