カーボンニュートラルを実現するためにもデジタル社会を創造するにも連帯が必要だ

40年前ごろから産業構造のソフト化とかサービス化の流れが広がり、重厚長大産業はアジアの国々に取って代わられるようになり、エレクトロニックスやソフトウェアなどの軽薄短小産業(ハイテク産業)へのシフトが進んだのです。

90年代後半のITブームは、インターネットを利用した新しいビジネスモデルがつぎつぎに誕生し、ニューエコノミーなどともてはやされます。すると「ものづくり」に固執してきたオールドエコノミーが衰退の危機に見舞われます。

そのITブームも国際競争力がなく日本経済の再生を成し遂げることはできなかったのです。ただ、オールドエコノミーと呼ばれていた企業もIT化を進めニューエコノミーの分野に進出し、かろうじて日本の産業は維持されてきたと考えることができます。

自嘲気味に「失われた30年」などという人もいますが、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とおだてられて喜んでいた日本は、1人当たり名目GDPランキング(購買力平均換算)30位の「年老いたドラゴンの国」でしかありません。

最新の企業経営は、環境経営とコンプライアンス経営なのではないかと、わたしは考えています。企業経営の不祥事を未然に防ぐことと、環境問題への対応は無関係ではなく、そこには株主やステークホルダーからの要望が見え隠れします。環境に配慮していない、ルールが守られていない企業は、結果的に企業価値が低下し、いずれ社会から見放されるかもしれないという危機感は、融資している金融機関や出資している株主には脅威以外の何物でもないのです。

回りまわって病院や介護あるいは教育などという分野では、環境経営とかコンプライアンス経営のことをおざなりにしているのではないでしょうか。介護報酬改定でLIFEのことが雑誌記事などで盛んに書き立てられますが、介護保険事業所のデジタル環境は問題満載の状態です。実際、スマートフォンが使えないと経営ができない時代です。

◎デジタル社会を形成する6つの法が成立しました

5月12日、国会で行政のデジタル関連6法案が成立しました。法律名は、デジタル社会形成基本法、デジタル庁設置法、地方公共団体情報システム標準化法、デジタル社会形成整備法、公金受取口座登録法、預貯金口座管理法です。これで日本はデジタル社会に向かいます。ただし、デジタル庁の発足は9月1日の予定だそうです。

あらゆる生活場面で変化が起こります。いずれマイナンバーカードは、身分証明書、公的本人確認証、健康保険証、介護保険証、そして運転免許証や医師資格等の公的資格の確認証と連動することになるのでしょう。ビックデーターが活用されようになることにより、大きな変化がおとずれようとしています。

デジタル社会を形成するためには人材の育成、教育・学習の振興が不可欠で、街中でスマートフォンやパソコンの無料研修会が開催され、どんなに高齢になっても操作が可能になるような学習が国中で奨励されることになるそうです。

先月「わたしはガラ携でいいの」とおっしゃる85歳の婦人に「来年からガラ携なくなります」と話すと「どうして?」と尋ねられたので「昔、ポケベルがなくなり、PHS携帯もなくなったでしょ」と答えたら「それじゃ勉強し直さないといけないのね」とのことでした。「面倒くさい」とか「わからない」ではすまない社会に変わるわけですので、親切丁寧に後期高齢者の皆様の学習を官民一体で進めて欲しいと思います。

◎変革をするために国民連帯が必要なのは社会保障と同じだ

どちらかというと全体主義的な社会は息苦しいので、わたしは勘弁願いたいと考えています。しかし、このパンデミックであらわになった米国中心の白人優位主義や自由至上主義(リバタリアニズム)とか、移民排斥や格差拡大を端緒とした社会の分断、そして力でねじ伏せ罰則を強化しなければ政府の呼びかけには応じようとしない人々が世界にあふれているというのだという感覚が、どうにかならないものなのかと考え込んできました。

緊急事態宣言下の東京では飲食店でのアルコール販売は中止要請があり、守らなければ罰則があります。それにもかかわらず、立ち飲み店に人だかりができていたり、大勢が公園で酒を飲みながら大声で話しているのを目撃してしまうと、要請しただけで規則を守る人が日本に多いといえるのかどうか、わからなくなってしまいました。我慢の限界なのかどうかという話では、済みそうもありません。

民主主義を社会保障が支えているのではないかという主張は、いずれ社会保障制度を民主主義が支えているという確証を求められることになると覚悟しています。その前に、今、政府の指示に多くの人々が暴動も起こさずしたがうのは、民主主義と社会保障がこの社会にしっかり根付いているからなのだという理解を共有する必要がありそうです。

仮に民主主義と社会保障が相互補完的関係にある社会を突き詰めて考えてみれば、この双方を支えているのは「連帯」なのだという当たり前の結論になるのではないでしょうか。ひとつ飛ばして考えれば、有事に政府が要請しただけで規則を守る人が多いは、連帯のたまものなのだということです。そして、この「連帯」が危なくなっているのです。

「分断の危機だとか」「民主主義の脅威だとか」「世界は新しいリーダーシップを求めている」などと論評している世界の知識人に、わたしは日本の民主主義と社会保障を正確に理解して欲しいし、わたしたちの連帯についての正当な評価を聴いてみたいという衝動があります。

結論は、カーボンニュートラルを実現するためにもデジタル社会を創造するためにも一層の連帯強化が必要なのだということです。これなくしては経済の再生どころか経済の維持も難しいと思います。そのためには民主主義と社会保障制度の堅持が必要で、この2つが機能しているのであればドラスチックな社会変革に耐えることもできるし、明確な処方箋を書くことも可能なのだといいたいのです。

社会医療ニュースVol.47 No.551 2021年6月15日